どんな人でもお寺に来てもらえるように
「手伝いたいけど声をかけられない」
「どうしたらいいのかわからない」
街中で困っている高齢者や障がい者を前に、こう思う人は多い。東京オリンピック・パラリンピックを来年に控えたいま注目されているのが、高齢者や障がい者の視点に立ち、さりげない心遣いや適切な向き合い方を学ぶ「ユニバーサルマナー検定」だ。すでに日本全国の600の企業・団体・学校で6万人が受検しているが、日本で初の試みとなる寺院の僧侶らを対象にした検定が今月行われた。
「ユニバーサルマナーは、『ハードは変えられなくても、ハートは変えられる』が合い言葉だと聞きました。施設は変えられなくても私どもの心を変えて、どんな人でもお寺に来て楽しんでもらう。そういうお寺をつくりましょう」
検定の開催会場となったのは都内荒川区にある町屋光明寺。住職の大洞龍徳氏は、他のお寺からも参加した僧侶や職員など50人に向けてこう呼びかけた。大洞住職がユニバーサルマナー検定の存在を知ったのは去年。「高齢者や障害のある人が増えてきたので、お寺をそうした方々に対応できる施設にしたい」と受検を思い立った。
僧侶が学ぶユニバーサルマナー
この記事の画像(6枚)「お寺は好きでしたが、車いすとなってからは行けない場所になってしまいました」
講師を務めたのは一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会の岸田ひろ実さん。自らの車いすの経験をもとに、ユニバーサルマナーの講演を行っている。
日本のお寺は、「お堂に上がるのに10段くらい階段を上がらないといけないとか、畳なので車いすで移動が大変だとか、お手洗いがないとか、一人の介助ではなかなか行けない」(岸田さん)のが実情だ。一部ではスロープを設置するなど、ハード面のバリアフリー対応が進められているが、多くは対応の重要性を理解していても、膨大な時間やコストがかかり対応できていない。
それだけに講義を聞く僧侶やお寺の職員の表情は真剣そのものだ。
「障がい者に『出来ますか?』とは聞かないで、『私にお手伝い出来ることはありますか』と聞くのが魔法のフレーズです」と岸田さんが言うと、「そうなのか」「知らなかった」という呟きや溜息が会場内から聞こえてくる。
また、車いすの人を階段で降ろすときに、車いすは前向きがいいのか後ろ向きがいいのか、盲目の人を誘導するとき背を押すのか腕を差し出すのかといった具体的なマナーも学ぶ。
さらに施設の入り口の段差が盲目の人にもわかるように、どのような工夫をすればいいのかなどハード面の知識も共有する。
「講義を受けなかったら健常者の目線でいろいろな活動をしたと思うので、本当に受けてよかった。ハードで変えられる部分、変えられない部分を見極めながら、今日学んだように職員の接遇対応でカバーしていくことを考えたいと思う」
検定3級の認定証を手にした大洞住職は、そういってほほ笑んだ。
生活環境の障がいをなくしていく
「やはり『気づかないが故に対応できなかった』、『何かしたいけれど、その視点がなかったから何もできなかった』というご住職が多いのかなと思いましたね」(岸田さん)
障がい者とは、障がいを持つ人のことではなく、モノや環境が生活の障がいになっている人である。今回の学びに参加した僧侶のお寺では、これからモノや環境が変わっていくだろう。
いま日本では、高齢者と障がい者、さらにベビーカーを入れると、人口の4割近くの人が街中で不自由を感じて暮らしている。「無関心・過剰」を変え、すべての人が安全・安心な生活を送れる「ユニバーサルデザイン」を実現した社会をつくる。ユニバーサルマナーの学びは、その第一歩といえる。