私たちの暮らしを支える電力。

関西電力が供給する電力の48%が、原子力発電で賄われている。

いま、この原子力発電で、大きな課題となっているのが、原発でウラン燃料をもとに発電した後に残る「使用済み核燃料」の行き場だ。


■行き場失う原発の「使用済み核燃料」プールはパンク寸前

国は「使用済み核燃料」の「再利用」、いわゆる「核燃料サイクル」を国策として掲げてきた。

しかし、現実は各地の原発の施設内に大量の行き場のない燃料が留め置かれているのが現状だ。

福井県にある原発の使用済み核燃料貯蔵プールの使用率は、美浜が73%、高浜が88%、大飯が90%となっている。

もし、関電が福井県などに示す計画通り、この使用済み核燃料を運び出せなければ、高浜原発が3年後、美浜と大飯が4年後には貯蔵プールが満杯になってしまう。


■使用済み核燃料が溜まる大きな要因 『未完』の再処理工場

パンク寸前の「使用済み核燃料」をどうすればいいのか。

各地の原発に使用済み核燃料がたまっていく大きな要因の一つに、青森県・六ケ所村にある「核燃料サイクル施設」が、いつまで経っても完成しないという問題がある。

国策で進められてきた「核燃料サイクル」。

発電しながら使った燃料よりも多くの燃料を生み出せる「夢の原子炉」・高速増殖炉の商業化が全く見通せない中で、現在進められている計画が、この六ケ所村で使用済み核燃料を再処理して加工し、再び原発で活用するプルサーマル発電だ。

六ケ所村の核燃料サイクル施設では、まず「再処理工場」で福井県を含む各地の原発から運び込まれた「使用済みのウラン燃料」からプルトニウムなどを抽出する。

そして、そのプルトニウムを燃料加工工場に移してウランと混ぜてMOX燃料に。

このMOX燃料を用いて再び発電する計画だ。


■移動中は撮影NG 厳戒態勢の施設内部へ

しかし、1997年に完成する予定だった「再処理工場」は度重なるトラブルや耐震工事の影響で27回延期され、いまだに稼働していない。(2026年度完成、2027年度稼働予定)

また、MOX燃料の加工工場についても、完成時期が8回延期され、まだ工事が続いている。

国内唯一にして“未完”の「核燃料サイクル施設」。

5月末、施設を運営する日本原燃から関西のメディア向けに撮影の許可が出され、その内部に入った。


まず通されたのは、施設から1.5キロほど離れた場所にある「六ケ所原燃PRセンター」。

核燃料サイクルにちなんで、ツカッテモ・ツカエルくんというカエルのキャラクターが出迎えてくれる。

館内に並ぶのは、施設内部を再現した大掛かりな展示。
その前で、核燃料サイクルの意義などについて説明を受けた後、施設へと移動することになった。

ただ、施設までの移動はセキュリティ上の理由で撮影が禁止に。
スマートフォンやICレコーダーといった電子機器の持ち込みも許されなかった。


■満杯の「貯蔵プール」 全国の原発から運ばれてきた「使用済み核燃料」

何度もセキュリティチェックを受けて、案内されたのは、厳重な警備体制が敷かれる再処理工場内部の「使用済み核燃料貯蔵プール」。

深さ12m、横27m×縦11mの3つプールは、およそ3000トンの使用済み核燃料でびっしりと埋まっていた。


ここに留め置かれているのは、本来すでに再処理されるはずだった使用済み核燃料。
このうち、4割が関電の原発から運ばれてきたものだという。

施設では、プールが満杯になったため、2016年に使用済み核燃料の受け入れを停止した。この影響で、各地の原発の敷地内には、行き場のない燃料がどんどん溜まっていくという現状がある。


