新国立劇場バレエ団が、今年7月にロンドンの名門ロイヤル・オペラ・ハウスで公演する。新国立劇場バレエ団が自ら海外公演を主催するのは始めてのことだ。公演を前に、芸術監督の吉田都さん(59)と、英国ロイヤル・バレエで活躍中の高田茜さん(34)、平野亮一さん(41)がトークイベントに参加。イベント後に公演への思いや制作の裏話、今後の展望を熱く語った。
ロマンティック・バレエの傑作「ジゼル」を上演
今年7月、英ロイヤル・オペラ・ハウスにて、日本の新国立劇場バレエ団が待望の演目『ジゼル』を上演する。全5公演が予定されている。

バレエ団を率いるのは、英国ロイヤル・バレエで初の日本人プリンシパルダンサーとして輝かしいキャリアを持つ吉田都さん。吉田さんは、ロイヤル・バレエやバーミンガム・ロイヤルバレエでの実績を経て、2020年から日本で唯一、国立の劇場に所属する新国立劇場バレエ団の舞踊芸術監督を務める。今回の『ジゼル』は、ロマンティック・バレエの傑作として知られる。
舞台裏エピソードなどを語り合う
公演まで約5カ月となる2月22日(土)、ロンドン中心部のジャパンハウスにてトークイベントが開催された。吉田都さんのほか、英国ロイヤル・バレエで現在プリンシパルとして活躍中の高田茜さんと平野亮一さんが登壇し、日英両国のバレエファンなど約150名が参加。

セッションでは、各ゲストがこれまでのキャリアやロンドンでの経験、舞台裏のエピソードなど語り合った。さらに、参加者からの質疑応答では、日本とイギリスの観客の反応の違いや、バレエが持つ感情表現の奥深さ、AIなど技術革新が今後のバレエ界に与える影響、若い世代や多様な観客層へのアプローチ、今後の海外展開についても意見が交わされた。
「新国立にとっての挑戦」
イベント後、吉田さんは一部メディアの取材に応じた。
――7月の公演に向けて、現在の心境は?
吉田都さん:
19年ぶりの海外公演の実現に大変期待しており、かつて自分が踊ったロイヤル・オペラ・ハウスの舞台を、ダンサーたちにも体験してほしいと考える。

――なぜ今回、イギリスのロイヤル・オペラ・ハウスで公演を行うことに決めたのか?
吉田都さん:
これまでの海外公演は招待を受けた形だが、今回は新国立劇場自らが海外に挑戦することになる。自身が踊っていた舞台で、ダンサーたちにも踊らせたいと考えたため
――公演の実現は難しかったか?
吉田都さん:
とても難しかった。新国立劇場として海外公演の経験がなかったため、全く新しい環境で一から多くを学ぶ必要があったが、こうして実現できたことを大変嬉しく思っている。
――あえて『ジゼル』を選んだ理由?
吉田都さん:
『ジゼル』は特に私自身が育てていただいた振付師であるピーター・ライトさんのバージョンがイギリスでは有名で、ドラマティックなバレエの伝統を継承する意味がある。
――イギリスの観客に最も見せたいポイントは?
吉田都さん:
新国立劇場のダンサーたちが繰り広げる有名なコール・ド・バレエのパフォーマンスと、日本人ならではの『ジゼル』の独自のドラマ性や表現方法を見ていただきたい。また、ストーリーが分かりやすいので楽しんで欲しい。
――「日本人ならでは」の表現とは具体的にどのようなもの?
吉田都さん:
日本人ダンサーには、悲しみや喜びの微妙で繊細な表現がある。日常生活では感情をあまりあらわにしないため、舞台上ではその内面の微妙な変化を控えめかつ効果的に伝える表現が特徴。
――7月の公演は、ダンサーたちにとってどのような転換点になる?
吉田都さん:
ロイヤル・オペラ・ハウスという国際的な舞台を経験することで、ダンサーたちは自信を持ち、次のステップへ進む大きな機会となると期待している。自覚が芽生え、世界に向けた更なる活躍の転換点になるだろう・
――今後、新国立劇場バレエ団として国際的な認知度をどのように高めていきたい?
吉田都さん:
今回の公演を皮切りに、海外公演や無料配信などを通じて、世界中の人々に新国立劇場バレエ団の魅力を伝え、国際的な認知度を着実に高めていきたい
「アジアのバレエが国際的に認められた証」
新国立劇場バレエ団の公演には出演しないものの、普段、英ロイヤル・バレエの一員としてロイヤル・オペラ・ハウスで活躍している高田茜さんと平野亮一さんにも7月の公演について話を聞いた。

――2人が活躍するロンドンでの劇場に日本の新国立劇場バレエ団が初の公演をするが?
平野亮一さん:
非常に嬉しいし本当に大きな快挙であると考える。楽しんで欲しいし、心から成功することを祈っている。

――新国立劇場バレエ団とは、2人にとってどのような存在?
高田茜さん:
小さい頃、子役として新国立劇場の舞台に出ていた。その時から、日本のバレエ界を牽引する存在になってほしいと願っており、吉田さんを先頭に、またイギリスのお客様に愛されるバレエ団になってほしいと思う。
――アジアのバレエカンパニーがロイヤル・オペラ・ハウスで公演するのはかなり異例のことだが?
平野亮一さん:
アジアのバレエが国際的に認められた証。

高田茜さん:
この偉業が成し遂げられるのは、吉田さんの豊かなキャリアによるもの。イギリスのお客様に長く愛されてきたダンサーであり、吉田さんが率いるバレエ団だからこそ実現したのだと思う。
チケット情報など
チケットは3月19日から発売開始となっており、多くのバレエファンや関係者が注目している。新国立劇場バレエ団のロンドン公演は、伝統と革新が融合した作品として、今後の日本バレエ界の国際的な発信力を試す重要なステージとなるだろう。
プロフィール
【吉田都さん】東京都出身。英ロイヤルバレエスクール卒業後、サドラーズ・ウェルズに入団し、1988年にプリンシパルへ昇進。1995年から英ロイヤル・バレエでキャリアを築き、フリーランスを経て2019年に引退。現在は国立劇場バレエ団の芸術監督として、次世代育成と日本バレエの国際展開に尽力。
【高田茜さん】東京都出身。3歳よりバレエを始める。高橋洋美バレエ教室やロシア国立ボリショイバレエ学校で修練を積み、2008年のローザンヌ国際バレエで研修賞とオーディエンス賞受賞。英ロイヤル・バレエ入団後、キャリアを重ね、2016年にプリンシパルに昇進。卓越した技術と表現力で国際舞台で活躍中。
【平野亮一さん】母親の平野節子が主宰するバレエ教室でバレエを習い始め、2001年にローザンヌ国際バレエで入賞。英ロイヤル・バレエに入団後、2016年にプリンシパルに昇進。繊細な表現力と卓越した技術で、舞台芸術の可能性を広げ続けている。
(執筆:FNNロンドン支局長 田中雄気)