長崎県高総体が開幕。西彼杵高校バレーボール部は4月に亡くなった監督・井上博明さんの教えを胸に、ひたむきに練習を続けてきた。大会に挑む教え子たちの姿を追った。
悲しいのが一番大きかった
西海市大瀬戸町の県立西彼杵高校バレーボール部は、2024年度の県高総体で初優勝し、インターハイでもベスト8。

チームが目指すのは、これまでを上回る成績と「日本一」だ。「恩師に捧げる」と誓う。

4月26日、西彼杵の元監督・井上博明さんは下咽頭がんのため67歳で亡くなった。田中心主将は「最初に報告を受けたときは信じられなかった。実際に見て、本当なんだと思った。きれいな顔だった。みんな涙がボロボロ出てきた。その時は悲しいのが一番大きかった」と振り返る。

あれから1カ月。選手たちは前を向いてひたむきにボールを追った。
15回の日本一に導いた名将 井上博明さん
井上さんは佐世保市の九州文化学園の監督として、バレー部を15回の日本一に導いた名将だ。

飛びぬけた能力のある選手がいなくても、与えられた役割を果たす責任感ある選手を育て、つなぐバレーで強豪に立ち向かった。ボールをつなぎ、仲間を思いやる井上バレーは「真実(こころ)のバレー」と呼ばれている。

九州文化監督(当時)井上博明さん:みんな根性とか言うが、そうではない。本当にいい心を持った選手たちが練習して、試合をしている、それだけ。

九文を退職した2023年からは西彼杵に赴任。就任2年目で初の春高バレー進出を果たした。しかし、病状は悪化を続け、2024年度からほとんどコートに立てない状態だった。

告別式には教え子など約400人が訪れたが、現役の選手たちはボールにメッセージだけを残し、いつもと変わらない練習を続けた。
新チームは1、2年生が主力
2025年のチームは3年生が5人と少なく、1、2年生が主力だ。

注目は中学の全国大会で準優勝した諫早中出身の1年生、ミドルブロッカーの岡紗津貴選手。優秀選手賞を受賞している。日本一のリベンジを果たそうと入学を決めた。
岡選手は「西彼杵で日本一が取りたいからみんなここに来たと思う。また、皆でバレーできることに感謝と楽しさをもってやっていきたい」と話す。
中学時代の実績がなくても、「真実(こころ)のバレー」に憧れて入部を決めた選手もいる。

身長175.5cm、小崎心晴選手だ。ミドルブロッカーの大型新人で、対馬市の出身。小崎選手は見学の時に雰囲気や練習に魅力を感じて入部を決めた。「どんなトスが来ても自分が決めるという気持ちで打てるアタッカーになりたい」と話す。

そんな1、2年生中心のチームに田中主将は「頑張るしかない。それが先生が求めている事だからと言って、みんなで頑張っていこうと話している」と前を向く。
井上さん亡きあと初の公式戦
井上さんが伝えた「真実(こころ)のバレー」を追い求める西彼杵は、5月10日、九州大会に挑んだ。井上さんが亡くなって初めての公式戦だ。

大会には九州と沖縄の24校が出場。まずは他県の2校と予選を戦い、上位1校が決勝トーナメントに進む。

井上さん亡きあと、監督として指揮をとるのは、27年間コーチとして井上さんのそばにいた出野久仁子さんだ。
決勝トーナメント進出をかけた福岡女学院との対戦。守備から攻撃のリズムを作る、つなぎのバレーで勝利を目指した。

しかし、弱いボールを落としてミスが続き、スパイクが打てない。第1セットを1点差で取られてしまった。続く第2セットもミスが続き、2024年の大会でベスト8だった西彼杵は予選敗退となった。
負ける相手ではなかった。出野監督は「井上先生が見ていたら怒られるでしょうね。大事なのは高総体。井上先生がいる、いないは言い訳にしかならない。そういうことを言うのを井上先生が一番嫌がることなので」と話す。

高総体は何が何でも勝たなければいけない、選手たちはそう誓った。
真実のバレーで優勝の報告を誓う
県高総体開幕まで1週間となったこの日も、選手たちはレシーブ練習を続けていた。ボールを必ず拾い上げ、次の人につなげる。

出野監督は、この練習に大きな意味があると話す。
西彼杵 出野久仁子 監督:このレシーブ練習では弱さ、甘え、サボり。出してはいけない気持ちがいっぱい見えてくる。でも乗り越えて立派になってきたなという所も見えてきている。井上先生も“この練習はミーティングだよ”と話していた。レシーブ練習だけど、バレーの一番大切な所を分かり合える、そんな意味がある。
仲間を思い、自分の役割をしっかりと果たす。井上さんが目指した「真実(こころ)のバレー」。

選手たち25人は寮で一緒に暮らし、生活の中でも助け合ってきた。まるで姉妹のような絆で結ばれている自分たちだからこそ、「真実(こころ)のバレー」ができると信じている。
井上さんの指導を受けられたのは2年生と3年生だ。田中主将は「しっかり次の後輩に伝えていきたい。高総体は先生にいい報告をする意味でも、いろんな意味で勝ちたい」と意気込む。

井上さんの教えを受け継ごうとする選手たち。天国で見守る井上さんに、優勝の報告を誓っている。
県高総体女子バレーには52校が出場する。
(テレビ長崎)