「殺人鬼も密輸犯も自由に包丁を持ち歩いていた」

フィリピンでの収容所生活をこう語るのは、“ルフィ”を名乗る幹部がいた犯罪グループでかけ子をしていた1人の女。フィリピン当局は女が幹部の「金庫番」とみていた。

その女が、幹部の素顔や東京・狛江市の高齢女性が死亡した強盗致死事件について裁判で証言した。

フィリピンから強制送還され成田空港に到着した山田李沙被告
フィリピンから強制送還され成田空港に到着した山田李沙被告
この記事の画像(11枚)

山田李沙被告(27)は2023年1月、仲間と共謀して足立区の住宅から金品を強奪するために道具を準備するなどした強盗予備の罪などに問われ、2024年2月21日に東京地裁で行われた初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めた。

山田被告はフィリピンを拠点にした特殊詐欺事件ですでに懲役3年の実刑判決を受けて服役中で、今回が2度目の裁判だった。

収容所で“ルフィ”グループの幹部と一緒に生活

山田被告は2019年にインターネットの闇バイトに応募しフィリピンに渡航。そこで特殊詐欺グループの幹部だった渡辺優樹被告や藤田聖也被告と出会った。

特殊詐欺のかけ子をしていたが、自身に逮捕状が出ていたことなどから日本大使館に出頭、去年1月にビクタン収容所に収容された。この収容所で渡辺被告と藤田被告と再会。さらに“ルフィ”を名乗っていた今村磨人被告と出会ったという。

渡辺優樹被告(左)・今村磨人被告(中)・藤田聖也被告(右)
渡辺優樹被告(左)・今村磨人被告(中)・藤田聖也被告(右)

弁護人
今村被告とは収容所で初めて会った?

山田李沙被告
はい

弁護人
出会いはどのようなものだった?

山田李沙被告
「日本人のボスのところに連れていってほしい」と言った。

弁護人
ボスの部屋に連れて行かれた?

山田李沙被告
はい。ボスとして今村被告がいました。

今村磨人容疑者(右)と藤田聖也容疑者(左)(フィリピン・2023年2月)
今村磨人容疑者(右)と藤田聖也容疑者(左)(フィリピン・2023年2月)

弁護人
その部屋は何と呼ばれていた?

山田被告
「VIPルーム」と呼ばれていました。

弁護人
今村被告と初めて会ったときの会話は?

山田李沙被告
「初めまして」と挨拶したら「渡辺さんのグループだよね。話は聞いているよ」と言われました。

「殺人鬼でも自由に包丁持ち歩き…」収容所の実態

収容所では派閥があった。日本人の派閥を仕切っていたのが今村被告や渡辺被告だった。食事は取り合いで食べられない人もいた。山田被告は渡辺被告から食料を分けてもらって生活をしていたという。さらに収容所での驚きの様子を次のように語った。

山田李沙被告
収容所にはマフィアやヤクザ、テロリストに殺人犯がいた。殺人鬼でも詐欺犯でも密輸犯でも自由に包丁を持ち歩いていて危険だなと思った。殺人事件や暴行事件も起きていた。

山田被告の部屋にエアコンやテレビは無かった。しかもベッドにはトコジラミが大量発生・・・収容所の職員も信用できなかった。金を盗んだり、食べ物も勝手に食べたり、暴力もあったという。こうした劣悪な環境で生きていくために“人と仲良くすること”が必要だった。特に派閥のトップでVIP扱いだった今村被告ら幹部と仲良くしないと収容所では生きていけなかったと話した。

女が語る“ルフィ“グループ幹部の素顔

今村磨人被告について
「陽気なおじさん。収容所の所長のオフィスによく出入りしてお金を配って仲良くしていた。でも、若い男の子たちの足を火であぶったりもしていた」

「若い男の子たちの足を火であぶったり」今村磨人被告
「若い男の子たちの足を火であぶったり」今村磨人被告

渡辺優樹被告について
「みんなでお金を稼いでみんなで幸せになろうよと言う人。でも被害者を作っているので、身近な人だけを幸せにしている。マフィアとか警察とか(フィリピンの)国会議員とも仲良くしていた」

