ロンドンは、アートを愛する人にとってはまさに理想の都市。ナショナル・ギャラリー、テート・モダン、V&Aなど、世界的に知られる美術館が点在し、その規模と内容に圧倒されます。

けれども、観光シーズンのこの時期、どの館も多くの来場者でにぎわい、ゆっくりと作品に向き合うのはなかなか難しいものです。

そんな中、今回紹介したいのが、ロンドン中心部にあるコートールド・ギャラリー(The Courtauld Gallery)です。静かな環境で名画をじっくり楽しめる、アート好きにこそ訪れてほしい美術館です。

今年5月からの特別展

その、コートールド・ギャラリーで、バーミンガムのバーバー美術館の改修に伴う特別展示が始まりました。先月下旬にはメディア向けオープニングが開催され、限られた期間だけ展示される選りすぐりの名画が並びました。

5月に行われたメディア説明会
5月に行われたメディア説明会
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本記事では、私がロンドンで一番お気に入りであるコートールド・ギャラリーの印象派からルネサンスまでを網羅する常設展の魅力とともに、現在開催中のバーバー美術館の展示について紹介します。

サマセット・ハウスにたたずむ「美術の静域」

コートールド・ギャラリーは、テムズ川沿いの18世紀建築・サマセット・ハウス内にあります。ロンドン大学附属のコートールド美術研究所と併設されていて、美術史の研究拠点としての顔も持ちながら、一般にも公開されています。

コートールド・ギャラリーがはいるサマセット・ハウス (©The Courtauld )
コートールド・ギャラリーがはいるサマセット・ハウス (©The Courtauld )

大英博物館やナショナルギャラリーなどに比べて展示室はコンパクトですが、作品との距離が近く、落ち着いた空間で名画とじっくり向き合えるのが魅力です。

(©The Courtauld )
(©The Courtauld )

そして何よりうれしいのは、“空いている”ということ。ロンドンの美術館の多くが入館無料なのに対し、ここは大人£10〜と有料。だからこそ、観光客が押し寄せることもなく、静かにアートと向き合える空間が保たれているのです。

印象派を中心に広がる、多彩な常設コレクション

コートールド・ギャラリーといえば、やはり印象派・後期印象派のコレクションです。

特に有名なのが、エドゥアール・マネの《フォリー=ベルジェールのバー》。展示室に足を踏み入れると、この作品が放つ静かな存在感に目を奪われます。

エドゥアール・マネの《フォリー=ベルジェールのバー》 (©The Courtauld )
エドゥアール・マネの《フォリー=ベルジェールのバー》 (©The Courtauld )

そのほかにも、モネ、セザンヌ、ゴッホ、私が個人的にも好きなモディリアーニやロートレックなど、近代美術を代表する画家たちの傑作が並びます。

ゴッホの《包帯をした耳の自画像》(©The Courtauld )
ゴッホの《包帯をした耳の自画像》(©The Courtauld )

セザンヌに関しては、イギリス国内最大級のコレクションを誇り、特に印象派好きにはたまらない空間です。

ルネサンスから中世まで、静かに語りかける名画たち

印象派だけでなく、館内にはルネサンスから18世紀までの宗教画や歴史画、装飾芸術も充実しています。ルーベンス、ブリューゲル、ボッティチェリなどの作品が展示されており、どれもがじっくり鑑賞したくなるものばかりです。

ルーベンスの《ヤン・ブリューゲル(父)の家族》 (©The Courtauld )
ルーベンスの《ヤン・ブリューゲル(父)の家族》 (©The Courtauld )

また、中世・初期ルネサンスの絵画や工芸品を紹介するギャラリーや、20世紀美術を展示する一角もあり、コートールドの所蔵の幅広さが伝わってきます。

バーバー美術館の名品が加わる

そんな充実した常設展に、いまだけの特別な展示が加わっています。

先月23日からバーミンガムにあるバーバー美術館(The Barber Institute of Fine Arts)の改修に伴い、そのコレクションの一部が期間限定で公開されました。

先月始まった<バーバー美術館inロンドン展>
先月始まった<バーバー美術館inロンドン展>

今回展示されているのは、ルーベンス、モネ、ドガといった国際的な巨匠の作品に加え、イギリス美術ファンにはたまらないJ.M.W.ターナーの風景画、ロセッティの人物描写、そしてウィスラーの作品。

ロセッティの《青い小亭(こてい)》 (©Barber Institute of Fine Arts)
ロセッティの《青い小亭(こてい)》 (©Barber Institute of Fine Arts)

追加料金なしでこの名品群を鑑賞できるのは、今だけの特別な機会です。

落ち着いた空間で、ひとつひとつの作品とじっくり向き合えるこの美術館。ロンドン滞在中に喧騒から離れて、美術作品と向き合いたくなったときには、コートールド・ギャラリーを訪れてみては。

(執筆:FNNロンドン支局長 田中雄気)

田中 雄気
田中 雄気

FNNロンドン支局長。侵攻後のウクライナをこれまでに5回取材。元社会部記者。夕方および夜のニュースのディレクター、デスク、プロデューサーなどを経験。