プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績、伝説を德光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る！
プロとしては決して速くない130km/h前後の直球と100km/h以下のスローカーブを駆使する緩急自在のピッチングで並みいる強打者を翻ろうし、18年の現役生活で176の勝ち星を積み重ねた星野伸之氏。11年連続2桁勝利、通算2041奪三振。1996年のオリックス日本一をけん引した“星の王子様”に徳光和夫が切り込んだ。
【中編からの続き】
清原氏「あの球は高校生しか打てない」
星野氏がオリックスで活躍した1980年代後半から90年代にかけてのパ・リーグは西武が圧倒的な強さを誇っていた。
徳光：
当時、西武打線は怖かったでしょう。
星野：
怖かったですし、いやらしかったですね。
例えば清原選手だと、やっぱりホームランを警戒するじゃないですか。それで、アウトローのいいところに投げたら、普通はゴロにしかならない球なんですけど、ライト前にうまく運ぶんですよ。
徳光：
でも、清原さんは「一番打ちにくかった球は星野さんのストレート」って言ってますよね。
星野：
そうですね。まあ、真っすぐで全部いったのは清原選手だけですからね。
徳光：
ストレートが150km/h近くに見えるっていう選手もいます。
星野：
打ち取られたら、バッターもそう言うしかないですから（笑）。
徳光：
最速で135km/hしか出てなかったっておっしゃいますけど、それが投球術だと思うんですよね。
星野：
そうですね。ただ、清原選手に言われたのは、「あの球は高校生しか打てない」（笑）。
徳光：
そんなことを言ってたんですか（笑）。
「球が遅い」って言いますけど、速く感じるのはクイックで投げるからですかね。
星野：
う～ん、どうなんだろう。
でもカーブを結構投げるんで、やっぱりそのカーブのイメージがどっかにあるんじゃないでしょうかね。
バナザード氏突然激怒の理由
徳光：
外国人選手が星野さんのカーブに怒りまくったことがあるらしいですね。
星野：
そうです。バナザードですね。最初、何で怒ってるのか分かんなかったんですよ。それこそ、Fではじまる言っちゃいけない言葉を連発されて…。多分、舐められてると思ったんでしょうね。
徳光：
ああ、そういうことか。
南海（現・ソフトバンク）で俊足巧打のスイッチヒッターとして活躍したバナザード氏は、度々乱闘騒ぎを起こし1年で3度の退場処分を受けるほどの激しい気性だった。
星野：
僕はただ普通にストライクを投げただけなんです。最初、何に怒ってるのか分かんなかったですけど、何球か投げてるうちに、カーブで怒ってることが分かって、「あ、そういうことか」と。
星野氏には、できることなら自分の球を試してみたい現役バッターがいるという。
星野：
WBCでチェコのピッチャーが投げたゆるいボールに、大谷（翔平）が空振りしたじゃないですか。
徳光：
しましたね。
2023年の第5回WBCで大谷選手はチェコのサトリア投手が投じた126km/hの直球に空振り三振を喫した。
星野：
あのとき、ちょっと僕の名前が出たらしいんですよ。みんなから連絡きましたよ。「お前の球、打てないんじゃないの？」って。
徳光：
私もそう思ったんですよ。
星野：
僕もちょっと思いましたけどね。だから、「対戦してみたかったな」と思いますね。いいバッターですから。
徳光：
そうですよね。
星野：
歩かせたらもったいないくらいのバッターですよね。だから対戦してみたくなるんですよ。やっぱりそういうバッターは“超超超一流”ですよね。
星野氏がオリックスでローテーションの軸として活躍していた1992年、高校を卒業したばかりのイチロー氏がオリックスに入団した。
徳光：
イチローさんは入ってきたときから、やっぱりちょっと違いましたかね。
星野：
1年目からファームで3割7分くらい打ってたのかな。「内野安打が多いやつがいるんだよ」って話題になりました。当てるのがうまいですよね。
徳光：
キャンプとかで投げたことはないんですか。
星野：
1回だけ紅白戦で投げました。カーブで「タイミングを狂わせた」と思った瞬間にポーンッて、これこそ“運ぶ”って言葉の感じで…。
徳光：
そんなに若いときから、そんなことができたんですか。
星野：
ちょっと体勢が前に来たんですけど、そのままコーンッてセカンドとライトの間に落とされましたね。