そもそもなぜ、使用済み核燃料はプールで保管されるのか。
水で冷やし続けなければ、燃料が溶けだし放射性物質が拡散される恐れがあるからだ。

福島第一原発事故の時には、電源喪失で、プールを冷やせなくなり、昼夜を問わず水をかけ続けた。


■ゴミ捨て場のない「核のゴミ」

もう一つ、再処理工場には、今後の行き先が決まらない深刻なものが、保管されている場所がある。

高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」を一時的に保管する貯蔵ピットだ。

使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出した後に残る廃液。

福島第一原発事故や、水爆実験の際に飛散したセシウムやストロンチウムなど「死の灰」と呼ばれる「核分裂生成物」が含まれている非常に厄介な存在だ。

この廃液をガラスで固め、ガラス固化体にするのだが、それでも人が近づくと即死するレベルの放射線を放つ。そのため、金属性の容器に閉じ込め放射線を遮断する。


再処理工場の貯蔵ピットには、1830本の核のゴミが、およそ2メートルのコンクリートの下に、9本連なるように保管されていた。

六ケ所村の再処理工場が本格稼働しない中、日本の原発の使用済み核燃料をイギリスとフランスに運び再処理。
その際に出た『核のゴミ』が返還され、この場所に保管されているのだ。

仮に再処理工場がフル稼働すれば、さらに年間最大1000本の核のゴミが発生するという。


この核のゴミの放射能が人体に影響のないレベルに弱まるまでに数万年はかかるとされていて、国は最終処分地を決めて、地下300メートルに閉じ込める計画だ。

■村から運び出されない「核のゴミ」 決まらない最終処分地

国は「青森県を核のゴミ捨て場にしない」と30年前に約束。

六ヶ所村は、「30から50年」を期限として、核のゴミを預かることを承諾した。

しかし、約束の1つ目の節目である30年が経った現在も最終処分地は決まっておらず、核のゴミを運び出すことができていない。


この最終処分地は自治体からの「手挙げ方式」で決められる。
自ら手を挙げ、調査に応じた自治体は20億円の交付金を得ることができるという仕組みだ。

現在は、北海道の寿都町(すっつ)と神恵内村(かもえない)、佐賀県の玄海町で調査が実施されている。


■最終処分地 知事はいずれも反対

調査は3段階。地質図や論文などからデータを分析する「文献調査」、ボーリングで地質を調べる「概要調査」、地下の岩盤などを調べ建設に適した場所を選定する「精密調査」の順に進められる。

佐賀の玄海町では、第一関門となる「文献調査」が実施されていて、北海道の寿都町と神恵内村については、NUMO(原子力発電環境整備機構)が「概要調査」に進むことが可能とした「文献調査」結果を公表した。

次の調査に進むためには、地元の同意が必要だが、佐賀県も北海道も知事は反対の立場で、地元の理解が得られるのか不透明な状況だ。


■「最終処分地」の決定プロセスが抱える「国の無責任構造」

原子力・核燃料サイクル政策などを専門とする明治大学の勝田忠広教授は、この最終処分地の選定方式に大きな問題があると指摘する。 

【明治大学 勝田忠広教授】「最終処分地に名乗りを上げた自治体では、その中で混乱が起きてしまい、自治体や会社、あるいは家庭の中で、様々な分断が生じています。国はそれを黙って見ているだけですから、国としての責任がないという問題が1つあると思います」

「また調査をするだけで、地元に数十億円の交付金が与えられることになっている。経済的に困窮した自治体に問題を押しつけるという差別構造を前提としている問題もあると思っています」


最終処分地を決めるにあたっての3段階の調査には20年、建設には10年ほどかかるとされている。

調査から建設までの計30年という時間を考えると、青森・六ケ所村が約束した「核のゴミ」の一時貯蔵期限『50年』のタイムリミットは、約束から30年が過ぎた今、既に切れてしまったのではないかといった声もある。


■「村を核の最終処分地にしない」村長の決意

約束を前提に施設を受け入れた六ケ所村。
戸田衛村長は取材に対し、「村を核の最終処分地にはしない」という決意を語った。

【青森・六ケ所村 戸田衛村長】「国としても『青森県を核のゴミ捨て場にしない』という契約を守ってほしいし、村としてもそうありたい。そういう考え方でおりますから、私の立場から今言わせると、最終処分地になるということはあり得ないと思っております」

このままなし崩し的に、六ケ所村が最終処分地になるのではないか。

強い不安がありつつも、村民は複雑な気持ちを抱えていた。


■「貧しい村」を変えた「核燃料サイクル施設」

下北半島に吹き荒れる風「やませ」の影響を受け、育てられる農作物も限られる六ケ所村。

核燃料サイクル施設を誘致する前は、青森県の中でも一、二を争うほど「貧しい村」だったという。


【70代 漁師】「冬になれば、みんな出稼ぎに行くし、青森県でも最低の方の村だったんじゃないですか。それに比べれば経済的な面ではすごく潤っているし、良くはなってますよね」

