アート作品との触れ合いを通じて多様性を認め合う社会の実現を目指そうという取り組みが、秋田・横手市の美術館で行われた。私たちの暮らしの中にある「笑い」という感情をテーマに、人々がつながりあう場を生み出そうとユニークな展示会を企画した人たちの思いを紹介する。
「笑い」がテーマのアート展を企画
横手市にある県立近代美術館。

ここで2~3月にかけ「笑い」をテーマにしたアート作品を集めた展示会が開かれた。
展示会を企画したのは、秋田県内の教育機関や地域住民などで組織するプロジェクトチーム「みんなのキンビ」だ。

みんなのキンビは、アートを通じた地域振興に取り組んでいて、初めて企画した2024年は野菜の「大根」をテーマにした作品を紹介し、地域と人との結び付きについて考えてきた。
活動2年目となる2025年のテーマは「笑い」。

会場には、県内の写真家が撮影した表情豊かなポートレートや高校生が手がけたユーモアあふれる動画をはじめ、突然笑い始める巾着袋、正月遊びでおなじみの福笑いなど、思わず笑みがこぼれる16のコンテンツが並んだ。

見るだけでなく、触ったり聞いたり、香りを楽しんだりと五感を通じて楽しめるように、そして小さな子どもからお年寄りまで、障がいの有無にかかわらず、たくさんの人が楽しめる展示を目指した。
アート鑑賞で異なる価値観を認め合う
作品の展示とともに美術館が積極的に取り組んでいるのが「多様性のある社会づくり」だ。

展示会の開催期間中、障がいのある人や芸術に接する機会が少ない人など、様々な立場の人を招いて鑑賞会を開いた。
展示会初日の鑑賞会には地域の高齢者が集まり、作品に描かれた人物の印象を語り合った。

参加者:何かみんなを、それこそ面白いことで笑わせてくれるかなと。
解説員:皆さん、秋田でこういう人、見たことありますか?こういう人がいたらどうですか?
参加者:ちょっと警戒する。
解説員:優しそうだけど、やっぱり警戒しちゃう?お前のことなんか全部わかっちゃうぞ、という感じ?
参加者:心の中がみんな見透かされる。
ユーモアあふれる作品を鑑賞しながらそれぞれの思いに耳を傾けることで、異なる価値観を持つ人への理解を深めていく。
感情と向き合い人と人がつながる場に
鑑賞会に参加した高齢女性は、この日を心待ちにしていたという。

参加者:
今、87歳なの。認知症予防の学習会で非常に楽しみにして、思い思いのことを言えるので非常に気分が高揚して楽しくなる。

超高齢化社会を迎えて、健康の概念自体が「自分が尊重されている」とか、「地域や人など文化とつながっている」ということが健康を保つ重要な要素となっているといわれている。

県立近代美術館の学芸主事・北島珠水さんは「一口で“笑い”と言っても『笑顔』とか『楽しい』だけでなく、例えば『苦笑い』とか『あざ笑う』とか複雑な気持ちの部分もあると思う。自分の気持ちと向き合ったり、人との関係について考えたりという機会になれば」と展示会に込めた思いを語った。
アートを通じて多様性を認める心を育む。美術館の新たな挑戦に注目だ。
(秋田テレビ)