阪神・淡路大震災「がんばろうKOBE」
1995年1月17日の明け方に兵庫県南部を阪神・淡路大震災が襲った。観測史上初の震度7を記録し、神戸市など人口が密集する都市の直下で起きたため甚大な被害が発生した。当時のオリックスの本拠地はその神戸だった。
徳光：
オリックスの選手としては、やっぱり阪神・淡路大震災の衝撃は非常に大きかったですよね。
星野：
そうですね。僕は自主トレの2日目くらいだったんです。愛媛県でやってたんですけど、そこは震度3か4くらいだったんですよ。だから、そこまで大事とは思わなくて、朝、テレビをつけた瞬間はまだ1件の火事しか映ってなかったし…。
そのままテレビを消して自主トレしてたんですけど、お昼ご飯を食べてるときに、知り合いの社長さんから「お前ら、今、何してんの？」って電話がかかってきて、「昼飯を食べてます」って答えたら、「バカヤロー！」って怒られたんです。「テレビつけろ」って言われて、つけた瞬間に高速道路が倒れてるのを見て…。「すぐ帰れ！」って言われました。
徳光：
ご家族は大丈夫だったんですか。
星野：
電話は直接は繋がらなかったですけど、家族から僕の北海道の実家に「大丈夫だよ」って連絡が行ってて…。
徳光：
そうなんですね。
星野：
「野球のほうはどうなるんだろう」と思ったんですが、取りあえず「集まれるやつだけ集まろう」みたいな感じで集まって、キャンプは、みんなで自主トレみたいな感じでしたね。
当時、星野氏はオリックスの選手会長だった。
星野：
だから、あんまり野球をやったイメージがないんですよね。取りあえずサイン会とかするんですけど、逆に「頑張ってね」とかって言われますから、「頑張んなきゃ」っていう気持ちだけはありましたけど…。
それで、いざオープン戦が始まったら、一塁側にガーッとお客さん。ジャージで来てる人もいましたね。
徳光：
オープン戦でお客さんが入ったんですか。
星野：
お客さんが入るんで、それにまたビックリしました。
徳光：
これは奮い立たざるをえないですね。
星野：
そうですね。よく「ファンのおかげで」って言いますけど、まさにあのときがそうだったのかなっていう感じはしますね。ほんとに不思議な感じでしたね。
この1995年、「がんばろうKOBE」を合言葉に戦ったオリックス・ブルーウェーブは、仰木彬監督の指揮のもと、オリックスとしては初、阪急時代から通算して11年ぶり11度目のパ・リーグ制覇を成し遂げた。
星野：
でも、最後、神戸で優勝を決められなかったんですよ。ロッテとの3連戦で、1つ勝てば神戸で胴上げだったんですけど、なかなかうまくいかない。3戦目は勝ってたんですけど（守護神として活躍してきた）平井（正史）がもうへばってて打たれるんです。平井が逆転されたんですけど、それでも平井がマウンドを下りたときには観客から拍手ですよ。
徳光：
なるほど。
星野：
あれはちょっと感動でした。
その次の西武戦で僕の先発が決まってたので、負けた瞬間すぐに山田ピッチングコーチが来て、「ノブ、頼むぞ」って。「はい」しかないですけどね。
被災した神戸市民に勇気を与える歓喜の瞬間は9月19日に訪れた。オリックスは西武を8対2で破りリーグ優勝。敵地・西武球場（現・ベルーナドーム）で先発した星野氏は5回3分の1を2失点に抑え勝利投手に輝いた。
本拠地で連覇の瞬間、仰木監督を…
星野：
ただ、やっぱり仰木さんはドラマを持ってる。次の年もギリギリ、「また今年も（本拠地優勝は）ダメか」だったんですよ。
1996年9月23日、オリックスが優勝へのマジックを1として本拠地・グリーンスタジアム神戸（現・ほっともっとフィールド神戸）で迎えた日本ハム3連戦の最終戦では、6対5とリードを許して迎えた9回裏2アウトから、D･J氏が同点ソロ本塁打。延長10回裏にイチロー氏がサヨナラタイムリーを放ち7対6で逆転勝利。前年果たせなかった神戸のファンの前での優勝を決めた。
星野：
僕は上がりでベンチ入りできなかったので、ロッカーで見てたんですよ。「やっぱ今年もダメか」って思った瞬間に、D･Jがホームラン打って、「うおーっ、同点になった」と慌ててユニホームに着替えたんです。次の回、一塁にランナーがいてイチローに回ってきて、イチローが打ったじゃないですか。「これで二三塁になるわ」と思った瞬間に、レフトがクッションボールの処理を誤ったんです。
徳光：
それで、サヨナラになるんだ。
星野：
そのとき、僕は全然気が付かなかったんですけど、仰木監督を突き飛ばしていたらしいんですよ。
徳光：
（笑）。そうなんですか。
星野：