【70代 元漁師】「土地、それから海、沼とか全部買収されてしまっているので、もう本当に反対して返してくれればいいのですが、そうはいかないわけですよね。買い占められていますので、今は(施設誘致に)賛成して良かったんじゃないのかなと自分では思っています。うちの子供たちは4人いるんですけど、みんな日本原燃の核燃料サイクル施設の中で働いています。娘の夫婦ともども全員働いています」

■交付金で生まれた施設と産業

これまで六ケ所村に入った原子力関連の交付金の総額は756億円(2023年度まで)。

村は、この交付金でおよそ33億円の文化交流施設や医療センターなど、公共施設を複数建設した。


さらに、農業など一次産業にも交付金や固定資産税で得られた財源を投下。
特産の長いもを使った焼酎をつくる工房も建設した。

「六趣」と名付けられた長いも焼酎は『幻の酒』と呼ばれ、村を代表する名産品となっている。

施設誘致後、村には第三セクターが運営する大きなショッピングモールも建てられた。

その中に入るスーパーのすぐ横には、経産省や日本原燃が核燃料サイクルなどをPRするブースも設けられている。


■「この事業がなければ村には戻らなった」施設が生み出した大量の雇用

核燃料サイクル施設が村にもたらしたものは、施設だけではない。
大量の雇用も生み出した。

核燃料サイクル施設では1日およそ8000人が働いている。
日本原燃の社員は3100人ほどで、そのうち、青森県出身者がおよそ2100人、村の出身が240人ほど在籍している。

さらに村内には、およそ1000人が暮らす日本原燃の社宅も立ち並んでいる。

およそ200室を要する大型ホテルも建設中だ。


日本原燃の子会社が運営する温浴施設「スパハウス ろっかぽっか」で働く村畑政子さんは、25年前、埼玉県の短大を卒業後、故郷である六ケ所村に戻ってきたという。

【スパハウス ろっかぽっか 村畑政子さん】「短大の時に村を離れていて、村に戻ってきた時に、全然知らない道路ができていたので、そこはすごいなぁと思いました。この事業がなければ、私の働くところはなかったので、きっと村には戻ってこれなかったのかなぁと思います」

■事故が起きれば影響及ぶ 恩恵の少ない隣町

立地自治体として交付金による恩恵を受けてきた六ケ所村。

一方で30キロほど離れた七戸町は、原子力関連の交付金は六ケ所村の6%ほど。

その七戸町で農業を営みながら町議会議員を務める哘清悦(さそうせいえつ)さんは、テロなどで大規模な事故が起きた場合、影響は六ケ所村に留まらないと心配していた。


【七戸町・農家 哘清悦さん】「放射能漏れ事故は、その市町村の境界線関係なく広がります。再処理工場があることによって入ってくる固定資産税とか、財政的なメリットが大きいのは六ケ所村であって、隣の周辺市町村との差は相当ある」

「ただ、事故があった場合に被害を受けるのは一緒ですし、周辺市町村というのは、六ケ所村と判断はやはり変わると思うんですよね。(事故が起これば)手に負えないようなものを我々が残してしまったということを考えると、自分がどうこうというよりもこれからの子供たちには申し訳ないという気持ちでいっぱいです」

■原発の電気 最も享受するのは大都市

五十嵐泰士さんは、酪農家の3代目。一族は、六ケ所村に核燃料サイクル施設が誘致される前から、およそ80年間、この地で酪農を営んできた。

【六ケ所村・酪農家 五十嵐泰士さん】「不安な気持ちは当然あります。安全というものは、世の中、安全に限らずだけど、100パーセントって言われるものはそんなにない。当然そういう事故もあり得る話」

「大都市で一番電力は使われているので、当然ね。そういう人たちが、核燃料サイクルをやっているのは、ここ六ケ所村ですよ、そこにはこうして酪農をしている人もいますよと理解してくれることが大切なのかなと思います」

