2025年7月の開業が発表された「ジャングリア沖縄」。観光や経済への波及効果が期待される一方で、交通渋滞への懸念は依然として残っている。開業に向けて、どのような渋滞対策が講じられているのか取材した。

「渋滞は避けられない気がする」

2025年、桜の季節を迎え、「今帰仁(なきじん)グスク桜まつり」などの観光対応に追われているのが、「今帰仁村観光協会」の事務局長を務める横澤一美さんだ。

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今帰仁村観光協会 横澤一美 事務局長:
たくさんの人が名護市や今帰仁村、テーマパークを中心に訪れてくれるという具体的なイメージが浮かび上がりました

地元への好影響を期待する一方で、懸念もある。

今帰仁村観光協会 横澤一美 事務局長:
さまざまな層の人が訪れることで、レンタカーの利用率も高くなると思います。やはり、当初の懸念どおり、渋滞は避けられない気がします

開業まで半年を切った今も、道路などの周辺インフラ整備は進んでおらず、交通渋滞への懸念がぬぐいきれないのが現状だ。

「ジャングリア沖縄」の開業日やアトラクションなどが明らかになった2025年1月28日の記者発表。

国内外に向けて期待感を高める情報発信が続く中、地元が懸念する渋滞対策への言及は限定的だった。

ジャパンエンターテイメント 加藤健史社長:
交通渋滞の対策や利便性につきましては、開業に伴う一時的な集中により、パーク周辺の市町村の皆さまにもご迷惑をおかけすることを懸念しています。そのため、自家用車の抑制化、分散化、円滑化を図ってまいります

主な対策として、那覇から1日12便以上のシャトルバスや高速船を運行し、マイカーやレンタカーでの来場を減らすことが挙げられる。

また、駐車場のパーク外への配置や、大型バスの一方通行化を実施し、交通の流れを分散させることにも重点を置いている。

「ジャングリア沖縄」の開業に伴う交通リスクの低減に向け、株式会社ジャパンエンターテイメントは2020年度から2024年度にかけて3回の交通シミュレーションを実施した。

パークに向かう主なルートのうち、特に渋滞が懸念されるのが県道84号線。

県道84号線は、国道58号線の白銀橋(しろがねばし)交差点から名桜大学の前を通過し、「ジャングリア沖縄」の入り口となる交差点を通る。

シミュレーションでは、来園者を1日1万人と想定した場合、県道84号線の交通量は1日に1,000~2,000台増加することが予測された。

地元を対象にした説明会

このルートが生活道路となっている地元・中山区では、2024年に交通渋滞対策についての説明会が開かれた。

県道84号線は片側一車線のため、何も対策を講じなければ、パークに向かう右折待ちの車両によって直進車が進めず、渋滞が発生する。

この対策として、交差点に右折帯を設置すれば、直進車がスムーズに通過でき、開業前と同じように通行できると予測された。

しかし、現地の状況を踏まえると、右折帯の設置だけでは渋滞対策として不十分であることも明らかになった。

ジャパンエンターテイメント 佐藤大介副社長:
右折による渋滞の問題もありますが、もう一つ課題があります。大型車両がここから下ると左折できず、はみ出してしまうのです。この映像を見てもわかるように、待機している車があり、左折時には大きくはみ出してしまいます。そのため、この交差点は改良が必要です。この動画を県にも提示し、改良が必要であるとお伝えしています

パークの開業を見越し、沖縄県は右折帯と信号機の設置に向けた検討を進めていると説明したが、住民の不安は依然としてぬぐいきれない。

中山区の男性住民:
車の行き先も、道路の整備も何年かかるかわからない。今、左折道路を申請しているとのことだが、行政だけが対応するのではなく、自分たちでできることは企業としてやらないといけないのでは、と思います

中山区によると、観光客の増加により、現在も車で5分の距離に到着するまで30分以上かかることがあり、渋滞が生活に深刻な影響を与えている。

そのため、開業までにしっかりと対策を進めてほしいという声が上がった。

中山区の女性住民:
沖縄では、新しい内地のものが上陸すると行列や渋滞が発生しがちなので、ある程度は避けられないと思います。ただ、それをどう解消していくかが課題です

川野圭輔 中山区長:
シミュレーションの内容には、緊急車両への対応が含まれていませんでした。今後は、そういった点も含めて、一つ一つクリアしていくべきだと感じました。地域とより深い理解を共有しながら、対応を進めてほしいと思います

対策が講じられた場所も

沖縄自動車道許田(きょだ)インターチェンジ(IC)から続く名護東道路では、国道58号線と交わる伊差川(いさがわ)ICがボトルネックとなり、ゴールデンウィークには最長で3キロの渋滞が発生していた。

そこで、2024年3月までに右折車線を追加して2車線化したほか、左折車線も100メートル延長するなどの改良を実施。

その結果、名護東道路から右折する車の渋滞は50メートルまで大幅に改善された。

政府も「ジャングリア沖縄」の開業を見越し、バックアップする姿勢を打ち出している。

情報共有の場を設け連携を強化

会見に登場した石破茂首相は、名護東道路の延伸について、2024年度内にルート案を公表する考えを示した。

石破茂首相:
名護東道路延伸の早期実現に向けて、年度内には概略ルート案を決定するとともに、周辺の渋滞対策や二次交通の確保にも力を入れてまいります

これまで30回にわたり、地元住民への説明会を開いてきたジャパンエンターテイメントの佐藤大介副社長は、開業まで引き続き対話を重ねるとともに、交通・観光事業者などとの情報共有の場を設け、連携を強化していく方針を示した。 

ジャパンエンターテイメント 佐藤大介副社長:
一つずつ課題を可能な限り解決し、また実行する中で新たな課題が出てくることもあるため、適宜説明を行うということを繰り返していくことが重要だと考えています

佐藤副社長は、沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館や近隣の観光施設、ホテルを結ぶ循環バスの運行など、新たな交通ネットワークを整備し、渋滞の解消だけでなく、北部地域全体の付加価値を高めたいとの意欲を示した。

今帰仁村観光協会の横澤事務局長は、行政とも連携した実効性のある対策を求めた。

今帰仁村観光協会 横澤一美 事務局長:
雇用が生まれるですとか、観光客が訪れる数があれぐらいになると、想像するに交通の整備は加速していかないと本当に困ってしまうなと思います

世界に誇るテーマパークを打ち出す以上、オーバーツーリズムへの対応は不可欠である。

北部地域で住民生活と観光が共存できる交通システムを構築し、「ジャングリア沖縄」がもたらすインパクトを官民で活用できるかが、今後の沖縄観光の大きな分岐点となる。

(沖縄テレビ)

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