僕も興奮してて…。
徳光：
その96年は巨人との日本シリーズにも勝って日本一になるわけですよね。
星野：
巨人とやるときは、仰木さんに呼ばれて、「お前、どこで投げたい？」って聞いてきたんですよ。
徳光：
ほう。
星野：
「僕が決めるんですか。監督、ちょっとだけ時間もらえますか」って言ったんですけど、「時間要るの？」って言われて…。ということは、星野は多分「1戦目、行きますよ」って言うと思ったんでしょうね。監督に「1戦目、行かせてください」って言った瞬間に、監督も「うん」で終わりました。
1996年の日本シリーズで、オリックスは巨人を4勝1敗で退け、オリックスとしては初、阪急時代も含めると19年ぶり4度目となる日本一を達成。星野氏は第1戦と第5戦に先発して優勝に貢献した。
徳光：
我々巨人ファンには忘れられない屈辱なんですけど、第5戦も星野さんにやられたんですよね。
星野：
あのときは、松井（秀喜）があんまり打てなかったのかな。僕は「松井はフォークでいく」という決め事をしてたんです。当時、「プロ野球ニュース」で達川（光男）さんが解説してて、「松井は結構フォークに弱いからね」みたいな話をしてて、それで腹が決まりましたね。
阪神へのFA移籍…野村監督に言われた言葉
1999年オフ、星野氏は慣れ親しんだオリックスのユニホームに別れを告げ、FAで阪神に移籍した。33歳での決断だった。
徳光：
この阪神へのFAはどういうことだったんですか。
星野：
え、これどこまでしゃべるの？ いろいろそれは…。16年もいたチームなのでね。
ただ、あのときは結構オリックスから選手が出てたので、山沖（之彦）さんも出ていく、石嶺（和彦）さんも出ていく。（※編集部注：ともにFAで阪神に移籍）
徳光：
そうでしたね。
星野：
そういう流れだったので、僕の番に回ってきたなというのが正直なところでしたね。でも、（当時の阪神監督の）野村さんと話をさせていただいたときに、普通よくあるような「一緒に戦って優勝しよう」とかっていう言葉じゃなくて、僕の人生の話をしてくれた。
「お前もいつかは辞めるだろう。俺もパ・リーグ出身やけど、一番困ったのは解説する試合が全部セ・リーグ。お前も引退したらほとんどセ・リーグの解説になるぞ。だから、セ・リーグの野球を1回やっといたほうがいいよ」と。
徳光：
ノムさんに。
星野：
「お前の人生のために言っとく」みたいな感じで話してくれて、「すごい。そこまで考えてくれて言ってくれてるんだ」って思って、「お願いします」っていう話になりました。
徳光：
同じ関西ですけど、阪神の応援の仕方はオリックス時代とは違ったんじゃないですか。
星野：
そうですね。阪神ではあんまり勝てなかったんですけど、「あと1人」コール、「あと1球」コールがあるじゃないですか。それを1対0で初体験したんですよ。「これ、ホームランを打たれたらどうしよう」って。相手はペタジーニだったんですよ。
徳光：
ホームランバッター（笑）。
星野：
「ちょっと待てよ。『あと1人』は分かってる、分かってる」って思いながら、「それが何でペタジーニなんだろう」と思って…。なんとか抑えて三振を取ってバァッと盛り上がったんですけど。
徳光：
それは大盛り上がりでしょう。
星野：
「これ、打たれたらえらいことだな」っていうのはありましたね。
徳光：
そうですか。
星野氏は2000年から2002年までの3年間を過ごした阪神で8勝をあげ、通算176勝で現役を引退した。
徳光：
短期間ではありましたけど、阪神もいい経験だったんじゃないですかね。
星野：
いや、楽しかったですよ。
徳光：
176勝でプロ野球人生を終わったわけですが、ご自身の中で回想しながら自分に話しかけたなみたいなことがありましたら。
星野：
例えば今のトレーニング方法をやってたら、もうちょっと球が速くなったかなっていうのは考えますよ。
徳光：
そうですか。
星野：
極端な話、腕がどうなってもいいから、1回は150km/hくらい投げてみたいっていうのはあります。
徳光：
でも、星野さんが150km/hで投げてたら、176勝はしてないと思います。
星野：
それ、皆さんに言われます。逆に「120何km/hだからこそ、みんなに覚えてもらえて良かったんじゃない」と言われますね。
徳光：
だからこそ今日があるんですね。
星野：
そうですね。
（BSフジ「プロ野球レジェン堂」 25/4/29より）
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