立地自治体に多額の交付金を投下し、核のゴミ捨て場も決まらないまま、核燃料サイクルは推し進められている。

■商業化の見通し全く立たない「高速増殖炉」

この国の「核燃料サイクル計画」はもともと、六ケ所村の再処理工場でつくられたMOX燃料を高速増殖炉で再利用することを前提に作られた。

発電しながら使った燃料よりも多くの燃料を生み出せる「高速増殖炉」は、資源の乏しい日本で夢の原子炉と呼ばれている。

高速増殖炉は商業化に向けて、「実験炉」「原型炉」「実証炉」「商用炉」の4段階のステップを踏む。

しかし、日本では福井県敦賀市にある2段階目の原型炉「もんじゅ」が度重なる事故で2016年に廃炉となることが決定した。

国は2040年代に「実証炉」の運転開始を目指しているが、立地自治体や商業化の見通しは全く立っていない。


■六ケ所で再処理できない「使用済みMOX燃料」

さらに仮に高速増殖炉が実現し、稼働したとしても、高速増殖炉で使った後の使用済みMOX燃料は、使用済みのウラン燃料の何倍ものプルトニウムが含まれることなどから六ケ所村の再処理工場で再処理することはできない。
そのため、再び再利用を検討するとなると、新たな高速増殖炉用の再処理施設を建設する必要がある。

これは、現在国が進めている現行の原発でMOX燃料を使う「プルサーマル発電」でも同様で、使用済みMOX燃料は、六ケ所村で再処理することはできないのだ。

この使用済みMOX燃料の行き先について6月26日の会見で、関電の森望社長は「まだ何も決まったものはない」と語った。

プルトニウムの毒性はウランの20万倍にも及び、扱いもそれだけ難しいというリスクもついてまわる。

■実質破綻している核燃料サイクル 相次ぐ「撤退」 日本は継続

明治大学の勝田教授は、日本の核燃料サイクルは破綻していると指摘する。

【明治大学 勝田忠広教授】「一番の問題は、プルトニウムの需要が全くないにも関わらず、1950年代から変わらない供給ありきの政策を続けてるという点だと思っています」

「昔はプルトニウムを利用すれば無限のエネルギーを得られると考えられてはいました。しかし、現在は、その技術的な困難さとかコストの高さ、そしてセキュリティ上の問題から、その計画が遅れてしまって、ほとんどの国が撤退しています。しかし日本だけが、それらの問題を全く無視して進めていると思っています」

コストの高さなどから、アメリカやイギリスは核燃料サイクルから撤退した。


■仏から返還の「MOX燃料」 通常のウラン燃料の「約10倍」と試算

勝田教授の試算では、現状フランスで再処理され返還された海外MOX燃料を用いたプルサーマル発電でも、貿易統計から算出すると、通常のウラン燃料に比べ10倍のコストがかかっている。

【ウラン燃料に比べ 海外MOX燃料の価格は「約10倍」 勝田教授の試算】

・「ウラン燃料」アメリカから輸入(2013年)
4万529キロ 61億7673万3000円 1キロあたり15万2000円

・「MOX燃料」フランスから返還の高浜原発用(2017年9月)
1万576キロ 160億9091万5000円 1キロあたり152万1000円 

・「MOX燃料」フランスから返還の高浜原発用(2021年11月)
1万578キロ 175億3533万7000円 1キロあたり165万7000円

■六ケ所村で国産化すればコスト増 甘い試算でも20倍

加えて、勝田教授は六ケ所村の再処理工場などが稼働し、MOX燃料の「国産化」が実現したとしても、海外MOX燃料よりも、むしろコストが増える可能性が高く、ウラン燃料の「少なくとも20倍」になると予想している。

六ケ所村の核燃料サイクル施設はフル稼働で毎年「原発40基分800トン」のMOX燃料をつくることができるが、現状、プルサーマル発電が可能な原発は4基のみ。
国は、この数を2030年度までに12基に増やす方針を示しているが、MOX燃料のコストがかさむ中で、実現性は乏しい。

勝田教授はこうした現状から、再処理工場の稼働率は甘く見積もっても20%程度、原発8基分と分析する。

NuRO(使用済燃料再処理・廃炉推進機構)は、六ケ所村の再処理工場について、建設費や40年間の操業、廃止にかかる費用などを含めた総事業費は、およそ15.6兆円としている。また、MOX燃料の加工工場の総事業費は2.6兆円と公表している。

