日本相撲協会を退職した元横綱・白鵬翔氏(40)が9日正午頃に都内で記者会見を開き、退職について「外の立場から相撲の発展に力を注いでいくことがいいと判断して、最終的には自分自身で退職する決断をした」と説明。注目されている今後の活動方針について「世界相撲グランドスラム構想」を明らかにした。

元横綱・白鵬氏(前・宮城野親方)は2024年に弟子の暴力問題について監督責任を問われ、部屋は閉鎖となり、2階級降格などの処分を受けた。その後、退職届を提出し、角界を離れることになった。

今後は世界相撲プロジェクトを推進する新会社設立後に代表に就任予定。

正午頃から行われた会見は、元横綱・白鵬のほか、最初に現・宮城野親方の杉野森正也(すぎのもり・まさや)氏(元横綱・旭富士)が同席した。

宮城野親方は冒頭、「本日付をもって白鵬が引退をしました。本人の意思がすごく堅く、引き留めることができなくて、ファンの皆さまには大変申し訳なく思っている。本人が相撲が好きで相撲を愛していて、相撲をやってきたことにすごく誇りをもっていると常々聞いています。これからも相撲を通じて社会貢献していきたい、相撲協会にも恩があるので応援していきたいと。それを(協会の)外からやっていきたいということで、その意思を尊重しながら話し合いをしてきました。引き留めることができず本当に残念でなりません。これからも白鵬翔に対してより一層のご指導とご鞭撻を切にお願い申し上げます」と挨拶。退席時には白鵬氏と握手、抱擁を交わした。

白鵬氏の冒頭の挨拶は次の通り。

白鵬氏:
相撲に愛され相撲を愛した25年でありました。この場をお借りして、私、白鵬翔は日本相撲協会を退職し、新たな夢に向かって進み出すことを皆様にお伝えいたします。
まずは、宮城野部屋が伊勢ヶ濱部屋に預かりになる事態を招いたことは、親方として改めて弟子たちや応援してくださった方々におわび申し上げます。
いろいろなご意見がありましたので本当に悩みましたが、いまの自分が置かれている状況を考えますと、協会の中ではなく、外の立場から相撲の発展に力を注いでいくことがいいと判断して、最終的には自分自身で退職する決断をいたしました。
横綱昇進のときに「精神一到を貫き、相撲道に精進いたします」と申し上げましたが、その誓いをいまも心に秘め、相撲道を極めたいという思いは全く変わっておりません。
今後は一相撲人として、今までお世話になった日本相撲協会の外の立場から相撲を発展させる活動をしてまいります。
宮城野部屋および宮城野部屋の弟子たちについて無責任ではないかとのご意見があることを聞いていますが、協会を退職したあとも宮城野部屋を継承いただく前伊勢ヶ濱親方や、関係する他の親方たち、協会とも密に連絡をとり、引き続き外の立場か弟子たちを見守り、応援していく所存です。
弟子たちに対する愛情は全く変わっていないことを、ここで重ねて申し上げます。

その後、会見には白鵬氏のほか、新会社設立後に法律顧問に就任予定の弁護士の水野晃(みずの・あきら)氏、同じく新会社役員に就任予定の森井理博(もりい・よしひろ)氏、永井明慶(ながい・あきよし)氏が同席した。

今後の活動について白鵬氏は、「相撲を世界に広げていくプロジェクトを中心に活動していきたい。いままで15回にわたり、白鵬杯国際相撲大会をやってまいりました。この白鵬杯をベースとして、日本のみならず世界中のより多くの人たちに相撲の魅力を広げる『世界相撲グランドスラム』という構想のもと、相撲を広げてまいります」と語った。

白鵬氏:
相撲はもともと天下太平、国家安全、五穀豊穣を祈念する神事でもあります。また精神や肉体を鍛え、礼に始まり礼に終わる、人々がどうあるべきかを導く道でもあります。
相撲の魅力はいま世間にある差別や偏見、争いごとを解消するための希望とできるのではないかと信じております。
この理念をもとに世界相撲グランドスラム構想を実現してまいります。

その後の報道陣との主な質疑応答は以下の通り。

──退職を決断した時期、弟子や家族の反応
白鵬氏:

3月から一門の親方衆から報告があって、そこで本当に悩んだ。そこで退職という形になったが、弟子たちは夏場所があったので、場所後に伝えた。
去年は20人の弟子がいて9人が引退した。そのあたりから弟子たちも私自身も本当に悔しいという思いがあった。
また、宮城野部屋が復活するということも皆さんに伝えた。もちろんこれは相撲協会の理事はじめ親方衆が判断するわけだから、外の立場から応援していくことを伝えた。
本当に私は燦然(さんぜん)と輝く歴史あるモンゴルで生まれ、この素晴らしい日本で成長し結果を出し、この両国の人々、また家族は、本当に私の後を押してくれたし、一相撲人としてまた応援していくこと、後押ししてくれることを満場一致で押してくれた。

