食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「酢豚」。東京の下町・根津で本格的な上海料理を提供する「美華(びか)」を訪れ、特製の衣で包んだ豚肉と野菜を絶妙な甘酢あんで仕上げた料理を紹介。
77歳の夫婦が切り盛りし、遠方からも客が押し寄せる秘密にも迫る。
下町情緒あふれる街にある中華料理店
「美華」があるのは、東京文京区・根津駅。
「根津は今や人気の観光スポットで、いろいろなお店があります」と植野さん。上野や東京大学にも近く、谷中、千駄木とともに「谷根千」と呼ばれる下町情緒あふれる場所だ。
根津の象徴である根津神社は、国の重要文化財に指定された権現造りの社殿を持つ由緒ある神社。春には約100種、3千株のツツジが咲き誇り、「文京つつじまつり」(2025年4月1日~30日)が開催される。
植野さんは「昔はこの辺りを歩き回って、いろいろなお店を回ったことがあり、懐かしいです」「定食屋や昔からやっている居酒屋など、路地にもいろいろなお店が多いです」と話し、店に向かった。
住宅街の中で味わえる本格的な上海料理
根津駅から徒歩4分、文京区と台東区の境にある閑静な住宅街にたたずむのが「美華」だ。

1987年の開店以来、本格的な上海料理を守り続ける店で、昼時ともなると近隣の住民はもちろん、遠方からも訪れる客で満席になる。

厨房で腕を振るのが店主の小池一郎さん。中華料理の名店で16年間修業を重ねた実力の持ち主。

タレに3日漬け込んでじっくり焼き上げた「自家製焼豚」や7種類の野菜や海鮮を使った「五目あんかけご飯」など手を尽くした料理を提供している。
サービスを担当するのが妻の菊子さん。丁寧な仕事と、心温まる接客に導かれ、多くの人が通い続けている。
受け継いだ店のドアは改装後もそのまま
店主の小池一郎さんは、この地で生まれ育った生粋の根津っ子だ。
高校卒業後、実家のタイル工事店を手伝っていたが、26歳の頃に父親が他界したことで、家業をたたむことに。
妻の菊子さんの実家が中華料理店だったため、菊子さんのお義父さんの紹介で中華料理の道へ進む。39歳まで有名中華料理店で修業を重ね、1987年、実家を改装して「美華」を開店した。

植野さんが独立したきっかけを尋ねると、一郎さんは「妻の父親に『店をやりたいと思う』と伝えたら、『やるんだったら、店で使っていたドアを使ってやりなさい』と言われて…」と振り返る。「美華」の入口のあるドアは、菊子さんの父親から受け継いだものだという。

そんな美華を一躍有名にしたのが、ニラの緑が目にも鮮やかな「ニラそば」。多い日で一日100食も出るそう。
そしてスープは鶏の足と頭だけで出汁をとった濁りのない鶏ガラスープ。
約2時間、じっくりと煮込み、アクを小まめにとることで透き通った、鶏のうまみをしっかり感じられるスープになるという。麺はスープによく絡む細麺を使用し、真ん中にお手製の肉味噌を乗せて完成する。

本日のお目当て、美華の「酢豚」。
一口食べた植野さんは「程よく脂が抜けて旨味が残っている感じとそれを丁寧に揚げた感じ。味を引き立てる甘酢あんが気持ちいい」と絶賛した。
美華「酢豚」のレシピを紹介する。