生徒の「伸びしろ」を見据えた高校教育へ — 上市高校「キャリバイト」の挑戦

アルバイトを通して職業体験を深める「キャリバイト」。富山県立上市高校が昨年から始めたこの取り組みは、従来のアルバイト禁止の「当たり前」を覆し、キャリア教育の新たな形として注目を集めている。生徒玄関に貼り出された介護施設や旅館などからの20もの求人票に、生徒たちは「自分もやってみたい」「バイトを通して社会について知りたいことを知っていけたら」と期待を寄せている。
実践的な社会経験を提供する「キャリバイト」

「キャリア」と「アルバイト」を組み合わせた造語「キャリバイト」は、就労体験を通して仕事のやりがいや人とのコミュニケーションを学ぶ機会を提供する。地元・上市町の企業が提供する求人に、これまでに33人の生徒が応募し経験を積んできた。

3年生の古川蒼紫さんは「廃棄されるタケノコをメンマにかえて売る仕事をしていた。お客さんを相手にする仕事だったので人と話すコミュニケーション能力がついた」と話す。賃金も得られるこの制度は、生徒たちから好評を得ている。
上市高校の総合学科では、情報ビジネスや福祉健康など生徒の希望に応じた分野に分かれ、専門性を磨く教育を行っている。毎年1学年の約3割が就職を希望することから、町や地元企業と連携した職場見学会なども開催し、キャリア教育を強化してきた。その成果として、就職希望者のほぼ100%が県内企業に就職するという実績も挙げている。

高校選択の変化と直面する課題
しかし、上市高校の今年の入試志願倍率は0.45倍と過去最低を記録した。安井基一校長は「2年連続で志願者が100人を下回る。厳しい状況は認識している。中学生やその保護者、中学校の先生に、総合学科というものの高校側の説明が足りなかったのでは。もっと高校側から出向いて説明をしていかなければいけない」と危機感を示す。
富山県内の全日制県立高校34校のうち17校が今年3月の一般入試で定員割れし、平均志願倍率は0.99倍と記録が残る1999年度以降初めて1倍を下回った。各校が「特色化・魅力化」を迫られる中、上市高校の取り組みは一つの答えともいえる。
中学生の進学意識の変化
中学生は高校選択においてどのような視点を持っているのだろうか。上市高校近くの中学生への取材では「上市高校は就職に有利と聞いたことがある」という意見がある一方で、「学力」や「好きな学科」「部活動」を重視する声も多かった。「距離は気にしていない」と遠方でも希望する高校を選ぶ傾向も見られた。
県教育委員会の調査では、高校選択で重視することの1位は「今の自分の成績に合ったところを選ぶ」(52.4%)、2位が「通学の距離や時間」、3位が「設置学科や学習内容」となっている。
富山大学の林誠一客員教授は「縛られて『これをやりなさい』というのではなく、好きなことができる学校を選ぶ傾向は強くなっている。だからこそ高校の魅力の発信が必要。『こんなことができる。普通科以上に自由度がある。選択できる』PRすることがすごく大事」と指摘する。
安井校長は「生徒の伸びしろを見ようと。偏差値輪切りではなく、入学してからどれだけ子どもが成長したか。なかなか数値に表せない部分だが、そこを見てほしい」と訴える。私立高校の授業料無償化の動きや県内の公私比率撤廃により、生徒は県立・私立を問わず選択する時代となった今、生徒が通いたい、学びたいと思える高校づくりが求められている。