東日本大震災と福島第一原発事故の発生から間もなく14年となる。もっとも事故の被害が大きかった福島県の太平洋沿岸にある浜通り地域はいまどうなっているのか。第二回は浜通りに集う起業家たちの新しい動きと酒づくりに挑む2人の移住者を取材した。

浜通りは新たな社会モデルをつくるフロンティア

「福島浜通り地域で何が起こっているか。地元の方々に加えて域外から特に若い人たちが続々と集まってきて多種多様な面白い取り組みをしています」

2月28日都内で開かれた「福島浜通りフロンティアPRコンソーシアム」設立の記者発表会で、コンソーシアムの中心メンバーである高橋大就さんはこう語り始めた。

高橋さんは元外交官で、震災後浪江町に移住して浜通りを盛り上げる様々な取り組みを行っている。

(関連記事:https://www.fnn.jp/articles/-/498192

浜通りの起業家たちがコンソーシアムを立ち上げた(前列右から2人目が高橋大就さん、3人目が和田智行さん)
浜通りの起業家たちがコンソーシアムを立ち上げた(前列右から2人目が高橋大就さん、3人目が和田智行さん)
この記事の画像(8枚)

「いまこの地域で起こっていることは、もう復興の取り組みという文脈を圧倒的に超えていると思います。だからその文脈を変えたいと、この地域で素晴らしい取り組みをしている18社に集まってもらい、全国、世界に伝えていくコンソーシアムを立ち上げました。浜通りではいまだに帰還困難区域の境界線が目の前にあるという厳しい現実がありますが、新しい社会モデル、地域のモデルを作っていくフロンティアだと思っています」

課題先進地域の福島が課題解決をリード

そして同じく中心メンバーで、浜通りの南相馬市小高区で2014年にコワーキングスペース「小高ワーカーズベース」を設立し、起業家の支援を行っている和田智行さんがこう語った。

「原発事故の避難区域になった地域は、まだまだ課題がたくさんあります。しかし課題とは裏を返せば全てビジネスの種なんじゃないかと。僕らは地域の100の課題から100のビジネスを創出するというミッションを掲げて様々な事業を創ってきました。しかし自分たちの会社だけで100の事業を作るのは大変だということで、起業家の創業支援を始めました」

浜通りではいまも帰還困難区域と隣り合わせだ
浜通りではいまも帰還困難区域と隣り合わせだ

かつて浜通りは経済や雇用を原発に依存した地域だった。和田さんは大企業への依存は地域の人々の主体性を失わせるとしてこう続けた。

「過疎化と雇用減少という課題に取り組むリーダーが増えると、この“絶望のループ”を逆転していきます。それがいま浜通りで起きています。震災や原発事故の文脈でしか注目されてこなかった、課題先進地域と言われた福島が全国の課題解決をリードしていく存在になると思っています」

人口ゼロの地でゼロからサケを醸す挑戦

「人口がゼロになった後でゼロからサケを醸すという挑戦をやっています」

和田さんのもとには域外から南相馬市で起業したいと若者が集まってくる。そのうちの1人でコンソーシアム18社のメンバーでもあるクラフトサケの酒蔵「haccoba(はっこうば)」の創設者である佐藤太亮さんはこう語る。

「僕は誕生日が3月11日で妻が福島出身など様々なご縁があって、浜通りに移住して事業をやっています。僕らの3つの酒蔵は民家を改築したり、仮設住宅の廃材を使って作ったもので、皆さんがイメージする工場のような酒蔵ではないです」

haccoba創設者の佐藤太亮さん
haccoba創設者の佐藤太亮さん

南相馬市小高区にある「haccoba」の拠点は民家を改築して飲食店も併設している。浪江町にある2つめの醸造所は仮設住宅を再利用し、2024年にオープンした3つめの拠点はJRの無人駅になってしまった駅舎を再利用して、醸造所とパブリックマーケットという「新しい公共空間をイメージして作っている場所」(佐藤さん)となっている。

自由な原料で新しいジャンルのクラフトサケを

佐藤さんは「事業のキーワードはクラフトサケです」と語る。

「簡単に言うと日本酒の全く新しいジャンルを作り上げるものです。お米以外の原料も一緒に発酵させて作るお酒で、たとえばフルーツやハーブ、スパイスなど自由な原料で作っていくお酒です。この製法は実は昔日本の家庭がやっていた酒づくりに基づくもので、いま70種類ぐらいのレシピを開発しています。また文化的な産業を担う酒蔵として、去年からお酒と音楽とご飯を楽しむお祭りもやっています」

お米以外にも自由な原料でお酒をつくる
お米以外にも自由な原料でお酒をつくる

コンソーシアム18社のメンバーで、同じ南相馬市小高区にある酒蔵が「ぷくぷく醸造」だ。代表の立川哲之さんは東京生まれ。大学時代に東北の食と酒を支援する団体を立ち上げ、一度は就職したものの酒造りをしたいと宮城県の酒蔵で3年修業をした後に、南相馬市に移住して2022年に「ぷくぷく醸造」を設立した。昨年には小高区で空き家になっていた築80年の民家を改築して酒蔵をつくっている。

「ぷくぷく醸造」は古民家を改築して酒蔵をつくった
「ぷくぷく醸造」は古民家を改築して酒蔵をつくった

原発17キロのまちから世界にサケを輸出する

「地酒はその地域の魅力の1つ。僕は米が感じられる酒づくりを小高でやりたい」

立川さんがつくるお酒のうちドブロクを筆者も飲ませてもらったが、まさに米を感じられるお酒だった。立川さんは「日本酒や地酒は地域の文化的なアイデンティティになる」と考えていて、「だから南相馬や小高にある様々な課題解決の支柱として、地酒は必要です」と語る。

立川さん「地酒はその地域の魅力の1つ」
立川さん「地酒はその地域の魅力の1つ」

立川さんのクラフトサケは都内や全国で販売されている。

「素晴らしい日本酒が集まる専門店で小高という原発から17キロ地点のお酒が一緒に肩を並べて売られています。そんなお酒が浜通りから生まれているということをぜひ知っていただけると嬉しいですし、これから輸出に力を入れていこうと思っていて、小高から世界に飛び立っていきたいなと思っています」

クラフトサケが南相馬市小高から世界に飛び立っていく
クラフトサケが南相馬市小高から世界に飛び立っていく

次回は福島県浜通りの新しい教育のカタチを紹介する。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。