少子化や教員の働き方の改善で進む部活動の改革。外部の指導員が参加したり、運営の主体が地域のスポーツクラブに移行したりとさまざま。地域の実情に合わせた取り組みから、これからの“部活動の姿”が見えてきた。

平日は会社員 週末はサッカー指導

鹿児島・薩摩川内市の樋脇中学校で、サッカー部の練習を熱心に指導している会社員の久保譲さん(44)は、元々息子がサッカー部に所属していたのと、自身もサッカー経験者ということで練習に関わるようになった。2023年4月から正式に地域指導員として土日の指導を任され、サッカー未経験という教師に変わり、平日の練習メニュー作成も担当している。

会社員の久保譲さん(44)
会社員の久保譲さん(44)
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久保さんは、「(練習は)楽しみでしかない。買い物とかドライブとか休日の過ごし方で(いろいろ)あると思うが、その一環。サッカーを好きでいてくれたらよいとの思いがあるので、楽しく指導している」と話す。

サッカー部の鮫島健太キャプテンも「土日は時間が長いので、平日より内容のある練習を計画してくれてありがたい」と満足そうだ。

元教師が「地域のおじいちゃん」に

鹿児島県内の中学校でも進む部活動改革。背景には、少子化による部員不足で活動が続けられなくなる可能性や教員の働き方の改善がある。

鹿児島県内では2021年度から薩摩川内市と与論町で、部活動の活動主体を学校から地域クラブに代替させるという地域移行の実証事業が始まり、2023年度は4市2町に拡大した。薩摩川内市では、樋脇中を含め、3校の部活動で地元のスポーツクラブが土日の運営を担っている。

薩摩川内市の入来中学校の野球部もその1つだ。
笑顔でノックをする桑畑明斎さん(63)は、生徒に明るく声をかけながら、練習に励んでいた。野球部の園山大雅キャプテンは「人が失敗しても責めるんじゃなくて、笑わせてくれて練習が楽しい」と話す。

実は桑畑さんは元中学校教師で、引退後も「地域のおじいちゃん」的存在として子どもたちに関わり続けている。

入来中野球部 地域指導員・桑畑明斎さん:
たまには土日ゆっくりしたいなという思いも半分ありながら(練習に)行くと元気をもらう。子どもたちの笑顔に自分も元気をもらい支えられている

出られなかった試合に出るチャンスも

鹿児島県最南端の与論町には中学校が1校しかない。そのため地域の人も積極的に参加し、文化部の地域移行も進むなど地域の実情に応じた部活動改革が進んでいる。

変わったのは指導者だけではない。
薩摩半島南西部、南さつま市立の義務教育学校・坊津学園の道場では、小・中学生16人が所属する柔道クラブの練習が行われていた。部活動の地域移行で、中学校の柔道部と小学校のスポーツ少年団が合同となり、「地域クラブ」として結成された。周辺の5校から生徒・児童が通っている。

キャプテンの大工園佑柔さんが通う枕崎市の枕崎中学校には柔道部がなく、「実践や乱取りを多くしていそうだったのでここに来ようと思った」と入部の動機を語る。大工園さんの母親も「これまでは個人戦しか出られなかったが、クラブ移行で『坊津学園柔道クラブ』として活動できるようになり、団体戦に出られるようになったのですごくよかった」と、地域移行のメリットを話した。

2023年度からは大会のルールも改正され、学校に部活動がなくても条件を満たす地域クラブに所属していれば大会に出場できるようになった。

柔道クラブを指導する地域指導員の下村蔵多さんは、「子どもたちが『あそこで柔道がしたい』『あそこでスポーツをしたい』と、選択肢が広がった」とプラスにとらえた上で、「うちの道場を選んで隣の市や学校外の子どもたちが来るので、そこの責任とやりがいをすごく感じながらやっている」と話した。

クラブの存在は、教員の働き方の改善にも一役買っていた。
息子と共に練習に参加する永田美帆さんは、南さつま市にある加世田中学校の教員だ。学校では陸上部の顧問を務めるが、地域移行で、土日は休めるようになった。

地域移行の効果について、永田美帆さんは「これまでは自分の子は放って部活に行かなければならなかったが、地域移行になって我が子の部活も見られるのでありがたい」と語った。

人材確保や人件費…まだまだ課題も

部活動の地域移行を好意的に捉える関係者が多い中、今後課題となるのが指導者の確保だ。

鹿児島県教育委員会・徳田清信保健体育課長(右)
鹿児島県教育委員会・徳田清信保健体育課長(右)

鹿児島県教育委員会・徳田清信保健体育課長は「人材の確保だったり活用だったり、クラブも専門的な指導員をそろえるとなると、それなりの人件費もかかるので、課題として検討」と話す。

今は国の助成があるが、数年後には人件費を賄うための保護者負担も見据える必要がある。徳田課長は、「単なる受け皿ではなく、子どもたちが地域で活動し、子ども自体が地域・保護者の力を入れながら育っていくことで、地域の活性化にもつながるのではないか」と展望を語った。

当たり前のように学校が担ってきた部活動という“学びの場”をどう守るのか。今後、地域や保護者も「当事者意識」をもって考えていく必要があるのではないか。

(鹿児島テレビ)

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