サッカーJ1の舞台で、再昇格から5シーズン目を戦うアビスパ福岡。サポーターの期待も年々高まっている。その裏で、選手を支える1軒の弁当店を取材した。
アスリート支える『町の弁当屋さん』
福岡市東区にあるアビスパ福岡の練習場。選手たちが練習に励むなか、クラブハウスでは、ケータリングの準備が進められていた。

まるでホテルのビュッフェのような品揃えと豪華さだ。選手たちが練習後、すぐに栄養補給できるように準備されている。提供しているのは、福岡・福津市で20年以上続く唐揚げとお弁当の店『ふじや』だ。

店の佇まいは、地元に愛されている『町の弁当屋さん』という雰囲気の『ふじや』。アビスパの仕事を始めたのは5年前になる。なぜ、J1チームのケータリングを始めたのか。『ふじや』の北川徹さんに尋ねると「子どもたちがアビスパのジュニアスクールに通っていて、それでアビスパの本社の方と知り合って『練習後、すぐに食事を摂れる状態をチームとしては作りたい』と言われた」ときっかけを話す。

さらに北川さんは、かつて料理人として有名ホテルなどで15年ほど働いた経験がある。それも声がかかった理由のひとつだった。

加えて妻の裕子さんは、アスリートフードマイスターの資格を持つ。2人の高い技術と豊富な知識を合わせてアスリートの食事をサポートしている。
用意した料理は55人分
ケータリングの準備は、前日の深夜から始まる。作るうえで気をつけていることは「試合前なのか連戦なのか、チームの状況や栄養のバランスなど」と話す北川さん。チーム状況に合わせて、毎日違うメニューを考え、作っているという。

この日のメニューは、卵付きの豚レバーニラ炒め。食事は栄養面だけでなく、アレルギーや好き嫌いがある選手もいるため選択肢を増やす作り方を心がけている。北川さんは「妻は、結構、選手とコミュニケーションを取るので、誰々が『こういうの食べたいって言ってた』とかを参考に」と話す。

そして選手の意見も取り入れたアビスパのための食事が完成。練習場に運ぶのは、妻の祐子さん。この日、用意した料理は55人分だ。選手たちが練習後、すぐに食事が摂れるよう、テキパキと準備を進めていく。

メニューは、鶏ムネ肉の甘酢炒めや豚レバーのニラ炒め、豆が入ったチリコンカンなど全て栄養面などが考えられている。祐子さんは「ムネ肉だったら筋肉、レバーだったら鉄分、疲労回復。豆でタンパク質と炭水化物。ちょっとパワーをつけてもらって『いっぱい走れるように』というメニューに今週はしていきたい」と準備を進める。
“ゴールデンタイム”を効果的に
練習を終えた選手たちが続々とテーブルに着く。「おいしい。練習が終わって、すぐ食べられるので、めっちゃ助かっています」(FW紺野和也選手・27)、「当たり前じゃないと思います。本当にありがたい」(MF 重見征斗選手・23)、「1週間で同じメニューがほとんどないです。いつもおいしく楽しみながら食べさせてもらっています」(DF 上島拓已選手・28)、「好き嫌いないです。トレーニングの30分以内に食事を取れるのは、ありがたいです」(DF 小田逸稀選手・26)と選手たちも口を揃えて絶賛する。

練習後30分以内は“ゴールデンタイム”と呼ばれていて、食事を摂ることが、筋肉の回復や疲労軽減に効果的だとされている。

ベテランGKの村上昌謙選手(32)は「練習後、疲れているところにエネルギーのない状態でいるというのは、体の回復にすごく支障をきたすので、ご飯を食べて栄養が回復できるというのは僕たち夏場の連戦に走りきれる力になるので感謝しています」とゴールデンタイムの重要さを強調する。

夫婦2人3脚で支えるアスリートの料理。北川さんは「スタッフの一員とは、おこがましくて言えないんですけど、選手たちの最後の一歩が出れば。そのチカラにちょっとでもなれればと思います」と話す。

5月29日現在、アビスパは8試合勝利なしと苦しい時期を迎えているが『ふじや』の食事でパワーを付けて巻き返しに期待したい。
(テレビ西日本)