愛知県大治町に本社を構える、側島製罐(そばじませいかん)は、明治時代に創業した老舗の缶メーカーだ。「親子の絆を深める缶」や、「自動車の盗難を防ぐ缶」など、ユニークな商品を続々と開発し、ヒットさせている。社長の「良い人生からしか良い仕事は生まれない」という考えから、商品だけでなく、社員の仕事のやり方もユニークだ。

■有名企業からも厚い信頼…側島製罐が手掛ける高品質の缶

愛知県大治町が本社の側島製罐(そばじませいかん)は、明治時代に創業した老舗缶メーカーだ。

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工場では、熟練の職人が加工・検品までを行う。その確かな腕が評価され、東海エリアの有名企業からの信頼も厚い。

側島製罐の石川貴也代表:
うちの製造実績でいくと、例えばシェ・シバタの缶。鉄の素材の特徴を生かしてキラキラ光るようにできる。高級感を演出できる意匠性の高さが選んでいただくところのポイント。

東海エリアを代表するトップパティシエ、シェ・シバタの柴田武シェフも側島製罐が作る缶の品質を高く評価している。

2025年の冬にジェイアール名古屋タカシマヤで開催された、チョコレートの祭典「Amour du Chocolat!(アムール・デュ・ショコラ)」で販売した商品に、シェ・シバタは側島製罐が作った缶を使っていた。

シェ・シバタの柴田武シェフ:
ショコラもチョコレートのボンボンなんか入れてもすごく人気で、強度があってやっぱり缶は商品がちゃんと保たれる良さがある。あとはお客さまの思い出になったり、後に残るというところで、缶ブームは定着しつつある。

アムール・デュ・ショコラの女性客:
大切な人へのプレゼント。見た目だけでも高級感があるので良いかなと。

別の女性客:
紙(容器)はすぐ捨てちゃうイメージあるけど、缶は他のものを入れて使うから、缶だと買っちゃうかも。

一緒にいた女性客:
缶の方が特別感があると思います、本命用みたいな。

別の女性客:
「義理は紙」だね。本命は缶。

包装資材の最高級品といわれる缶は、贈り物にもピッタリだ。

側島製罐はシェ・シバタ以外にも、名鉄商店のオリジナル土産や、海苔の老舗・浜乙女、三重のカメヤマローソクなど、数々の有名企業の缶を手掛けている。

側島製罐の石川貴也代表:
横にもデザインが入っているので、立てても結構かわいい。さすがカメヤマローソクさんって感じ。我々も作らせていただくのはわくわくしますよね。お客様の新しい企画に携われるのは嬉しい。

■「AcarN」に「Sotto」…自社オリジナル商品も次々開発

企業の缶を製作するだけでなく、自社のオリジナル商品も評判だ。2025年1月に発売し、即完売したという缶「AcarnN(アカン)」は、一見なんの変哲もない缶だが、近年増加している「リレーアタック」を防止するために作った。

「リレーアタック」は、家の中などに保管してあるスマートキーから出る微弱な電波を特殊な機械で“リレー”し、車の鍵を開けて盗む自動車盗の手口だ。

愛知県は車の盗難が多く、警察庁の調査では2023年の盗難件数は698件で、全国ワースト2位だった。盗難の被害を防ごうと開発したのが、スマートキーからの微弱な電波を遮断する「AcarN」だ。

側島製罐の石川貴也代表:
僕らの方で、名古屋市の研究所に行って実際に実験した。どの素材が電波の遮断率が高いかとか。サテン材という素材で、この素材を使ったものが、一番遮断率が高かったので、この素材を採用しました。

本当に電波が遮断できるのか、実験的に見せてもらうと、実際に「AcarN」にキーを入れて、車のドアノブを触ってもドアは開かなかった。

側島製罐の石川貴也代表:
キーから微弱な電波が出ていて、これが車に近づいた状態でここを触ると、効くわけですよね。この缶の中に入れて、これで触るとどうなるかというと全く効かない。うんともすんともいわない状態になるので、ちゃんと電波が遮断できているというものです。

