「(かつては)最終電車を運転した後、睡眠は3時間半や4時間だけで、また運転しなければならない環境でした」。運転士歴20年の村山誠さんは、以前の厳しい勤務実態をそう振り返る。県内の交通事業者は今、深刻な運転士不足という課題に直面している。

この記事の画像(5枚)

利用者85%減、岐路に立つ地方鉄道

富山地方鉄道は全国の地方鉄道の中でもトップクラスの路線網を持つ。電鉄富山駅から宇奈月温泉や立山までを結ぶ総延長93.2kmの路線を維持してきた。しかし、富山地方鉄道によると、ピーク時のおよそ60年前には3800万人だった年間利用者数は、昨年には530万人ほどに減少。この60年で85%もの利用者を失った計算だ。

「公益性、収益性というバランスを今後も考えながらダイヤを作っていかなくてはいけない」と、富山地方鉄道鉄軌道部の宇波真一副部長は語る。経営環境の悪化と運転士不足という二重の課題に対応するため、富山地鉄は今年度、大幅な減便に踏み切った。

運転士の働き方改革と減便の実態

減便の対象となったのは、利用客の少ない休日や平日の昼間の時間帯だ。地鉄本線では平日と休日合わせて36本、立山線で11本、不二越・上滝線で12本が減便された。さらに働き方改革の一環として、終電の時間をおよそ10分から35分繰り上げた。

この措置によって、村山さんのような運転士の労働環境は改善された。「減便して最終電車のダイヤが早くなり、始発も少し遅くなったので寝る時間がだいぶ増えました。身体的にも楽になり、安全面でも重要なことだと思っています」と村山さんは話す。

しかし、利用者からは「学校の時間がギリギリなので困る」との声も聞かれる。公共交通機関としての役割と経営の両立は容易ではない。

バス事業者も深刻な人手不足

富山地方鉄道では去年10月に路線バス36路線で105便を減便したほか、富山と東京を結ぶ高速バスも今月7日から全便運休とした。短時間勤務や退職社員の復職制度を設けるなどの対策を講じているが、応募自体が少なく、人手不足は続いている。

高岡市の加越能バスも同様の課題を抱える。同社の運転手数は昨年度時点で75人と、この5年で20人近く減少した。

多様な人材で危機を乗り切る

加越能バスでは2024年8月、初めて外国人を採用した。現在、3人のフィリピン人が整備士として働いている。「ヴィンさん」の愛称で親しまれているアルダイ・マルヴィン・ダコスコスさん(27)は「毎日の仕事にもう慣れました。めっちゃ楽しいです」と笑顔で話す。「いろんな仕事があるんですけど、ずっとここで働きたい」という前向きな姿勢も見せる。

同社は女性の活躍にも期待を寄せる。バスガイド6人をバスの運転手に登用し、現在は8人の女性が運転手として活躍している。

加越能バス総務部の土井智弘課長は「路線バスを運行するのは当然のこととして、貸し切りバスを動かす時に人員が足りない」と課題を指摘する。

持続可能な交通サービスの確保へ、富山県の公共交通は大きな岐路に立っている。利用者の減少と運転士不足という厳しい現実の中で、多様な人材の活用や働き方改革など、様々な取り組みが模索されている。

富山テレビ
富山テレビ

富山の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。