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子どもたちがどんぶりを前に笑顔で食事をする光景が広がる。富山県氷見市の諏訪野地区にある「サーブ子ども食堂」は、元小学校長の澤武俊一さん(64)が今年4月に開設した。親子丼、牛丼、そぼろ丼と3種類のメニューから子どもたちは好きなものを選ぶ。

「おいしいし、愛情がたくさん入っています」と目を輝かせる子どもの言葉に、澤武さんも満足そうな表情を浮かべる。

教員時代に見た「夏休みに痩せてくる子ども」

澤武さんが子ども食堂を始めたきっかけは、38年の教員生活で目にした子どもたちの姿だった。

「見るからに食べられていないなって子に会いました。学校では給食をたくさん食べさせて、ルール違反だけど持ち帰りもさせてカバーしたんです。でも、夏休みに痩せてくるんですよ」

経済的に恵まれなかったり、DVやネグレクトを受けたりする子どもたちが、学校から離れる長期休暇中に困窮する実態を目の当たりにしてきた。

「公教育の限界というか、これ以上入っていけない部分があるので、何か自分でできることはないかと考えていました」と澤武さん。長年温めてきた思いを定年退職後に実現させた。

定年後に調理師免許取得、家族や地域も協力

子ども食堂のため、澤武さんは雄峰高校専攻科で2年間学び、調理師免許を取得。メニューは自らが考案し、家族や地域の人たちも調理を手伝う。

「子どもたちに選択してもらおうと思って、いつも複数のメニューを用意しています。好き嫌いがあるものですから」

食堂で提供するご飯は、澤武さん自身が育てた米を使用している。震災で自身の水田の一部が被害を受けたため、今は別の田んぼを借りて米作りを続けている。

子どもたちと地域をつなぐ居場所に

月に一度のオープン日には、近所の人や教え子たちであっという間に満席になる。先月は約60人の親子が訪れたという。

「子供たちに無料で提供してもらえて、親も助かります。食の楽しみを味わわせてもらえるので、すごく感謝しています」と訪れた親は話す。

元教え子は「いろんなことに挑戦してみようということを教えてくれる先生だったので、子どものためにと一生懸命考えられたのはすごく伝わってきます」と澤武さんの姿勢を評価する。

夏休みは週に一度開催へ

「教員時代に困っている子どもが夏休みに痩せてくるのが現実にありました。だから夏休みは毎週やります」と澤武さん。食事を提供するだけでなく、元教員の経験を生かし、勉強や科学作品などの相談にも応じる予定だ。

澤武さんは「誰でも気軽に立ち寄れる場所」を目指していて、次回の子ども食堂は今月28日に開かれる予定だ。

夏休みなどに困窮する子どもたちの姿が浮かび上がるという現実は、地域社会全体で共有し、支えていくべき課題なのかもしれない。

富山テレビ
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