──浅香山部屋に3場所残ったら来年には宮城野部屋を復活できるという話を聞いたときの思い
白鵬氏:

夏場所後半に浅香山親方から聞かされた。浅香山親方は一門の長でもあったし、本当によくアイデアをとってやってくれた。そういう話はあったが、確実な話ではなかった。

──東日本大震災の被災地に寄せる思い
白鵬氏:

3月11日が私の誕生日。当時26歳の誕生日の日に東京で怖い思いをしたが、東北の方々をテレビの映像で見て、本当にこれは大変なことだと。力士会会長として10年間、東北の方々を支援すると。関取衆がみな賛同して岩手の山田町、宮城の気仙沼、福島の会津で土俵、まず相撲に関わっている子供たちを応援することを10年間やった。そこで活躍した子供たちが白鵬杯や全国大会で活躍し、大相撲に入門している。

──世界相撲グランドスラムと大相撲との関係は
森井理博氏:

世界相撲グランドスラムはアマチュアの力士を応援していこうと。世界には150くらい相撲類似のスポーツがある。いまウクライナの子供たちが相撲することによって心の安寧を担保しているという大変素晴らしい取材をNHKさんがされていたが、まさにわれわれがやりたいのは、そういう相撲の力を存分に世界で発揮して裾野を広げていく活動をしたいと思っている。
大相撲にはトップのアスリートとしての力士がいる一方、相撲は本当に裾野の広いスポーツであり、生きる道でもある。世界中の人々に希望を与えることができるのではないかというのが白鵬翔の相撲に対する愛であり思い。そこをお手伝いしたい。

──5月場所中からいろんな人から慰留や励ましがあったと思うが、それでも気持ちが変わらなかった理由
白鵬氏:

4月1日で部屋預かりから丸1年が経った。このことは3月中に執行部で話し合いがあり、その方向を聞かされたときに、(部屋の再開が)いつというものが見通されず、また延ばすということが、今回の退職という形になった理由が大きいかなと思っている。
その中で去年から一門でいろんな案が出たし、弟子たちは大島部屋、元旭天鵬さんのところに行きたいという思いがあったが、それが「同じモンゴル出身だからダメだ」という声があったし、また、大島部屋でなければ他の部屋には行きたくないという弟子たちがいて、その中で9人が引退したいという原因がそこでもあった。
一門の元安美錦さん、安治川部屋は「新米部屋はダメだ」と。そこで元々一門の伊勢ヶ濱理事がいた。2007年に土俵入りを教えていただいた前伊勢ヶ濱親方のところに預かりという形になった。
報道でいろいろ書かれていたが、後輩である、同僚の照ノ富士が伊勢ヶ濱親方になることというのは、去年と今年の話でずいぶんズレがあるなと。
照ノ富士については私の父、それから私が部屋に入れたし、本当に後輩としてよく頑張ってくれた。照ノ富士の下では嫌だ、ということは全くない。

──「弟子の取材に身が入っていない」と思われた心当たりはあるか
白鵬氏:

3月に入ってからの会話だと思う。3月に話を聞いて、心の気持ちの揺れがあり、言葉や行動、私自身の、身が入っていないというのはあったかもしれない。
しかしながらこの一年間一緒に過ごした伊勢ヶ濱部屋、宮城野部屋の若い衆がどれだけ一生懸命やってきたかは知っているし、自信をもって言える。

──日本相撲協会との今後の関係性
森井理博氏:

本人はなかなか答えにくいかと思うが、世界相撲グランドスラム構想の中で相撲が持っている価値を世界に広げていくことを考えている。これは将来、大相撲に入る新弟子の候補を広げることにも、間接的には貢献できるのではないかと考えている。サッカーなどでも同じような構造になっていると認識している。
相撲人口が増えることが、トップのアスリートである力士が増えることになるし、そういった意味でも日本相撲協会さんともぜひ連携を取りながら、アマチュアの各連盟の皆様とも連携を密にしながらやっていきたいというのが、白鵬翔の強い思い。

──トヨタの豊田章男会長から激励の言葉をもらったとのこと
白鵬氏:

世界のトヨタですから、本当に感謝、うれしい気持ちでいっぱい。豊田章男さんは私のことは友人だと。大先輩が後押ししてくれることは本当にうれしく思う。

──退職について悔いはないか
白鵬氏:

悔いは全くありません。

会見の最後に白鵬氏は「本当に25年間ありがとうございました。また改めて準備ができ次第、発表させていただきたい。先ほど退職に悔いはないかと質問があり、もちろん弟子たちを近くで見ながら横綱大関になるのを見たいという思いもあったが、宮城野部屋が復活し、外の立場から応援し、相撲を世界に広げていけばいずれか一緒になる。また、相撲がオリンピック(種目)になる夢を見て、今後力を注いでいきたい、努力していきたいと思う」と話した。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。