また、睡眠時間に関しては、「90分単位で寝るのがいい」「7時間半睡眠は目覚めがいい」といった言説をよく耳にする。これは、「睡眠サイクルは90分周期」という“睡眠都市伝説”がもとになっていると思われる。

「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という2つの状態を繰り返す「睡眠サイクル」によって、睡眠が構成されているのは事実だ。

日中に眠気はあるか、ないか

ただし、その1サイクルは個人によって異なり、誰しも90分というわけではないし、同じ人でも日によって変わる。

「数十分」という表現しかできないのが実際のところだ。つまり、睡眠時間について、一概に「○時間寝ていれば大丈夫」「理想の睡眠は○時間」などと言い切れないのである。

結局、「何時間、寝ればいいのか?」という質問に答えるのであれば、「翌日、日中に眠気を感じることなくしっかり覚醒を維持できる睡眠時間があなたにとってのベストな睡眠時間」となる。

ここまで説明したように、適切な睡眠時間はヒトの一生の中でも変化をする。“今”のあなたが日中、健やかに過ごせるために何時間必要なのかを見つけるのがいちばんだ。

昼間眠たくなければ十分に眠れているし、居眠りをしてしまうのであればもう少し睡眠時間を長くすることを試みるとよいだろう。

『睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム~快眠のためのヒント20~』(扶桑社新書)

櫻井武
筑波大学医学医療系教授、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長。医学博士。睡眠研究の第一人者。著書に『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』『睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか 改訂新版』『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』(すべてブルーバックス)など

櫻井武
櫻井武

筑波大学医学医療系教授、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長。医学博士。研究テーマ「神経ペプチドの生理的役割」、とくに「覚醒や情動に関わる機能の解明」「新規生理活性ペプチドの検索」「睡眠・覚醒制御システムの機能的・構造的解明」。筑波大学大学院在学中に、血管収縮因子エンドセリンの受容体を単離。テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターに移り、柳沢正史教授とともに、ナルコレプシーの発症にかかわるオレキシンを発見。冬眠様状態を誘導するQニューロンを発見、マウスやラットに人工冬眠様状態を惹起することに成功。睡眠研究の第一人者。著書に『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』『睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか 改訂新版』『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』(すべてブルーバックス)など