質問:河本は爆破事件(※編集部注 1995年3月、都内で発生の宗教学者宅爆破事件)への関与は認められないとされたが、本件関与は?
「河本が本件に関与したことを認めるに足る証拠はない」
質問:今回の捜査は失敗だったのか?
「本件捜査は適切に遂行したと考えている」
質問:今回の捜査は実行犯も特定せず、確たる見通しもないまま関係者から自供等を得るため強制捜査に踏み切った見込み捜査ではないのか?
「本件被疑者の逮捕勾留を含めその捜査は適切に遂行したものでありご指摘のような批判は当たらないと考えている」
今後の捜査は
質問:時効まで後5年半あまりであるが今後の捜査はどうなるのか?
「今回は、本件の事件処理をする上で必要と認められる捜査を尽くした上で不起訴処分を行ったが、今後も警察と協力し(事態の推移に応じて必要があれば所用の捜査検討を続け)適切に対処する。
なお今後狙撃犯の特定をはじめ本件の真相を明らかにする新たな事実が明らかになった場合には検察としても事件を再起して必要な捜査を行うことはもとよりである」
質問:結局迷宮入りになるのではないか?
「今後の捜査の行方やその見通しについては答えられない」
「オウム真理教による組織的犯行の可能性高まる」
この資料からも分かるように、東京地検は「七夕の逮捕」のきっかけとなったコートの溶融穴という新証拠は、一般的に拳銃発射時に開いた穴とは認められるものの、本件犯行時に開いた穴であると言える証拠にはならないとした。また現場に遺留された韓国ウォン硬貨に付着したDNAが、オウム信者の来島明(仮名)のDNAに近いものであるとの鑑定結果が出たことについては(*第43話-1参照)、来島がそのコインに触れたという事実を認定する証拠にはなっても、来島が事件当時狙撃犯と共に現場に行ってそのコインを遺留したことを認めることはできないと結論づける。

テレビ朝日への脅迫電話については既に時効を迎えていたため「七夕の逮捕」時点で既に罪になるものではなかったが、矢野が「金子の声だ」と明かしたことで始まった話であり、かつ、複数の専門機関による鑑定の結果「金子の声と酷似」との鑑定結果が出ていたため、オウム犯行説を支える重要な状況証拠にならないか追及された。しかし東京地検は、この電話が誰から何のための指示だったのか詳しい経緯が解明されなければ長官銃撃事件につながる傍証にはなりえないとした。

河本(仮名・教団幹部)メモの
「弾が何かおかしい
のしゅるい→発表」
についても同様で、誰の何の発言を何のためにメモしたものか解明されなければ、長官銃撃事件そのものに繋がっていかないのである(*第41話-3参照)。
しかし東京地検は、記者会見対策として作ったこの想定問答に「オウム真理教による組織的な犯行である可能性は一層高まったと認められる」と記し、南千住署特別捜査本部のこれまでの捜査の進捗を評価していたのである。
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】
1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。
警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。
東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。
最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定している。