広島の交通系ICカード「パスピー」の終了で、支払いが“現金のみ”になった路線バスがある。
広島県庄原市では、市民の約9割が持つ地域カードを活用し、電波が届きにくい山間部でキャッシュレス決済を復活させた。
モビリーデイズ、「圏外」では使えない
2025年春、広島の交通系ICカード「パスピー」のサービスが終了し、県内では代替として広島電鉄の新システム「モビリーデイズ」などへの移行が進められてきた。

広島県北部に多くの路線を持つ備北交通は、広電グループに属するバス会社。現在はモビリーデイズを主な乗車券システムとして採用している。
ところが、東城エリアを走る備北交通のバスには、モビリーデイズのステッカーが見当たらない。理由は「通信環境」だ。
モビリーデイズは、利用のたびに読み取り機がサーバーと通信して決済を完了させる仕組み。そのため、電波の届かない山間部では利用できない。
実際、バスの車庫がある山の中でスマートフォンを開くと「圏外」の表示。通信に依存するシステムでは、使いたくても使えない状況がある。
だから「な・み・か」「ほ・ろ・か」
パスピー終了後、東城町内の路線バスの支払い方法は「キャッシュレス対応」から「現金のみ」に…。
そこで備北交通が導入したのが、庄原市民に広く浸透している2種類の地域カードだ。

「な・み・か」(いざなみカード)と「ほ・ろ・か」は、もともと市内の買い物や外食などで使えるキャッシュレス機能付きのポイントカード。
「ほ・ろ・か」は地域活性化の一環として6年前に導入された。後に加わった「な・み・か」と合わせると、人口約3万人の庄原市民のうち約9割が保有しているとされる。
美容院でもスーパーでも「便利よ」
地域に根差したこのカード、スーパーのレジなどで高齢者もスムーズに利用している。

「美容院や食堂、どこでも使えて便利がいいです。ICOCAを持っていない人もいるので」と話す地元住民。バスに乗車した高齢者に話を聞いても「ほろかカードは持っています」と答える。
一方で、日々の生活にICOCAのような交通系ICカードは“必要ない”という実情も。
庄原市にはICカード対応のJR改札がなく、ICOCAやSuicaが市民に浸透しているとは言えない。こうした地域においては、都市部と同じサービスを一律に導入するより、使い慣れた“地元型キャッシュレス”が合理的だろう。
備北交通は、簡易端末に目的地の運賃を手動で入力し、「な・み・か」や「ほ・ろ・か」を1回タッチすれば支払いが完了するシステムを整備。電波を必要としないシンプルな仕組みが、山間部にマッチしている。
「今あるカードで、バスに乗って」
山間部の移動手段を支える備北交通。通信環境が不安定でも「キャッシュレス」を復活させ、利便性を追求する考えだ。
備北交通・企画課の松浦春奈さんはこう話す。
「新たにモビリーデイズやICOCAを買うよりも、今、持っているカードでそのままバスに乗れるようにしたかった。お買い物や通院、お出かけなどでバスを気軽に使ってもらえたら」
庄原市の例は地域交通のひとつのヒントとなるかもしれない。利用者の暮らしに寄り添ったサービスこそ、真の“便利さ”ではないだろうか。
(テレビ新広島)