福岡を拠点に活躍するハンドボールクラブの選手達が、朝は農業、夜はハンドボールと “二刀流”の生活を送っている。なぜ、現役のアスリート達が、毎日、農作業に従事しているのか?選手たちの1日に密着した。

ハンドボール選手と農業の“二刀流”

国内最高峰のリーグ、日本ハンドボールリーグに所属する「ゴールデンウルヴス福岡」。福岡県と佐賀県の県境にある自然豊かな街、糸島市を拠点に活動している。

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午前7時。選手達の朝は、JA糸島産直市場「伊都菜彩」から始まる。市場の中で働いていたのは、ゴールデンウルヴスの現役選手、佐藤陸選手(26)たちだ。

JA糸島産直市場「伊都菜彩」(福岡・糸島市)
JA糸島産直市場「伊都菜彩」(福岡・糸島市)

「『伊都菜彩』に持ってくる担当になったら、朝早い時間に野菜を持って来て、棚に並べてって感じです」と笑顔で話す。

ゴールデンウルヴスが育てた野菜は、主に「伊都菜彩」に出荷する。手際よく作業を終え、午前8時には、農場に向かう。広さは、約8ヘクタール。

1年を通じてレタスやキャベツ、玉ねぎなど、様々な種類の野菜や果物を育てている。

選手は、チームを運営する株式会社の社員として就農。「選手兼社員」というかたちで、農業を仕事に生計を立てつつハンドボーラーとしてプレイしている。「今まで農業はしたことなかった。普通に大学通って、ハンドボールをしていた」と話す佐藤選手。「本当に、何をすればいいのか分からなかったし、何でここに来てしまったんだろう?という感情にも一時期はなってしまった」と戸惑い、悩んだ入団当初の思いを清水響選手(23)も振り返る。

“引退後の生活”と“農業の課題”解決

なぜ、ハンドボール選手が農業なのか?この“二刀流”が始まったのは、10年前。きっかけとしては、アスリートが抱える「セカンドキャリア問題」だ。

「ハンドボールがなくなっても、引退した後、農業でやっていけるということで」と話すのは、「ゴールデンウルブス福岡」の代表、山中基さん。

どんな選手でも、アスリートとして活動できる時間は限られている。問題は、引退した後の長い人生をどう生きていくか、だ。生活への不安を抱えた選手たちの新たな活躍の場を提供するために、農業に現役時代から関わるようにしたという。

山中さんの挑戦は、実は、農業が抱える課題を解決することにも繋がっている。「農業従事者は、60歳を超えて70歳近い人ばかり。後継者不足が、かなり深刻。それを打開するためには、どんな形でも若手を農業の世界に送り込むというのが大事だと思う」と山中さんは自らの強い思いを語る。

農林水産省の調査によると、2024年時点の農業従事者の人口は、約20年前の2005年と比べて半減していて、その平均年齢は、69.2歳。高齢化が進んでいる。

高齢化による担い手不足など、多くの課題が山積する農業の世界に風穴を開けたのが、「ゴールデンウルヴス」なのだ。

とは言っても、クラブに入ってくる選手は、全員、農業は未経験。当然ながら最初は、戸惑うことだらけだったという。それでも「種から植えた野菜が、こんなにデカく、食べられるまでになって、それが美味しくできた時が嬉しい」と佐藤選手は、農業の楽しさや桑原海選手(25)。

桑原海選手(25)
桑原海選手(25)

ハウス一杯に咲き誇る花。「農地でできるものは、なんでも挑戦したい」と、2023年から花の栽培を始めた。

農場では、新しい選手も日々、作業をこなしている。

「最初は抵抗ありました。でも今は、そんなに…楽しいですね」と仕事への意欲をみせる若手に、4年間、農業の過酷さを経験してきた先輩は、「まだまだ、大変なのは、これから。夏が特にハウスなので、気温が上がって暑いので」と声を掛ける。

その日の夜7時。福岡市城南区の体育館では、日中の作業を終えた選手たちが、息つく間もなくハンドボールの練習に躍動していた。

「空中の格闘技」とも呼ばれるハンドボールは、練習とは思えないほど、激しい動きの連続だ。体力的には「全然、大丈夫」と話す選手たち。

「ゴールデンウルブス福岡」練習風景(福岡市)
「ゴールデンウルブス福岡」練習風景(福岡市)

農家である同時にトップアスリートの集団でもある「ゴールデンウルブス福岡」。異質な二刀流の挑戦を続ける選手たちの活躍に注目が集まっている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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