SNSはもう一つの顔を持っている
この写真かわいい...「いいね!」、その意見に同意...「リツイート」。
SNSには、世界中の人々を夢中にさせる魅力がある。新たな情報を知るきっかけとなり、自分の投稿が共感されれば満足感も覚える。どんな反応が返ってくるか気になり、画面とにらめっこしてしまうこともあるはずだ。

だがその陰には、攻撃的・批判的な側面も隠れている。他者のマナー違反に目くじらを立て、主張に噛みつくユーザーもいれば、批判した側がネットで袋叩きに遭うこともざら。バッシングが過熱すれば、個人情報の特定や現実世界での嫌がらせに発展することもある。
悪質な言動や反道徳的な行為を「許せない」と思う気持ちはわかるとしても、対面では言わないような誹謗中傷が飛び交うのはいかがなものかと思うが、SNSからとげとげしい投稿がなくなることはない。

投稿して、反応を気にして、比較して...まるで何かに取り憑かれているかのようでもある。SNSが人々を夢中にさせる魅力や攻撃的になってしまう側面には、どんな心理的効果が隠れているのだろうか。
ネット社会における大衆心理などを研究し、著書も多数出版する、心理学者の榎本博明さんに話を伺った。
SNSは人々を「欲求」のとりこにさせる
――人々はなぜSNSに夢中になってしまう?
自分の思いを発信できることが快感となるためです。「自己表現の欲求」(自分がなりたい対象への思い)を満たすことができ、不特定多数に発信する場合は、反応があることで「承認欲求」(誰かに認められたい思い)も満たすことができます。このほか、人とのつながりは安心感を得ることにもつながります。「自分は孤立しているのではないか」といった、不安を解消する意味もあるでしょう。
――SNSの普及が、人々の心理的部分に影響したところはある?
SNSの普及で、ごく普通の人間でも、不特定多数=社会に向けて発信できるようになりました。その影響から、承認欲求のとりこになる人が増えていると感じます。現実では、非常識な行動をSNSに自慢げに投稿し、愚行がばれることがよくあります。公の場に発信すれば、とがめられてまずいことになるのは、分かるはずにもかかわらずです。承認欲求に駆り立てられ、冷静な判断力を失っていると思います。
欲求不満のはけ口として攻撃していることも多い
――ネット炎上や攻撃的な投稿が相次ぐのはなぜ?
独りよがりの正義感に駆られ、人や組織を糾弾するような投稿が目立ちます。投稿者本人は正義感に従って正しい行動を取っているつもりでしょうが、実は日頃の欲求不満のはけ口として、攻撃していることも多いと考えられます。
心理学には、「欲求不満-攻撃仮説」(人間は欲求不満になると攻撃衝動が高まる)という理論があります。日頃の自分の生活に納得がいかない、いわゆる「欲求不満状態」にあると、ネットで攻撃衝動を発散する機会を狙い、落ち度のある人や組織を探そうと目を光らせてしまうのです。ネット空間には匿名性など、現実の鬱憤を容易に晴らせる側面があります。それはネットの魅力でもありますが、恐ろしさでもあるでしょう。
――正義感や攻撃衝動に駆られてしまう要因は?
ネット空間は対面の状況と違って、臨場感がないため、相手のことを配慮せずに自分勝手な言い分を発信しやすい、一方的なことでも遠慮なく言いやすい、という面があります。特に匿名性が保たれる場合は、自分勝手なことを言って攻撃衝動を発散することともできるので、癖になりやすいと言えるでしょう。

――日本人ならではの心理的要因などはある?
日本人は相手の立場や気持ちを思いやり、傷つけること、主張をあからさまに否定することは言わない傾向があります。この心がけは優しい社会にもつながっていますが、気を遣って言いたいことを言えない、うっとうしさにもつながっていると考えられます。その点では、SNSは対面でのコミュニケーションと違い、相手に配慮せずとも伝えたいことを表現できます。
――SNSでは拡散された意見が支持されるケースも多い。これはなぜ?
非常に偏った情報が多いと分かっていても、知らないことはネットの情報に影響されてしまうものです。例えば、飲食店や宿泊場所の口コミは、店舗自体やライバル店舗の関係者、何らかの原因でイライラした客が偏った書き込みをすることがあります。
それを頭では分かっていても、口コミの評価は気にしてしまうものです。情報を受け取るときには、主張にしっかりとした根拠があるかを確認するべきでしょう。それでも、知らない分野や精神的に余裕がない場合は、他人の言葉を鵜呑みにしてしまうこともあります。
感情的になりそうなときは一呼吸を置こう
――SNSで攻撃されたときの対処法は?
ネットの書き込みに熱中するときは、感情に溺れていることが多いです。特に批判的な投稿をする人は攻撃衝動のとりこになり、正義感を振りかざす自分に酔っているところがあります。それは、ゆがんだ正義感でもあるでしょう。
そんな人は無視するのが一番です。感情的に反応すると、相手の感情がさらに刺激され、泥沼に陥ってしまいますし、冷静に理詰めで反論しても、感情的にいきり立つだけです。そもそも、ネット上の反応の世界に生きている人は、世の中のごく一部に過ぎません。反応すると、相手の感情を刺激するだけでなく、承認欲求も満たされ、ますます攻撃的になることも多いです。
――SNSで他者を傷つけないため、できることはある?
「ネットでは人間もつい感情的になり、冷静な判断力を失いがちになる」と肝に銘じておくべきではないでしょうか。何かを書き込もうと思ったり、書き込みに反応しそうになったとき、衝動に駆られても即座に行動せず、時間を置くことが大切です。
そんなときは、一度ネットから離れ、散歩したり誰かと話すなどして、リアルな世界を味わってみましょう。冷静さを取り戻せますし、ネットのことなどちっぽけに思えてくるでしょう。衝動のままに投稿を続けると、自分も反応した相手も意味なく傷ついてしまいます。

SNSでの話題には、ついつい、自分の意見を投稿したくなるものだ。共感してもらえれば嬉しいが、自分の投稿が攻撃されることもあれば、誰かを傷つけることもある。書き込みボタンをタップ、クリックする前には一呼吸置き、冷静な気持ちで投稿するように心がけたい。
