オフィスビルやタワーマンションなど建物の高層化が進んでいるが、高層ビルが地震に襲われた際、「長周期地震動」が大きな脅威となる。南海トラフ地震でも大きな被害をもたらすとされ、揺れを抑えるための新たな技術の開発が進んでいる。

■遠く離れた場所でも…高層ビルを揺らす「長周期地震動」

2024年4月に全面リニューアルオープンした、名古屋市中区栄の「中日ビル」は、地上33階建ての高層ビルで、高さはおよそ160メートルだ。

この記事の画像(17枚)

名古屋の街には次々と高層ビルが誕生しているが、大地震の際には「長周期地震動」のリスクが伴う。

長周期地震動とは「周期の長いゆっくりとした揺れ」のことで、震源から数百キロ離れた場所でも“地震の揺れの周期”と、“建物が持つ揺れやすい周期“が一致すると、高層ビルは長時間にわたり大きく揺れる傾向がある。

2011年の東日本大震災が発生した時には、東京都の新宿エリアにそびえたつ高層ビルが、左右にゆっくりと揺れ続けていた。

■ヘリポートが「巨大な重り」に 揺れを“上から”抑える

中日ビルは長周期地震動に備え、ヘリポートを利用して揺れを最低限に抑える仕組みを取り入れている。

名古屋市では、高さ100メートルを超えるビルにヘリポートの設置が推奨されていて、中日ビルのヘリポートは、外側から見ると土台部分は一体化しているように見えるが、上と下は別々の構造になっている。

中部日本ビルディングの担当者:
手を突っ込んでいただくとわかるんですけど、ここから下が建物側、ここから上がヘリポートのマスダンパーになって、地震がきた時、大きな揺れがあった時に(ヘリポート側が)動くというイメージです。

ヘリポートはおよそ750トンあるが、揺れに合わせて変形する9個の特殊なゴムに支えられ、浮いたような状態になっている。

震度5強程度以上の地震や長周期地震動に対して活躍するのが、レールを十字に組み合わせた装置で、ヘリポートを前後左右になめらかに動かす役割がある。

建物の上で「重り」のようになっているヘリポートは、地震が発生すると、ビル自体の揺れから少し遅れて動き始める。

ヘリポートが大きく揺れることで下のビルの揺れを打ち消し、結果的に全体の揺れを抑える効果がはたらく。この装置により、大地震による揺れを10%から15%程度、軽減できるという。

中部日本ビルディングの担当者:
一番上の揺れの大きいところに、こういったものをつけている方が、制御がしやすいんじゃないか。建物の中に設備を置く部屋を設けたりしなきゃいけない部分があるので、今回はヘリポートを有効活用した。

■ビルそのものを「制振装置」に…最新ビルの“新発想”

最新のビルでは、これまでにないユニークな発想も取り入れている。大手ゼネコンの清水建設は、東京都港区で2025年2月末に竣工した43階建てビルのうち、35階から上のホテル部分を構造的に独立させて建築した。

清水建設の担当者:
建物を上層階と下層階に各構造的に独立させて、連結した構造システムになります。ビルの重さを活用して揺れを軽減する「建物自体を制振装置化」したシステムになります。

中日ビルではヘリポートが果たしていた“上から”揺れを抑える役割を、上層階に位置するホテルが担っているという。

およそ4メートルの模型を高さ100メートルの高層ビルに見立てて、揺れを加えて実験すると、重りになった上層階が下のフロアと逆方向の動きを繰り返し、互いの揺れを打ち消し合うことに成功した。

一般的な超高層ビルに比べて、最上階では揺れを半分以下に、下層階でも3割ほど軽減しているという。

ビルそのものを「制振装置」にしてしまうことで、建物の高層化と地震への備えを両立させていた。

清水建設の担当者:
かつて超高層ビルが立ち並んでいるという景色もなく、密集しているということもなく、新たな課題「長周期地震動への対策」が出てきた。時代とともに、技術を対応させていかなければならない。

■非常停止による閉じ込め回避…エレベーター揺れを“予測”するシステムも

高い建物ならではのもう1つのリスクが、エレベーターのトラブルだ。東日本大震災では長時間閉じ込められるケースが相次いだほか、2015年に関東地方を襲った大地震でも、エレベーターが停止し、高層階に多くの人が取り残された。長周期地震動がビルを襲った時、エレベーターでは何が起こるのか。

日立ビルシステムの担当者:
ロープがゆっくり大きく揺れた時に、共振してどんどん揺れが増幅するという現象が起きますので、安全に運行できないということでエレベーターが止まるという状況が起きます。

長周期地震動の揺れとエレベーターのロープや制御ケーブルが共振して、ビル内部の機器に引っかかる恐れなどもあり、エレベーターが非常停止し、中に閉じ込められることもあるという。

そこで、高さ120mを超えるビルへの対策として「長周期センサー地震時管制運転システム」を推奨している。

長周期地震動が発生すると、ビル上部に設置したセンサーで感知した揺れや、あらかじめインプットした“ビルが揺れる周期”に基づき、ロープ類がどれだけ振れるのかをリアルタイムで予測する。

「大きい」と予測された場合は、振れが大きくなる前に最寄りのフロアで一旦動かすのをやめ、乗っている人の安全を確保する。

振れ幅が「小さい」予測の場合は、速度を落として運転を続け、振れが収束した時点で自動的に平常運転を再開するなど、個々の地震に合わせ、エレベーターを最適に稼働させる。

日立ビルシステムの担当者:
ビルを利用するために、エレベーターというのはインフラとして重要なものになりますので、エレベーターが動かないと、そのビル自体が使えなくなってしまうということになりますので、早期の復旧が弊社の使命と考えています。

日立ビルシステムでは“走る蓄電池”ともいわれる電気自動車から、停電で動かなくなったエレベーターに、電気を供給するシステムも開発した。

フル充電状態ならおよそ45時間連続で動かすことができ、2025年、大阪府のマンションに初めて導入された。

日立ビルシステムの担当者:
病院ですとか介護施設、こういったところも停電の際にエレベーターが動かなくて困ったという話を伺っていますので、そういったところにも普及が見込めると思っています。これから電気自動車が普及していきますと、走る蓄電池が巷にたくさん置かれる形になりますので、今後、停電時の対策が気軽にできるんじゃないかなと考えています。

建物の高層化が進む現代社会で、新しいビルができるのと同時に、“もしも”への備えも進化している。

2025年3月13日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
東海テレビ

岐阜・愛知・三重の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。