福岡県の南東部、耳納(みのう)連山の麓に位置する、うきは市吉井町。白壁通りが美しい街並みが続く。梅雨明けが発表された九州北部、本格的に夏が始まろうとしているこんな暑い日にぴったりなのが、素麺だ。吉井町でも製造のピークを迎えている。
名物は“水を食べる”素麺
例年よりも20日以上早く梅雨明けが発表された6月27日。白壁の町には夏の到来を告げる日差しが照りつけていた。

創業200年を超える老舗の製麺所『長尾製麺』。一部では幻の素麺と言われている『吉井素麺』を製造している。

『吉井素麺』は、7代目の社長、長尾洋介さんが27年前に生み出した大ヒット商品なのだ。長尾さんは「一般的な手延べ素麺と比べて違うところは、”油を使っていない”ということと”3日かけて作る”というところ」とその特徴を話す。

さらに「水分を欲しがっているときに、素麺って一番、食べたくなると思うんですよ。そうすると、”水を食べる”という素麺を作りたいと思ってですね」ときっかけを教えてくれた。

きれいな水と良質な小麦に恵まれた“麺どころ”、吉井の街で作られる”水を食べる素麺”。一体、どんなものなのか。製造工程を見せてもらった。
梅雨が明けると麺の作業が変わる
製麺所では、手作業で素麺生地が延ばされている。小引作業と呼ばれている行程だ。

長尾さんによると小引作業は、もともと15センチほどしかない生地を2メートルほどにまで延ばしていく作業なのだという。

一晩、熟成させて風味を出した生地を手で延ばす。油を使わないため乾きやすく、高い技術が必要だが、その分、水がよく染み、透明感が出て、喉越しがよくなるという。

「“門干(かどぼし)”という作業です。これは小引した素麺を2メートルまで延ばすんです。そして最終乾燥まで持っていく」と説明しながら長尾さんは、麺を吊るしていく。1本1本がくっつかないように手で1本1本を丁寧にほぐし、太さが均等になるように延ばしていく。そしてこのまま1日、乾燥させるのだ。
「麺づくりは私の使命」
梅雨が明けると麺の作業が、変わるという長尾さん。「気温が高くなると麺が柔らかくなります。水は、入れれば入れるほど柔らかくなります。塩は、入れれば入れるほど固くなります。それを利用して調整している」。

気温が変化しても1年中、同じ食感になるよう水と塩の配分の研究を続けている長尾さん。とことん美味しさにこだわった美しい素麺の誕生だ。箸をつける前に、既に涼しく感じる。

「長年、代々200年以上もやってきた仕事ですから、それを今ここでやっているということは、使命だと思っている。麺作りは必ずやらないといけないこと」と話す長尾さん。

先人たちの想いを受け継ぎ、1本1本に魂を込めて作る”水を食べる素麺”。この夏も多くの人の喉を潤してくれそうだ。
(テレビ西日本)