「誹謗中傷ホットライン」に相談500件

たびたび問題となる、インターネット上の誹謗・中傷。
誰もが気軽に使え、多くの人と交流できるSNSはすでに我々の生活に密着したものとなっているが、一方でその匿名性から心ない発言が横行しているのも事実だろう。

そんな中、違法・有害情報の流通を防止する活動などを行っている、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が、6月29日、「誹謗中傷ホットライン」を開設した。

(関連記事:ネットでの“誹謗中傷”に被害相談窓口を開設…投稿削除を要請する「基準」を聞いた

編集部では開設時に取材していたが、9月8日、セーファーインターネット協会はホットライン運用開始から2ヶ月間の活動報告を公開し、寄せられた相談件数が約500件あったことがわかった。

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改めて、このホットラインでは、投稿フォームから「誹謗中傷の内容」「誹謗中傷を受けたサイト名」「該当URL」などを記載して送信することで、自身が受けた誹謗中傷を相談することが可能。

相談は、原則として被害を受けている本人またはその保護者(本人が児童の場合)、及び学校関係者(本人が児童で就学中の場合)からとなる。
対象サイトは国内・国外を問わず、すべての投稿の削除は約束できないものの、複数回に渡って削除を依頼するとしている。

また「誹謗中傷にあたる」判断基準は以下の3点。

(ア) 対象情報から個人が特定可能であること
(イ) 対象情報から公共性がないことが明らかである又は公益目的の表現でないことが明らかであること
(ウ) 対象情報によって、特定された個人の社会的評価が低下させられるものであること


これらの条件を満たす投稿に対し、セーファーインターネット協会が内容を確認した後、誹謗中傷情報が掲載されたSNSやサイト掲示板の運営者などに削除の措置依頼を行う、というもの。

投稿に対してできるのはあくまでも「削除要請」までで、法的拘束力はないというが、相談者の不安に対して寄り添う相談機関になっている。
 

削除要請に対し削除率は37.8%

そして、今回公開された6月29日から8月31日までの約2カ月間の活動報告の詳細をみてみると、寄せられた相談件数は498件。
そのうち94%が本人からの相談、保護者からの相談は4.8%、学校関係者からは0.6%だったという。

寄せられた498件の相談のうち、「誹謗中傷に該当する」と判断されたのは、約2割となる102件。

残りの約8割を占める396件(内容重複の相談を含む)のうち、ハンドルネームによる誹謗中傷など「情報から相談者個人と特定できないこと」が199件。その他「社会的評価が低下する内容・侮辱的な内容とは言えない」「相談者が指定した投稿が特定できない」などの理由で、「誹謗中傷には該当しない」と判断された。
 

「誹謗中傷に該当する」102件の相談については、削除要請前にすでに削除された投稿などを除いた90件のうち、実際に削除されたのは34件。要請に対して削除率は37.8%となった。

2カ月で約500件もの相談が寄せられたことも驚きだが、誹謗中傷が確認された書き込みのうち削除要請をして削除された投稿は4割未満など、扱いの難しさを改めて感じる。

インターネット上の誹謗中傷問題の実情について、改めてお話を伺った。

今後は学校関係者にも周知すすめる

――約500件もの相談が寄せられた事について…

削除要請に該当情報が多かったり、限界事例が集まればリソース的に大変でしたが、今のところはまだ余力がございます。認知度を向上させる取り組みにも注力し、相談件数向上を目指していきたいと考えております。

また、今後は誹謗中傷被害者をはじめ、学校関係者や被害者支援に関わる皆様にも本ホットラインを知っていただく活動に力を入れていきたいと考えております。このような活動を通じ、お子様や学校現場での誹謗中傷被害対応にお悩みの方々の支援に繋げていきたいと考えております。


――「誹謗中傷にあたる」とされた相談にはどんなものがあった?

ご相談者様ご自身のSNSでUPした写真を悪用してなりすましSNSアカウントを作成され、そのアカウントでご相談者様を侮辱するような書き込みをされた例や、相談者様が勤務するお店の名前とご相談者様の名前を記載され、侮辱するような書き込みをした例などがございます。

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――では、相談の大半が「相談者個人と特定できないこと」で除外されたというのは?

ハンドルネームやSNSのIDなどのみですと、誹謗中傷された個人の特定ができないため、対象外となっています。
また、加害者の特定につきましては、基本的に必要ありません。削除以外の対応をご希望で加害者の特定をしたい場合には、被害者特定に役立つ情報提供を実施しております。

ハンドルネームやSNSのIDなどのみも対象としていくかなどについては、今後専門家にご相談しつつ、検討していく所存です。


――削除率は4割未満。残ってしまっている情報にはどう対処する?

削除率については、取りまとめの段階で削除が確認された削除率となります。取りまとめ後に削除されたものについては反映されていない他、削除されていない情報については複数回に渡って削除を依頼しております。


セーファーインターネット協会によると、今回寄せられた相談内容は「個人商店や学校、SNSなど地域やオンライン上の特定のコミュニティに深く属する人に対する誹謗中傷の相談が多い傾向」があったという。
 

コロナ関連の相談はわずか…「認知度の低さ」が課題

また、現在危惧されているのが、新型コロナに関する誹謗中傷。
SNSでは感染者を“特定”しようとする動きや、マスクの着用・外出の自粛などに関して議論が巻き起こることも少なくない。

しかし、今回ホットラインに寄せられた「新型コロナ関連」の相談はわずか4件だったという。


――新型コロナ関連の誹謗中傷は少ない印象ですが…

本取り組みは始まって間もない取り組みとなるため、認知度の低さがご相談件数の低さと考えております。今後は皆様に知っていただく取り組みについても、力を入れてまいりたいと考えております。

SIA専務理事の吉田が、内閣官房で開催されている「新型コロナウイルス感染症対策分科会 偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」に委員として参画しておりますので、当該WGで紹介される各機関の事情を把握した上で、各機関と必要な連携ができないか模索していく所存です。窓口の紹介などもその一つです。

削除依頼の他にも「相談して」

――寄せられた相談に対して、「削除要請中」など経過の報告などはした?

現状のリソースでは、削除要請を中心に取り組んでいきたいと考えておりますので、削除要請中や削除結果など、個別のご相談に関してのご連絡はしておりませんが、検討したいと思います。


――今後、ホットラインを利用したいという人へ…

顔が見えない相手から誹謗中傷されることはとてもお辛いことかと思います。
誹謗中傷ホットラインでは、投稿の削除以外にも、関係機関のご紹介やご希望する対処に関する情報提供なども行っておりますので、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。



実際に「誹謗中傷である」と判断されたのは102件だったが、ネット上の書き込みに苦悩する声は実に500件分も寄せられた、ということは見逃せない。

自身がこのような被害に遭った時はすぐに「誹謗中傷ホットライン」をはじめ相談機関を利用するなどの対処をすべきだが、その一方で、SNSをはじめ自分の書き込みが誰かを傷つける内容になっていないか、改めてネットリテラシーを考え直すことも必要だ。
 

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プライムオンライン編集部
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