「気象台近くの海にイルカの群れとの情報」

観光ガイドの説明があり、世界遺産の島に向かう船は方向転換した。小笠原諸島の父島に隣接する南島に上陸するツアーであったが、「場合によってはイルカと一緒に泳げる」とも案内には書かれていた。

ウェットスーツのファスナーを上げて、シュノーケル付きの水中レンズを付けた。船は何度か気象台の前の海を往復したが、イルカは発見出来なかったので、予定通り南島に向かった。

南島 上陸した岩場の近くに複数のサメ 
南島 上陸した岩場の近くに複数のサメ 
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人工の船着き場はなく入り江の岩場から上陸した。近くにサメが群れていたが、人には危害を与えないという。人一人が通れる細い砂の道があった。

固有種の植物や野鳥の巣を踏み潰さないため、砂の道から出ないよう観光ガイドから注意があった。洞窟で外洋とつながる内海があり、泳ぐことが許された。

高台からの南島 観光ガイドと一緒でなければ上陸出来ない
高台からの南島 観光ガイドと一緒でなければ上陸出来ない

レンタル料を払ってウェットスーツを借りた甲斐があった。流されるので洞窟に近づき過ぎないよう観光ガイドが見張っていた。
観光ガイドは、勉強をして歴史や自然を説明する以外に、自然を守り、観光客の安全管理をする役でもある。「イルカと一緒に泳ぐために父島に来た」と話すガイドは、憶えなければ多くて大変だとこぼしていた。

知床五湖「○○湖の近くにクマの糞の情報」

観光ガイドのトランシーバーに注意喚起の連絡が入った。こちらは北海道・知床五湖のトレッキングツアー。
ツアー出発前に「ヒグマとの遭遇を避ける」為のビデオを見せられていたが、参加者は、フランス、アメリカ、シンガポールと外国人観光者で、全員クマとの遭遇の為に来ていた。

この地域は観光ガイドの同行なしに入ることは出来ないし、有事の際は観光ガイドが客とクマの間に入り守ることになっていた。視界の悪いところでは手を叩いて声をあげて「遭遇を避ける」ように気を配っていた。

鹿が水芭蕉の白い花を食べていた
鹿が水芭蕉の白い花を食べていた

雨が降った後で水たまりが出来ていたが、水たまりを避けて植物を踏まないようにガイドが雨具と長靴を準備していた。長靴を履いて水たまりに入っていくのは子どもの時以来だ。つい水たまりを避けそうになってしまう。

このガイドは名古屋出身で、インバウンド需要が増えたので英語を二年間勉強して身につけたそうだ。けっして語彙が豊富とは言えないが、植物や動物の説明をしっかりしていた。

「観光客がクマに会える確率は2%」

トレッキング中にはクマに遭遇できなかったが、町に戻る途中の道路に出てきた親子のクマと遭遇した。ガイドはクマを刺激しないように遠くに静かに車を止めた。

「観光客がクマに会える確率は2%なので、皆さんは運がいい」と興奮気味に語っていたのに嘘はないだろう。ここでもガイドは、説明、自然保護、安全管理が求められている。

親子のクマと遭遇したが、観光ガイドは遠くに車を停めた
親子のクマと遭遇したが、観光ガイドは遠くに車を停めた

発展途上国の外貨獲得の為に始まったというエコツーリズムだが、日本のエコツーリズ推進法では、「自然環境について専門家に説明を受け、保護に配慮しつつ触れ合うこと」と定義としている。また、持続可能な地域作りの一環でもあるという。

現地の観光ツアーに参加した人は、参加してない人より長く滞在し、お金を多く落としていく、リピーターになる確率も高いという。人出不足からリピーターの獲得の先に移住者の招致を目標に据える自治体もある。

ウトロ港近くの岩場に早朝現れたキタキツネ
ウトロ港近くの岩場に早朝現れたキタキツネ

父島と知床のガイドはいずれも移住者だった。どちらも「勉強が大変」と話していたが、自分の好きなことのために来たという満足感にあふれていた。
(フジテレビ 森安豊一)

森安豊一
森安豊一

論より証拠。われわれの仕事は、事実の積み上げであり、事実に対して謙虚でなければならない。現場を訪れ、当事者の話を聞く。叶わなければ、現場の近くまで行き、関係者の話を聞く。映像は何にもまして説得力を持つ証拠のひとつだ。ただ、そこに現れているものが、全てでないことも覚えておかなければならない。
1965年福岡県生まれ。
福岡県立東筑高校卒、慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒。
警察庁担当、ソウル支局特派員、警視庁キャップ、社会部デスク、外信部デスク、FNN推進部デスク、FNNプロデュース部長を経て報道センター室長。
特派員時代は、アフガニスタンや北朝鮮からも報告。