Q.他の缶だとドアが開いてしまうのか?
側島製罐の石川貴也代表:
可能性はなきにしもあらずですけど、ただ、何もしないよりはかなり電波の遮断はできる。

カラーバリエーションも豊富で、新車を購入した家族や友人への贈り物にも人気だという。

こうしたアイデア商品は他にもある。「Sotto(ソット)」は、「親子の絆を深める」がコンセプトの缶だ。

側島製罐の石川貴也代表:
お子さんの思い出の品、例えばファーストシューズとかへその緒とか、初めて使ったおくるみとか、そういうものを入れていただく専用の缶として開発したものですね。

親子の思い出を大切に“そっと”閉まっておくことができることから名付けた。

実際に側島製罐の社員も使っている。

「Sotto」を使っている側島製罐の社員:
0歳の時から進級する時の賞状とか全部入れてあります。普段忙しくて、全然綺麗に整頓できないので保管できるし劣化もしないし、そこがすごくいいです。

「Sotto」は、2024年からは写真を缶にプリントするサービスも始めていて、思い出をより鮮明に残せると、好評だという。

■処分するつもりの「カラフル缶」がSNSでバズってアイデア缶の開発へ

石川さんが側島製罐を継いだのは、2020年のことだ。そこからアイデア缶の開発を始めたというが、きっかけがあった。

側島製罐の石川貴也代表:
最初僕が家業のために帰ってきたときに、整理整頓やっていたんですよ。本当にまさに奥の方を見ていたら、カラフルな缶がたくさん出てきて「いや、もうそれ全然売れなかったのよ」って言われて、捨てるしかないかって思ったときに、最後何の気なしに、SNSにその写真撮って「全然売れなかった缶が廃棄です」みたいなツイートをしたらすごいバズって反響を呼んだのがきっかけ。

元々は企業向けに開発していたというカラフルな缶が余剰在庫となり、廃棄する際に軽い「ぼやき」としてSNSに投稿したところ、注目を浴びた。

そこから改良を重ね、今では年間100万個を売りあげる大ヒット商品に成長した。

■給与は「自己申告型」…社長「良い人生からしか良い仕事は生まれない」

それがきっかけで、今では個人で楽しめるアイデア缶を続々と開発している。「AcarN」を開発したのは、2024年4月に入社したばかりの伊東絵美さんだ。

「AcarN」を開発した伊東絵美さん:
声をあげたらなんでもやっていいよってスタンスで、代表がいってくれるのでやらせていただきました。

側島製罐の石川貴也代表:
やっていただいているというのが正しいです。デザインこうなっているんだっていうのを途中で知るぐらい。最後こうなったんだって終わった後に知るみたいなのもあります。

パッケージや缶のデザインを担当しているのは、入社3年目の木原綾さんで、入社間もない社員だけで「AcarN」を作り上げた。

木原さんは、会社のカタログやパンフレットも1人で製作していて、元々外注していた商品撮影も独学でカメラを勉強し、全てを内製化することに成功したという。

このように側島製罐は社員の挑戦を全力でバックアップしているが、さらに挑戦しやすい環境を作るため、給料も「自己申告型報酬制度」を導入している。

「AcarN」を開発した伊東絵美さん:
自分たちで目標を決めて「この金額でお給料が欲しいです」っていう形でやっています。

半年間の目標を設定し、それに見合った給料を自ら申告する制度だが、全国的にも珍しいこの制度を導入したのには、理由があった。

側島製罐の石川貴也代表:
元々はすごく雰囲気が悪い、暗い会社だったんですよ。僕が帰ってきたときはみんな下を向いて働いていて。良い人生からしか良い仕事って生まれないと思うんですよ。社員のひとりひとりみんなが良い人生歩んで、他のお客様とか同僚に喜んでもらえるようなことを頑張ってやって、それの対価としてお金だったりとか喜びの声だったりとかっていうのを積み上げていくっていうのがいい仕事でありいい経営だと思っている。みんなが豊かになっていくような経営にしたいと思ってやっています。

この経営方針が功を奏し、今では社員ひとりひとりが、“缶愛”あふれる素敵な会社へと変わりつつある。

2025年2月20日放送

(東海テレビ)

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