静岡県富士宮市の高齢夫婦に対し「契約している会社が撤退する」などと嘘をつき、ガスの供給契約を乗り換えさせたとして男4人が逮捕された。被害に遭った男性が強引かつ巧妙なその手口を証言する。

世間話で和ませて…契約書に

容疑者連行の様子(1月21日)
容疑者連行の様子(1月21日)
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静岡県警は1月21日、プロパンガスの訪問販売を行っていた会社の元社長の男(40)と現社長の男(32)ら4人を逮捕した。

逮捕容疑は特定商取引法違反だ。

4人は2024年4月、静岡県富士宮市に住む80代の夫婦に対して「契約しているガス会社が撤退する」などと嘘をつき契約を乗り換えさせた疑いが持たれている。

LPガスボンベ
LPガスボンベ

「いきなり若い人が来て『今度ガスはうちでやりますからよろしく』と言われたので『いまの(供給)会社は知っているのか?話し合いはしたのか?』と聞いたら『それはいいんです』と、何がいいのかおかしいと思った」と話すのは被害に遭った男性だ。

ただ、違和感を覚えたものの世間話を交えながら会話を続けたという。

「『僕いくつに見えますか?』と聞くから私が『25~26歳かな』と言ったら妻は『もっと若いかな』なんて…そんなやりとりから『僕は19歳』とざっくばらんな感じで世間話をしていたら『じゃあ、これね』と書類を1枚出して『これを書いてください。ハンコを押して下さい』と言うからなんだろうと思ったけれど、私は契約書なんて(考えは)頭にはなく、うちに(営業に)きた証拠を上司に報告するためのものと解釈した」と振り返る。

しかし、実はこれが契約のための申込書だったのだ。

LPガス業界が直面する課題が影響

ウソの情報を流された会社のコメント
ウソの情報を流された会社のコメント

撤退の話は事実無根で、ウソの情報を流布されたガス会社は取材に対し「複数のお客様に誤解を招く事実無根の情報を伝え誹謗中傷と捉えられる営業活動をする事業者の行為を把握しました」とした上で「弊社及び弊社社員の信用を毀損し、名誉を傷つける内容であったことから警察への相談、資源エネルギー庁等に対して報告を行いました」と回答。

嘘をついてまで契約を取ろうとする背景には何があるのか…。

県LPガス協会・渡辺芳隆 会長は「“新規”という市場はあるがなかなか大変で、新規の顧客ではなく相手サイドの顧客をひっくり返した方が早いということでこういうブローカー・代理店が成り立っている」と打ち明ける。

道路の下を通るガス管を通じてガスを供給する都市ガスに対し、LPガスは事業者が各家庭にガスボンベを配送・設置しなければならない。

一般家庭でのエネルギー消費割合(経産省調べ)
一般家庭でのエネルギー消費割合(経産省調べ)

しかし、オール電化の普及や都市ガスの小売り全面自由化などの影響でLPガスの需要量は年々縮小。

さらに、重たいガスボンベを運び入れるなど重労働のイメージもあることから担い手不足は深刻で、経営者も60代以上が全体の半数を占めている。

営業活動の外部委託がモラルの低下に

県LPガス協会・渡辺芳隆 会長
県LPガス協会・渡辺芳隆 会長

渡辺会長によると、LPガスの需要が落ち込む中で資本力で勝る大手企業は営業活動を外部に委託。

ただ、委託業者の中には成果報酬を目的に強引かつ巧妙に契約の切り替えを迫る会社もあり、トラブルが後を絶たないという。

逮捕された男らに業務を委託した会社のホームページ
逮捕された男らに業務を委託した会社のホームページ

警察は今回逮捕された男たちに契約業務を委託していた焼津市のガス供給会社についても管理監督責任を怠ったとして書類送検したが、この会社は「コメントは差し控える」と事実上取材を拒否した。

こうした状況に渡辺会長は「LPガス協会としてこうした報道をされること自体が恥ずかしい。こういう行為はやめて欲しい」と訴える。

男らの連行の様子(1月21日)
男らの連行の様子(1月21日)

容疑者の男らは5年間で約1600件の契約を結んでいたということで、警察は余罪もあるとみて調べを進めている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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