9年間クローゼットにしまわれていたウェディングドレスが、子どもたちの特別な衣装として新しい命を吹き込まれる。富山県の南砺市に住む神野さん家族と、上市町のハンドメイド作家・村上江奈美さんの手によって生まれた家族の絆を深める感動の物語がある。
「本当に結婚式以来、9年ぶりに出してきた」思い出の一着との再会
南砺市に住む神野夢來さんは、結婚式以来9年間しまっていたウェディングドレスを子ども部屋から取り出した。ブルーの収納ボックスには「ウエディングドレス 2016.5.28」と手書きで記されている。
「見たことないもんね、開けてないもの」と夢來さんが箱を開けると、白いドレスが姿を現した。夫の剛さんも「こんなが着とったかなー」と懐かしそうに見つめる。あれから時が流れ、神野さん家族は5人家族になっていた。

「自分にしかできないこと」思い出をつなぐ特別なリメイク
上市町に住むハンドメイド作家の村上江奈美さんは、キッズ向けのフォーマルブランド「ufu(うふ)」を先月立ち上げた。結婚式の思い出を子どもへ受け継ぐ新しい形をつくりたいという思いからだ。

「どうにかしたいと思っている人は多いと思うが、タンスの肥やしじゃないけど、クローゼットに眠っている状態の方が多いとずっと思っていた」と村上さん。ウェディングドレスの裁縫の仕事を請け負ってきた経験を活かし、使われなくなったドレスやベールを子どものドレスやファーストシューズへとリメイクしている。

「お揃いの服が欲しいとずっと言っている」姉妹の願いが叶う
神野家では、1歳になった次女・未桜ちゃんの記念のベビードレスと、7歳の長女・希呼ちゃん、5歳の長男・比呂くんの服も作ってもらうことにした。3人ともママのドレスを使ったお揃いコーデだ。
「お揃いの服が欲しいとずっと言っている。年も離れているので、お揃いは喜んでくれると思う」と夢來さんは期待を寄せる。
自分のために選んだ一着だからこそ、はさみを入れる瞬間は緊張する。「入刀します」と村上さんの声に続き、夢來さんも「ハサミ入刀します」と覚悟を決めた。
「ただリサイクルではなく、感動する体験」を届ける
村上さんのアトリエでの最後の仕上げ。「ビーズ外す時とか、本体にハサミを全部入れてという作業の時は、気持ちを引き継ぐみたいな責任感を感じながら作った」と話す。
完成したドレスを見た瞬間、夢來さんは「わぁ!すごい!かわいい!」と喜びを爆発させる。姉の希呼ちゃんのドレスは、胸元にママと同じビーズやパールを散りばめ、スカートはベールをふんだんに使用。妹の未桜ちゃんのリボンは特注で、希呼ちゃん念願のお揃いを実現した。
男の子の比呂くんは、柔らかなサテンのベスト。ママのドレスの土台の生地を使い、ボタンも同じ生地でくるんで、可愛くなりすぎないスタイリッシュなデザインに仕上げた。

天国のお兄ちゃんへの想いも込めて

そして、もう一つ特別な思い出が形になった。神野家には、もう一人、生まれてくるはずだったお兄ちゃん夏輝くんの命があった。「妊娠5ヶ月でお別れすることになって」と夢來さん。村上さんは、その思いも受け止め、同じドレスの生地を使ったリボンに夏輝くんの名前を刺繍した。

結婚10年を前に、家族の絆を深めた特別な1日。「家族みんなでエイエイオー!仲良くやってこうね」と夢來さんは笑顔で声をかけた。
「ただリサイクル再利用ではなくて、感動する体験を提供できるのはありがたい」と村上さん。ドレスを身につけた子どもたちのはにかんだ笑顔に、家族の新しい記憶が刻まれた瞬間だった。