北朝鮮による拉致被害者・横田めぐみさんの父・滋さんが亡くなって、6月5日で5年となった。母・早紀江さんが開いた会見で取り出したのは、滋さんが大切にしていた“クシ”だった。滋さんがなぜ大切にしていたのか、そのワケも話された。
拉致される前日…めぐみさんが父・滋さんに贈った“クシ”
「心境はどんなと言われても、変わらない悔しさが、ただ悔しい。解決できない悔しさ」
横田滋さんが亡くなり、6月5日で5年となるのを前に、現在の心境を「悔しい」と振り絞った妻・早紀江さん。

その早紀江さんが会見場で取り出したものがあった。それが1本のクシだ。
「このクシは、お父さんに『オシャレしたほうがいいよ』とめぐみちゃんがプレゼントしたクシ。もうボロボロになっている。ここの皮がめくれちゃって。どこにでもあるクシだが、お父さんは大事にしていた。いつもポケットに入れて」

45歳の滋さんの誕生日にめぐみさんが渡したプレゼント。滋さんの誕生日は、めぐみさんが北朝鮮に拉致される前日、11月14日だった。
滋さんは2012年に「めぐみがいなくなった前日が私の誕生日だったわけですけど『お父さん、もっとおしゃれに気を付けてよ』なんて言って、携帯用のクシを持ってきたんです。そんなことにまで気が回るようになったのかなと思っていたら、その次の日にいなくなったので」と話していた。
「私も会えるかどうか分からない」政府の動き見えず焦り募る
娘の帰国を願い、全国を飛び回り訴え続けた滋さんが87歳でこの世を去って5年。89歳になった早紀江さんは毎日、滋さんの写真に話しかけているという。

「お父さんには『本当にダメだよね、全然分からない、動かない』とイライラしながら、頭をなでたりしながら写真に向かってつぶやいている」
事態が動かない中、5月、開かれた国民大集会で「何としても突破口を開くべく、首脳同士で率直に話し合い、正面から向き合わねばなりません。北朝鮮に対してこれまで行ってきた様々なルートでの働きかけを一層強めてまいります」と、日朝首脳会談への意欲を示した石破首相。
しかし、早紀江さんは「救出のために動いてくださっている中身が私たちは分からない」と、政府の動きを家族が知らされることがない現状に焦りだけが募っていた。
25年2月には、拉致被害者・有本恵子さんの父・明弘さんが亡くなり、帰国を果たせていない拉致被害者の親は早紀江さんのみとなった。
早紀江さんは「私も会えるかどうか分からないと思っている。会いたいけどね」とこぼす。
「こんなになるまで…」めぐみさんに伝えたい“滋さんの思い”
娘との再会へ時間がないという切迫感を抱えながらも、早紀江さんには、めぐみさんに伝えたいことがある。

「めぐみさんが帰ってきたら喜ぶと思う。『お父さん、こんなになるまでクシを持っていたよ』と、『いつも胸に入れて銀行に通って、とかしていたんだよ』と言ってあげようと思ってとってある」
めぐみさんにその言葉を届けることで、人生の半分を救出活動に捧げた滋さんの思いに報いたいと早紀江さんは考えている。
(NST新潟総合テレビ)