MOX燃料事業費用のうち、操業費用が稼働率に連動すると想定すした場合、稼働率20%で、コストはウラン燃料のおよそ20倍になるという計算だ。

すなわち、国産化すれば海外MOX燃料の倍の価格になるという。


【国産化でウラン燃料の「20倍」、海外MOX燃料の「2倍」勝田教授の試算】

再処理事業15.6兆円(うち操業費8.1兆円)、MOX加工事業2.6兆円(うち操業費1.5兆円)、再処理事業費用(返還廃棄物費用除く)とMOX事業費用のうち、操業費用が稼働率に連動すると想定。

■ウラン燃料(1キロあたり15万円)と比較

・稼働率20%で「20.52倍」
・稼働率50%で「9.87倍」
・稼働率100%で「6.31倍」

■海外から返還のMOX燃料(1キロあたり152万円)と比較

・稼働率20%で「2.05倍」
・稼働率50%で「0.99倍」
・稼働率100%で「0.63倍」


勝田教授の試算では、海外MOX燃料との比較において稼働率50%=原発20基分を下回ると海外再処理より高価となる。

前述したように、プルサーマル発電が可能な原発は現状でも4基しかなく、2030年の目標値も12基であり、再処理工場の稼働率が50%に到達することは考えにくい状況だ。

■MOX燃料コスト「商業機密につき回答を控える」と日本原燃 関電は「割高」と回答

MOX燃料のコストについて、日本原燃にも質問したが「商業機密につき回答を控える」との回答しか得られなかった。

また、同じくMOX燃料のコストについて関西電力に問うたところ「競争上の観点から具体的な回答は差し控えるが、MOX燃料はウラン燃料よりも手間がかかる分、割高」という回答が返ってきた。

関電は加えて「原子力発電コストに占める燃料費の割合が1割程度で、MOX燃料利用量が、原子燃料利用量全体の1割程度であることから、MOX燃料の利用による原子力発電コストへの影響はわずかなものと考えている」と説明している。

関電は原子燃料全体に占めるMOX燃料の割合が1割程度とするが、これは現行の数字であり、国の計画通りプルサーマル発電ができる原発の数が増え、六ケ所村の再処理工場の稼働率が上がれば、原子燃料に占めるMOX燃料の割合は増えていく。

そして、逆に再処理工場の稼働を抑えれば、その分MOX燃料の単価は上がり、さらにウラン燃料を使用した後の「使用済み核燃料」も六ケ所村で再処理されず、どんどん各地の原発の敷地内などで増えていく可能性がある。


■地震やテロによる事故 福島第一事故では「22兆円の国民負担」発生

また、勝田教授は、地震やテロなどにより万が一の「事故」が発生したときの費用が、原子力発電のコストに加味されていないことを問題視している。

【明治大学 勝田忠広教授】「2011年の福島第一原発事故では、22兆円の事故対策費用が発生しました。これは日本全国の国民が負担することになっています。利益は原子力関係者が得て、いざ事故が起こると国民全体で負担するという、この発電方法が果たしてコスト面で優位性があると言っていいのかどうか。社会的な、あるいは倫理的に問題がないかという疑問はあると思っています」


実質破綻している核燃料サイクル。
六ケ所村の再処理工場が28度目の正直で稼働すれば、その分、高レベル廃棄物=「核のゴミ」も増えていく。
日本原燃は、40年分の「核のゴミ」4万本を一時的に貯蔵するピットを建設できる用地を確保しているが、最終処分地は決まっていないため、この核のゴミを運び出す先がない状況だ。


■出口も決めず 継続の「原子力発電」 増え続ける「核のゴミ」

【明治大学 勝田忠広教授】「日本政府、特に経産省でありがちなのですが、核燃料サイクルは実質的に失敗なのですが、それを認めることができない体質がある。その失敗を認められないまま、ずるずるとMOX燃料が作られ、再処理工場がつくられ、自らを追い込んでしまっていて、さらに間違いを認めることができないというひどい状態に陥っている」

「普段の生活の中で「原子力発電」や「核燃料サイクル」といった言葉を耳にすることは、あまりないかもしれません。しかし、原発や、核燃料サイクルに手を出してしまった以上、その将来については、私たち現世代に責任があるという覚悟も必要だと思う。私たちが何も決定せず、無責任に判断を先延ばしするところを、次世代の人たちが見ているということを忘れてはいけません」

出口も決めずに、続けられる原子力発電。

増え続ける核のゴミ。

電気を享受する私たちが、見て見ぬふりをして、子や孫の世代に決断を押し付けていいのだろうか。

(関西テレビ 井上真一)

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