プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績・伝説を徳光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る!
1973年センバツ、甲子園で「怪物・江川」がついにそのベールを脱いだ。
高校最後の夏を目前に控えたころの話から引き続き伺う。
そして、初めて「空白の一日」について江川が語った。
(中編からの続き)
【クラウンから1位指名も 親戚の意向で?「九州は遠い」伝説】
徳光:
で、いよいよですね、迎えました今度はドラフト会議でありますけども、実は当時、抽選の順位を引くくじ引きがあったじゃないですか。

江川:
これ説明しないとね、今の人わかんないんですよね。
当時は本抽選っていう前に予備抽選ってのがあったんですね。
[ 1967〜77年のプロ野球ドラフト会議
全球団で予備抽選を行い指名順を決定
奇数順位は予備抽選1→12番、偶数順位は予備抽選12→2番 ]
徳光:
そう。

江川:
何番目に本当のを引くかっていうのがあって、1位がクラウンさんで、2位が巨人だったんですね。
徳光:
だから僕らも「やった」と思ったわけですよ。
江川:
僕も「やった」と思ってましたね。
徳光:
そうでしょ、2位でね。
江川:
クラウンさんが、地元の門田富昭さんっていう、大洋に入ったピッチャー。門田さんを指名するって言ってたんです。公言してたんです。
徳光:
それは分かってたんですか?
江川:
クラウンさんが発表してたんです。

徳光:
西南学院大から行った。
[ 門田富昭(70)は西南学院大から太陽にドラフト1位指名されて入団
学生結婚して1児の父だったため「子連れルーキー」と話題に ]
江川:
1位だったら門田さんに行きます。で、2番くじが巨人だったので、徳光さんこう思ってたでしょ?
僕も目立たないところで、こう思ってたんです。決まったなと思ってたら。

徳光:
時代はね、本当に歴史ってのは意地悪だなと思うんですけども、この時のクラウンが根本陸夫さんだったんですよね。
[ 根本陸夫(1999年没72歳)1952年近鉄入団:
法政大出身。広島・クラウン(のち西武)・ダイエー(現ソフトバンク)で監督
幅広い人脈を駆使してフロントで活躍した「球界の寝業師」 ]
江川:
よくご存知ですね。怖いですね。
徳光:
それでね、根本さん、法政のOBですよ。しかもね、先輩でいらっしゃって。
江川:
もう一番尊敬してる人ですから。それで1位指名していただいたんですよね。
徳光:
でも根本さんとしては、やっぱり江川卓をジャイアンツに行かせたくないみたいなところあったんですかね。
江川:
いやその話はしたことないですね、根本さんとは。
ごあいさつをして、いろんなことをお聞きすると、本当に野球の改革とかの中心におられた方なので。

徳光:
そうなんですよ。根本さん、やっぱり野球界全体を考えると、江川さんがジャイアンツに行っちゃったら、本当にパ・リーグが人気がなくなっちゃうんじゃないかってことで。
たぶんそうだと思うんですよ。根本さんってそういう人だと思うんです。野球界全体を常に俯瞰(ふかん)で見たり。
江川:
パシフィックはまだ野球が、われわれ見る機会がなくて、ジャイアンツ戦が多かったですからね。
そういうお考えがあったかもしれないですね。

徳光:
僕はあったんじゃないかなって思うんですけど、確かに江川さんあれですよね、その時にこれ実話だと思うんですが、「九州は遠い」と思ったんでしょ?
[ クラウンライターライオンズの本拠地は福岡 ]
江川:
それはですね、そういうふうに書いてあるのを僕は読んだんですね。
その原因は、父親が6人きょうだい、母親が10人きょうだい。おじさん・おばさんがものすごく多くてですね、その方がほとんど家の自営業をされてた方が多いですね。で、「巨人に入ってほしい」っていうのが強かったんですよ。あの商売っていうか、家の事情で。

江川:
みんなだから、もうとりあえず在京じゃないとダメ。在京というと、ヤクルトと大洋と巨人ですね。それはもう許せる範囲。
自分たちが入ってほしい、ベストは巨人。そうすると、いろいろ自分たちは助かるので。
で、クラウンさんが指名していただいたら九州なので、行ってもらったら困ると。
全員の総意で父親のところに全員来まして、では「これお受けできないね」っていうことになって、お断りするしかないかっていうことになったんですよ。

遠藤:
江川さんの言葉じゃないんですね、「九州は遠い」っていうのは。
江川:
九州はいろいろあって、遠隔地でありっていうのは書いてあったのを、それを読みました。
徳光:
ということは、今のお話で聞き捨てならないなと思うんですけど、在京球団だったら、どこか1位を指名したらOKだったんですか?
江川:
僕はね。
徳光:
そうなんですか。
江川:
僕はもう4分の1に絞ってましたから。
在京球団だったら4分の1の確率なんで、なんとかそれに当たらないかっていう。

徳光:
ヤクルトでもOKだったわけですね。
江川:
たぶん行ってたと思います、その時は。
徳光:
そうなんだ。
