古くからペットとして人間から愛されているネコ。地域で可愛がられている野良ネコもいる。だが同時に多頭飼育崩壊など、大きな社会問題も抱えている。問題解決に、新しい方法で取り組む獣医師を取材した。

県内で殺処分されたネコ445匹

多頭飼育が崩壊した一例(2019年7月に取材)。福岡県内の集合住宅の1室で飼われていたネコは22匹だ。

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飼い主の女性は、家の近くで弱っていた数匹を保護したが、不妊・去勢手術の費用が捻出できず、その後、ネコが予想外のスピードで繁殖していったと話す。相談する相手はいなかったという。

こうした現状を改善しようと立ち上がった獣医師がいる。福岡・那珂川市にある『にじのはしスペイクリニック福岡分院』代表の段上大輔さんだ。この病院では現在、社会問題になっているネコの過剰繁殖を抑えるために不妊去勢手術をメインにした病院を行っている。

環境省によると2023年度に福岡県内で殺処分されたイヌとネコは475匹。うち猫が9割以上を占めている。

なぜ、ネコが多いのか。段上代表によると、交尾排卵動物であるネコは、交尾をすると必ず妊娠するのだという。交尾の刺激で排卵が行われるため妊娠確率は、ほぼ100%とされているのだ。その妊娠確率の高さが、過剰繁殖や多頭飼育崩壊に繋がっている。

しかもネコは1年に最大4回の発情期があり、1回の出産で4~8匹の子ネコを産む。避妊手術をしなければ1年後には1匹が20匹に、2年後には80匹以上に、3年後には何と2千匹を超える計算となる。

福岡でも殺処分が相次いでいることを考えるといかに繁殖力をコントロールするかが課題だといえるのだ。

“移動式手術室”の登場で簡易に

そこで、この病院が新たに始めたのが『ニコワゴン』と名付けられた移動式手術室だ。ワゴン車の内部を改造し、ネコの不妊去勢手術をどこでも行えるようにした。

移動式手術室「ニコワゴン」
移動式手術室「ニコワゴン」

段上代表は「依頼者の方のなかには、近くに病院がないとか移動手段がないとか、そういうことで困ってる方がいるので、我々スタッフが直接、現地に伺うことでその問題も解決できる」と話す。また多頭飼育崩壊の現場も20~30匹のネコを病院に連れて行くというのは実際に困難だが、その現場に行くことで負担も減らせるのだという。

手術費は、一般の動物病院の半額以下にあたる1万円。保護団体などと連携し、できるだけ早く過剰繁殖や多頭飼育の改善に繋げるようにしている。

手術を行うのは獣医師で院長の安藤藍さん。「いっぺんにたくさんのネコの手術ができるので、スピード感があり、1回で全てが終わる。搬送の手間も省ける」と安藤院長はワゴン車を高く評価している。

地域のアイドル「さくらネコ」

この日、ニコワゴンが向かったのは、福岡・古賀市にある『保護猫カフェ MOCA』。このカフェでは月に1回、ボランティアと協力して過剰繁殖した野良ネコや多頭飼育崩壊の現場にいたネコを保護する活動を行っている。

「男の子8匹と女の子7匹ですね」。ケージに入れられたネコが次々にニコワゴンへと運び込まれる。「眠くなって、ぼんやりする注射を打って、籠のなかで眠ったら、籠から出して毛刈りをして、消毒して手術をします」と安藤院長はその手順を教えてくれた。1匹の手術にかかる時間はオスで約5分、メスで約20分だ。

休む間もなく手術が進められる。段上代表は「手術をすることによって数が増えるのを抑えることもありますが、それと同時に過剰繁殖が社会問題になっていることを伝えて、啓発することで次世代に繋げて、最終的にはネコの繁殖を抑えるのが目的」と話す。

手術が終わったネコは、再び捕獲されることを防ぐため不妊・去勢手術をした証として耳に切れ込みを入れ、いわゆる「さくらネコ」となる。

この日は、3時間ほどで合わせて15匹の手術が終わった。「きょうは、全然、少ないので楽でした。多いときだと30から40超えたり、ほとんど妊婦さんだったら夜までかかったりします」と優しくネコを見詰める安藤院長。

『保護猫カフェ MOCA』オーナーのの児島よし子さんは「送迎の手間が省けて、手術もたくさんして頂くし、無理を聞いて頂けるので、すごく助かっています」とニコワゴンのおかげで保護活動が格段にしやすくなったと話す。

「この状況のなかで、新しく生まれてしまうネコたちは過酷な環境で生きていかないといけないことになるので、それを抑えつつ、いま生きている子たちを手術して、限りある生を全うできるようにするのがやりがい」と段上代表は笑った。

ネコの察処分ゼロへ
ネコの察処分ゼロへ

移動式手術室「ニコワゴン」でネコの殺処分ゼロへ。挑戦は続く。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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