専門家選びは慎重に
「これらの制度はご自身で手続きをすることもできますが、きょうだいがいる、財産が多い場合などは、のちのち揉める要素を作らないように、専門家に依頼することをお勧めします。不動産を売る予定がある場合は特にです。
ただし、専門家といっても、どこまで丁寧にやるかはまちまち。書類だけ作っておわりというところもあれば、私のように、できるだけ最後まで依頼者にかかわっていく方針のところもあります。当然、値段も変わってきます。問い合わせてみて、ご自分の納得のいく専門家を探してみてください」
法定後見制度が不評な理由
なお、すでに認知症などで判断能力が低下して資産が凍結されてしまった場合、凍結された資産を解除できるのは、「成年後見制度」の一つである「法定後見制度」だけ。
「ただし、法定後見制度は非常に使いづらく、家族には不評です。後見人は、家庭裁判所が、支援される人の資産や家族関係などを勘案して選任します。そのため、希望する家族を含めた候補者が後見人に選ばれるとは限りません。
次に、任意後見制度と同様に後見人が財産を管理しますが、お金の使い道がかなり制限されます。例えば、孫などへのお祝い金、美容代や旅行代なども、後見人や家庭裁判所が認めないことも。
後見人の仕事は基本的に非公開。財産がいくら残っているかも家族に教えてくれないことも多いです。さらに、本人が亡くなるまで契約が続くため、家庭裁判所が決めた後見人への報酬が発生し続けます。法定後見制度はあくまで『本人』の財産を守ることが目的なので、家族のニーズとはかけ離れることがあるのです。なお、成年後見制度は、制度の法改正に向けてすでに有識者による調査審議が始まっています」
いざ資産が凍結してしまった時の大変さを考えると、親が元気なうちに「家族信託」や「任意後見制度」を検討しておくとよさそうだ。帰省や記念日などのタイミングが相談のチャンスかもしれない。
安田まゆみ
東京・銀座の「元気が出るお金の相談所」所長。CFP認定者(国際資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)。FP歴29年。女性を応援する「マネーセラピスト」として、これまでの相談件数は8000件以上、講演回数は1000回を超える。一男一女を育てあげた後、実父と義父を看取り。2021年に母を突然失い、2023年には15年認知症を患い介護をしていた義母を見送った。著書に『もめないための相続前対策: 親が認知症になる前にやっておくと安心な手続き』(河出書房新社)、『そろそろ親とお金の話をしてください』(ポプラ社)など多数。
取材・文=川口有紀