詳しい人の意見が適切に反映されずに、あまり練れていない未熟な結論に決まってしまうというようなことは、よくあることだといえます。
集団なら解ける問題もある
このように、集団で話し合って問題を解決することはなかなか難しいのです。
とはいえ、集団で問題解決を試みること自体は悪いことではありません。特に1人では手も足も出ないような難しい課題の場合には、集団で取り組むことは有益です。
注目したいのは、さきほどの実験で、数学の課題で5人中誰も解けなかった場合でも、第2フェーズで集団で話し合いをしたときに、正解率が50%となった点です。
1人では誰も解けなかった問題でも、みんなで協力し合うことで問題解決にたどり着けるようになったとも言えます。
また、知的により難しい課題の場合には、集団で話し合うことで、集団の中の最も優れた個人よりも上回る成果をあげることも可能だと指摘されています(※Laughlin, Bonner, & Miner(2002))。
このように、集団の話し合いは、適切に運用されれば、1人だけでは解決が難しい問題に対して有効な解決策を生み出す強力なツールであるといえます。しかし、そうできなければ、問題解決を遠ざけてしまう可能性もあります。
重要なのは、集団の話し合いのメンバーに含まれる「正解者」を適切に生かすことです。

縄田健悟
福岡大学人文学部准教授。専門は、社会心理学、産業・組織心理学、集団力学。集団における心理と行動をテーマに研究を進め、特に組織のチームワークを向上させる要因の解明に取り組んでいる。一般社団法人チーム力開発研究所理事も務める。著書に『暴力と紛争の“集団心理”:いがみ合う世界への社会心理学からのアプローチ』(ちとせプレス)などがある。