「ラジオが大好きなら、自分で開局して、街を元気にしないか?」と誘われ、40歳の時にコミュニティFM局を立ち上げた鹿児島の女性。「小さな街だが、まだ知られていない魅力的な人や場所を発信したい」と奮闘している。

地域に密着した情報を提供するコミュニティ放送局

コミュニティ放送とは、総務相の免許を受けて運営されるFM放送局で、市町村単位の地域に密着した情報提供を目的に1992年に制度化された。いまでは全国に340以上の放送局が存在しており、それぞれ地域防災メディアとしての役割も担っている。

大好きなラジオで街を元気に 主婦がラジオ局を立ち上げ

そのひとつ、鹿児島県大隅半島の東側、曽於郡大崎町にあるコミュニティ放送局、FMおおさき。「大好きなラジオで街を元気にしたい」と、パート勤めをしていた主婦が立ち上げたコミュニティFM局だ。

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白い建物に「FM OH!SAKIおおさき 89.9MHz」と書かれた局舎を訪ねると、優しい目元が印象的な女性が出迎えてくれた。水流江里子さん。「FMおおさき」の局長として、経営から取材、パーソナリティーと、マルチに活躍している。

もともと近くの曽於市のコミュニティ放送局でパーソナリティーをしていた水流さん。40歳の時に転機が訪れた。水流さんは「主人が若いうちに動けなくなって、仕事もできない状態になったんです。娘も1人いるし」と当時を振り返る。

そんな時に、「ラジオが大好きなら、自分で開局して、街を元気にしないか?『水流さん一回開局しようよ!』」とラジオ業界の先輩から提案され、ずっとパートでやっているよりもと、2022年に一念発起した。

行政の支援は受けず 借金約1000万円からのスタート

開局の地には、小さいながらも元気いっぱいの大崎町を選んだ。スタジオや送信所を整備するため、銀行から約1000万円の借金をしてのスタートだった。

このほかにも自力で資金を集めるために、工夫を凝らした。まず、1口5万円で株式を発行し、「町民株主」を募った。水流さんは「私は大崎町に住んでいないので、株を集めるのがまずは大変だった」と振り返るが、「自力で運営できないようでは長続きはしない」との信念があり、行政からの支援は選ばなかった。
水流さんは「町民株主」のほか、月額4000~5000円ほどで週に1回の60秒のCM放送権や、店を情報誌などでPRする「加盟店制度」も用意した。

棚いっぱいのCDは多くの人の寄付によるもの
棚いっぱいのCDは多くの人の寄付によるもの

ラジオに欠かせない「音楽」は、地元の人たちがCDを寄付してくれた。事務所の壁面に据え付けてある棚には、今ではCDがびっしりと入っているが、「初めはスカスカだった」と笑う。「SNSに上げたら、いろんな人が見て拡散してくれて、ぼちぼち集まってきた」のだそうだ。

住民に身近で親しみやすい存在のラジオ局

2024年から60代の男性パーソナリティーも新たに仲間入りし、「FMおおさき」は現在、7人で番組を制作している。

農福連携の取り組みが評価された宮園地区を取材 生中継の様子
農福連携の取り組みが評価された宮園地区を取材 生中継の様子

農福連携の取り組みが評価されて賞を受賞した、大崎町の宮園地区からの生中継に同行させてもらった。「賞をもらってから気持ちが変わった?」とインタビューすると、受賞した住民は「いや~前にも、もらってるからね~」と答え、周囲の笑いを誘っていた。

取材を受けた住民も笑顔
取材を受けた住民も笑顔

開局から約3年だが、大崎町民にとっては、ラジオに出演することが身近になっているようだ。住民の一人は「取材されたのは何回目かな、4、5回目とちがうかな。親しみやすい放送局だね」と、すっかり取材慣れした様子。

別の住民は「パッと水流さんのマイクが来るから。逃げるけど追いかけてくるの」と熱心な突撃取材の様子を語る。だが、「活動も色々取材してもらって、いろんな形でPRしてもらっているから非常に貴重な放送局だ」と感謝を忘れない。

みんなを巻き込んで大隅で一番にぎやかな放送局に!

開局時は60株だった「町民株主」も今では約120株にまで増えた。スタジオでは赤いマイクの前の水流さんが「この時間は水流絵里子がお送りいたしました~!」と番組を元気に締めくくった。「みんなに知ってもらって、巻き込んで、大隅で一番にぎやかな放送局になればいい」と語る水流さん。きょうも「FMおおさき」 89.9MHzで、街の『元気』を元気に発信している。

(鹿児島テレビ)

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