近年、わが子の「頭のかたち」を心配する親が増えているという。
赤ちゃんの頭は、いわゆる「向き癖」によるゆがみが多く見られるが、病気が原因というケースもある。
こうした赤ちゃんの頭の「ゆがみ」について調べ、病気の早期発見や治療につなげようと、島根・出雲市の島根大学医学部附属病院に専門外来が開設されている。ここでどのような診療が行われているのか取材した。

島根・出雲市にある島根大学医学部附属病院。ここに2023年5月に開設されたのが「赤ちゃんの頭の形外来」だ。
島根大学医学部附属病院 小児脳神経センター・君和田友美センター長:
じゃあちょっと頭の大きさ測りますね。

診察にあたるのは君和田友美医師。小児脳神経センターの小児脳神経外科の専門医だ。
「赤ちゃんの頭の形外来」は週に1回開かれ、わが子の「頭のかたち」を心配する親たちが訪れている。診察では、「頭のかたち」のゆがみやその原因を調べ、適切な処置や治療につなげる。

頭のゆがみの要因「向き癖」以外の「病気」を見逃さないことが大事
骨がやわらかく、頭のかたちが変わりやすい赤ちゃん。
ゆがみが起きる原因は「向き癖」と「病気」だ。
君和田センター長は「頭のかたちが気になるという親御さんが比較的多く受診されるようになっている」と現状を説明。「頭の変形している赤ちゃんが、病気なのか病気ではいのかという判断をする、要は“病気を見逃さない”のが一番大事な仕事だ」とその役割について話す。
実際に外来で診察を受けた人のほとんどが病気ではなく、常に同じ方向を向いて眠ることによる、いわゆる「向き癖」が原因だとしている。

赤ちゃんの頭の形については、うつぶせ寝による突然死を防ぐため「仰向け寝」が推奨されるようになったことで、後頭部が平らになる「短頭症」いわゆる「絶壁」。またどちらかの片側が平らになり斜めにゆがむ「斜頭症」になりやすいという。
この外来では、受診した赤ちゃんの9割が「向き癖」によるゆがみだったとしている。

島根大学医学部附属病院 小児脳神経センター・君和田友美センター長:
「向き癖」で頭がへこんだりしている場合は、基本的には脳の発達には影響がないと言われいてます。見た目以外には気にする必要はないかと思います。見た目に関しても、見た目だけと思えば、それで健やかに暮らしていってもらって全然良いのではないかと。

それでも「見た目が気になる」という場合には、専用のヘルメットを装着して矯正することもできる。
この日、出雲市内の医療用具店を訪れていたのは、10か月の双子の男の子だ。2人の頭のかたちを測定していた。

「頭の形外来」で向き癖によるゆがみと診断され、矯正のために3か月前から専用のヘルメットを装着している。
双子の赤ちゃんのお母さん:
気が付いたらいつも同じ方を向いていて、「向き癖」だなと思って反対を向かせたり、タオルで向きを矯正してみたりしたけど直らなくて、気が付いたら頭が平らになっていたので。
双子の男の子の母親は、このように「頭の形外来」を受診した経緯を話した。

矯正開始の理想は生後6か月くらいまで…課題は費用
矯正用のヘルメットは、まずスマートフォンのアプリを使って頭の大きさなどを測定。そのデータを大阪のメーカーに送り、さらにアメリカの工場で製作される。
赤ちゃんの頭がい骨は、脳の成長にあわせて拡大するための縫合部(骨と骨のつなぎ目)が閉じていくため、矯正を始めるのは生後6か月くらいまでが理想だとしている。
ただ課題は費用で、保険が適用されないため、40万円以上かかるとされている。
診断により「病気」を早期発見したケースも
一方で、ゆがみの原因が「向き癖」ではないケースもある。
君和田センター長の診察を受けるのは、1歳6か月の男の子「しゅん」くん。

しゅんくんのお母さん:
この子は、少し後ろが出ているかたちで、仰向けに寝るのが難しそうだったような気がしたんです。1か月検診の時に、頭のかたちがきれいに成長していくといいなと思って、小児科の先生に相談しました。
しゅんくんのお母さんが、かかりつけの小児科に紹介してもらい受診したところ、想定外の診断を受けた。

しゅんくんのお母さん:
「頭がい骨に先天性の病気の疑いがある」ということで、詳しく検査をしましょうということになりました。
診断結果は「頭蓋縫合早期癒合症」。通常は、赤ちゃんの脳の成長にあわせて拡大する頭がい骨の縫合部(骨と骨のつなぎ目)が早い時期にふさがれ、頭のかたちが変形したり、頭の中の圧が高くなったりする病気だった。

島根大学医学部附属病院 小児脳神経センター・君和田友美センター長:
ここに本来あるべき「矢状縫合」という縫合線が、赤ちゃんなのにすでに消失しているということで、「頭蓋縫合早期癒合症」という診断になった。
この診断を受けたしゅんくんは、生後3か月の時にふさがれた頭の骨を削り、隙間をつくる手術を受けた。

しゅんくんのお父さん:
第一子なので手術が成功するか不安もありましたけど、僕の一番の不安は奥さんの精神面で、そっちの方がきつかったので、僕はどちらかというと奥さんのサポートの方にまわりました。
早期に見つかったことで、内視鏡による手術を受け成功。その後専用ヘルメットを約8か月間装着し、頭のかたちを矯正しました。

しゅんくんのお母さん:
夏場は汗をかくので、頭皮がかぶれたり湿疹が出たりしたのが一番大変でした。
入浴時を除いて、ヘルメットをかぶり続けるのは、小さなしゅんくんにとって大変なこと。

お母さんもヘルメットをかわいくデコレーションするなどしてサポートし、2024年9月に無事ヘルメットを卒業しました。
島根大学医学部附属病院 小児脳神経センター・君和田友美センター長:
(大事なのは)病気か病気じゃないかっていうことを判断することと、変形が気になっている赤ちゃんの親御さんに、「病気じゃないから脳の働きには基本的には影響はないと思っていいですよ」ということを伝えるのが一番大事だと思う。

目指すのは病気の”早期発見と早期治療”。君和田医師は、頭のかたちが気になったら、ためらわずに受診してほしいと呼びかけている。
(TSKさんいん中央テレビ)