教師の仕事というと近年全国的に、業務量の多さや、なり手不足が指摘されている。鹿児島県内の教育現場の実態はどうなのか。新人教師に密着するとともに、アプリで生の声を聞いてみた。

この春、教師になったばかり 公立小学校5年生、36人学級の担任に

鹿児島市郊外にある西紫原小学校。昭和40年ごろから造成された高台の住宅地にあり、現在800人ほどが通っている。

新人教師の盛友愛先生。白いシャツに黒いパンツスーツ姿。髪を後ろで一つに束ねたフレッシュマンらしい装いだ。

児童たちが「優しい先生」と口をそろえる盛先生
児童たちが「優しい先生」と口をそろえる盛先生
この記事の画像(16枚)

36人が学ぶ5年2組を受け持つ盛先生。男子児童2人は「優しい先生」と口をそろえる。女子児童からは、「明るくてハキハキしている先生」。「帰る前にじゃんけんして、勝った順に帰るのが楽しかった」と話す児童もいて人気ぶりがうかがえる。子どもたちも、盛先生と過ごす学校生活を楽しんでいるようだ。

恩師のように子ども達に寄り添いたい。小学生の時の担任に憧れ教師に

盛先生は、奄美大島の隣・喜界島の出身。「小学校5年生の時の担任の先生が、子ども一人一人に寄り添ってくれて。その先生みたいになりたい」と、鹿児島市の鹿児島国際大学で学び、夢をかなえた。

1限目の国語の授業が始まった。「聞くこと」をテーマにした内容で、ロールプレイング形式で進められる。教壇の前には盛先生が女子児童と向き合って座り、その児童相手に、2つのパターンの「聞き方」を実践して見せた。

「聞くこと」をテーマにした国語の授業
「聞くこと」をテーマにした国語の授業

まずは、パターン1。相手をしっかり見てハキハキと「Aさんは、バドミントンをしていると聞きましたが?」と、抑揚がある話し方で聞く。

パターン2は、抑揚のない暗くダランとしたトーンの声色で「バドミントンをしていると聞きましたが、いつ始めたんですか」と質問する。視線もきょろきょろと落ち着かない。

相手役の児童の「3年生から始めました」との回答に、盛先生がわざと「へー。じゃあ、次」と、つまらなそうな表情で素っ気なく受け流すと、教室はどっと笑いに包まれた。

「1パターン目と2パターン目、どちらがいいですか?」との先生の問いに、児童は「1パターン目がいい」と、それぞれ手を上げたり声を出したりして答えた。和やかな雰囲気の授業風景だ。

空き時間は指導教員から研修を受ける。子どもたちと向き合う難しさを吐露

2限目は、音楽の授業。授業は音楽の先生に任せ、盛先生は別室で待つ拠点校指導教員のもとへ向かった。盛先生のような初任の教師は、指導教員から授業や学級経営などの研修を受け、教師としての技能を身につけていく。盛先生の指導にあたる本山桂三さんは、校長の経験もある教育現場の大ベテランだ。

実は本山さん、1限目の国語の授業も教室でチェックしていた。「よく言えば元気がいい、にぎやか」と評価した。その一方「考えて言えば、生徒の(授業態度に)けじめがないかな。時間がかかってもいいから、児童が目と顔と心を先生の方に向けるようにしてください」となかなか手厳しい指摘も。

拠点校指導教員から研修を受ける盛先生
拠点校指導教員から研修を受ける盛先生

恩師のような、子どもたちに寄り添える教員を目指している盛先生だが、「一人一人に向き合って指導するのが難しい」と漏らした。実際の教育現場に立ってみて、仕事の難しさを感じているようだ。

放課後も仕事は続く。教員の長時間労働や業務量を減らそうとの動きも

給食も児童と一緒に。午後も社会、道徳と授業が続き、ようやく、恒例のじゃんけんをしてお別れ。でも教師の仕事は、放課後も続く。

児童が帰宅して静かになった教室では、盛先生が一人、次の授業に向けて準備をしていた。少しでも業務の負担を減らそうと、西紫原小学校では、通知表の作成を年3回から2回に減らしたり、毎週金曜日は職員に早めの退勤を呼びかけたりしている。

教師の仕事は放課後も仕事は続く
教師の仕事は放課後も仕事は続く

鹿児島県教委も教師の業務環境の改善は、大きな課題と捉えている。5月12日、大学教授や有識者からなる「かごしまの先生」魅力発信検討委員会が、鹿児島県教委に教師の長時間労働や業務量の改善を求める提言書を提出した。

教員の長時間労働や業務量を減らそうとの動きも
教員の長時間労働や業務量を減らそうとの動きも

将来の教員確保を目的に県教委が2024年度設置したこの委員会、溝口和宏委員長(鹿児島大学教育学部教授)は「一人一人の子どもたちを見る時間も必要だがその時間を先生たちが十分に持てていないという現状がある」と、現在の状況を危惧していた。

県教委・教職員課の中島靖治課長も「いろんな学校で、放課後の時間に少しでも余裕を持てるよう、朝の会の時間を短くするなどの工夫をしている」と話す。しかし現場からは「『厳しい状況がある』という声が伝わっている」とし、まだ改善が十分でないことを認めた。

【現役教師に質問】負担に感じる業務は?「保護者への対応」「長時間勤務」…

この「厳しい状況」について、現場の教師はどう考えているのか?鹿児島テレビでは自社の「KTSアプリ」で、現役の教員や保護者を対象にアンケートを行った。複数選択式や記述式で負担に感じていることなどを聞いたところ、現役の教師約170人から回答があった。

その中で、負担を感じる業務として最も多かったのが、「保護者への対応」で98人。続いて「長時間勤務」が94人。「休日・休暇の少なさ」が61人。「部活動の対応」が54人。「出産・子育てとの両立」が37人。「その他」が23人という結果だった。

現役教師の声
現役教師の声

また、具体的な経験については、「テストの作成や採点は基本的に持ち帰り。残業代は出ない」
「事務仕事や研修が多く、授業の準備に時間が割けない」「保護者からのクレーム対応に追われている」「忙しい先生が多いので、同僚とゆっくり話をする時間がない」といった声も含まれていた。

負担に感じている具体的な経験
負担に感じている具体的な経験

教師の仕事は好きだし楽しい。そしてもちろん、自分の生活も大事にしたい

育児休暇から復帰した教師が、電話で取材に応じてくれた。
この教師は子どもがまだ小さいため、平日は部活動の指導に行っていない。保護者に「土曜日も毎回出られるとは限りませんと伝えたら、すごくうなずいてくれる人もいるが、『ああ…』という顔をされることもある」という。

「信頼関係を築くのは大事だと思いつつも、自分の生活も大事にしたい」と悩みを打ち明けた。
とはいえ、仕事自体にはやりがいを感じているようだ。「子どもたちと一緒に成長する時間を共有できる教師の仕事が好きだし、楽しい」と語る。

教師が「続けたい仕事」であり続けるために。求められる業務内容の改善

2025年、鹿児島県で新たに採用された教師の数は、前年度より60人少ない、535人。新人の盛先生は「子どもたちの『先生』と呼ぶ声や、『一緒に遊ぼう』とか、子どもたちの笑顔が好きで、宝物になっている。だから、頑張っていきたい」と意気込みを語った。

「子どもたちの笑顔が好き」と話す盛先生
「子どもたちの笑顔が好き」と話す盛先生

大変だが、続けたい仕事。
そう思える職業にするために、教育現場の業務内容の改善が、引き続き求められている。

(鹿児島テレビ)

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(16枚)
鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。