G7=主要7カ国首脳会議(6月15日―17日カナダ・カナナスキス)がまもなく開幕する。G7サミットはこれまでも気候変動対策や国際紛争、金融危機や食糧危機、パンデミックへの対応にむけ、共通目標や価値観を共有し、成果を首脳宣言としてとりまとめてきた。しかし、2025年は始まる前からあきらめの声が聞こえてくる。

毎年、G7サミットの開催前にはシェルパと呼ばれる各国首脳の代表が開催国に集い、サミットで取り上げる議題をめぐり水面下の協議を重ね、成果文書のとりまとめに向けた準備を進める。2025年のG7に向けても3月末に各国のシェルパがカナダのケベック州に集まり協議を行った。しかし、そこで開催国のカナダ側から示されたのは「トランプ政権と共通理解に達することは難しい」との認識だった。その理由としてカナダは各国に対し、関税や移民、気候変動対策などをめぐり対立や協議が続いていることを挙げた。そのうえで「6月のG7サミットでの首脳宣言見送りの提案」を行い、アメリカを含む各国からも異論は出なかったという。サミット開幕を目前に控え、ワシントンの外交筋は「首脳宣言を取りまとめようという復活の動きはない」とあきらめ顔で語った。
トランプ氏との衝突回避を模索
そもそもトランプ氏の保護主義的な姿勢は、G7が重視してきた自由貿易の理念とかみ合わない。首脳宣言のとりまとめをめぐっては、トランプ氏の第1次政権時代にも各国との首脳間で相違が出る場面があった。2018年にカナダ・シャルルボワで開かれたサミットでは、自由貿易をめぐる文言調整で難航しながらも首脳宣言が採択された。しかし、トランプ氏が数時間後に「承認しない」と表明し、首脳間のあつれきがあらわになった。

さらに2019年のフランス・ビアリッツでのサミットでは、環境問題に取り組むマクロン大統領が準備した会合に反発するトランプ氏が欠席する事態になった。この時も首脳宣言が見送られるとの見方も広がっていたが、ホスト国のマクロン大統領は各国の意見を踏まえ、わずか1ページの首脳宣言を急きょ取りまとめるという異例の対応を取った。今回、第2次トランプ政権と向き合う各国の首脳らにとっては、過去のトランプ氏の動きが教訓となることは違いない。

G7結束のカギは「日本」役割への期待
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降は、対露制裁とウクライナ支援の結束がG7連帯の象徴となってきた。だが2025年は「G6+1」という対立の構図になるとの見方もある。
第1次トランプ政権で国家安全保障会議担当の大統領補佐官を務めたフレッド・フライツ氏は、今回のサミットでのトランプ氏の立ち位置について「欧州各国に対し、ロシアのプーチン大統領に真剣な交渉を迫るよう圧力をかけるだろう。さらに和平合意後の欧州軍のウクライナ派遣などプーチン氏から合意を妨げる生産性のないアイデアを議論するのをやめさせるだろう」との見通しも示す。

一方、ウクライナ支援や関税政策をめぐる溝が埋まらないアメリカと欧州各国を結ぶ日本の役割に期待する声もあがる。
「G7の中で、日本は真っ先にトランプ政権と合意にこぎつけて、他国の見本となってほしい」(連邦議会議員)
「カナダや欧州と対立が続くトランプ政権にとって、日本がG7の結束に向けて各国との調整に回る機会が増えるだろう」(日米外交筋)
サミットでは、見通しが立たない首脳宣言とは別に、トランプ政権と折り合いをつけやすいAI=人工知能やレアアースなどの重要鉱物、量子技術、山火事対策など複数の個別分野での共同声明のとりまとめに向けて動いている。
2025年のサミットの開催地はトランプ氏が「51番目の州」と揶揄(やゆ)するカナダ。首相に就任したばかりのカーニー氏にとっては、各国の主張のとりまとめの腕だけではなく、ホスト国としてのメンツも問われることになる。
(FNNワシントン支局 千田淳一)