「フィリピンの警察や国会議員とも仲良くしていた」渡辺優樹被告
「フィリピンの警察や国会議員とも仲良くしていた」渡辺優樹被告

藤田聖也被告について
「脅し文句や暴言も多くて怖い人。人の耳をそぎ落としたりすることもあった。『女でも関係なくボコボコにする』と言っていた」

「怖い人、人の耳をそぎ落としたり」藤田聖也被告
「怖い人、人の耳をそぎ落としたり」藤田聖也被告

幹部は“脱獄計画”のために大金稼ぎ

そんな今村被告らが収容所でやっていた悪行が「強盗」と「覚醒剤の密輸」だった。

山田李沙被告
渡辺被告は『俺たちは一生遊んで生きていけるだけのお金が欲しい』『脱獄計画を実行するためにも大金を稼ぐ必要があった』と言っていた。

山田被告によると「脱獄計画」は次のようなものだったという。

まずフィリピン警察にフィリピン国内での事件についての偽物の逮捕状を作ってもらい、収容所から刑務所に移動する。フィリピンの田舎の刑務所では金を払えば外出ができ、当時は一緒に外出する刑務官にも金を払えば脱獄ができたのだという。

フィリピンのスラム街(資料)
フィリピンのスラム街(資料)

その賄賂のために幹部は大金を稼ぐ必要があり、山田被告も、藤田被告から強盗前に被害者に資産状況を尋ねる“アポ電”をするよう命じられた。断ろうとしたが「お前、自分の立場わかっているのか」と言われ逆らえず、今回裁判となっている事件で足立区の住宅にアポ電を行ったという。

狛江市強盗致死事件で焦る幹部

VIPルームに頻繁に出入りしていた山田被告。裁判では一連の広域強盗事件で死者が出た狛江市の強盗致死事件についても証言した。山田被告は今村被告らが日本にいる実行役に指示をする現場に居合わせ、リアルタイムで指示を聞いていた。この事件で死者が出たのは想定外で幹部は焦っていたという。

狛江市強盗致死事件で死亡した大塩衣与さん(当時90)
狛江市強盗致死事件で死亡した大塩衣与さん(当時90)

山田李沙被告
渡辺被告がネットニュースで狛江市の事件を見つけて、今村被告に『これどうするの?』と責めていた。今村被告がかなり焦っていて『殺すつもりはなかった』『これは強盗殺人じゃない。強盗致死だ』と言っていた。その後は遺体をどうするのか話をしていて、回収するという意見も出たが、渡辺被告が『もうニュースになっているし、今更無理だよ』と言っていた。

狛江市強盗致死事件のあった住宅
狛江市強盗致死事件のあった住宅

山田被告は狛江市の事件では起訴されていないが、知っていることは全て警察や検察に話して捜査の協力をしていると語った。

「闇バイトはやめた方がいい」

フィリピンにはまだグループのメンバーが潜伏しているという。そういう人たちに山田被告は次のように呼びかけた。

弁護人
まだフィリピンに残っている人たちに言いたいことは?

山田李沙被告
日本に帰ってきて早く罪を償って自分がやりたいことをやった方がいい。

強制送還直前の山田李沙被告(フィリピン)
強制送還直前の山田李沙被告(フィリピン)

弁護人
これから闇バイトに応募しようとしている人に言いたいことは?

山田李沙被告
やろうとしていることは犯罪だし、やりたいことをやるためにも闇バイトはやめた方がいい。

裁判は検察側が懲役1年6カ月を求刑し、山田被告が最後に「これから渡辺被告や藤田被告といった幹部の裁判が始まりますが、自分も裁判に呼ばれることがあれば全面的に協力したいです」と述べて結審した。判決は3月5日に言い渡される。

(執筆:フジテレビ社会部 高沢一輝)

高沢一輝
高沢一輝

フジテレビ報道局社会部記者。司法クラブ裁判担当。
2015年から「みんなのニュース」のADを担当。その後2017年に報道局社会部記者へ。検察、千葉支局、厚労省を担当し、2022年7月から現在の裁判担当に。