1月16日午後3時頃、立憲民主党本部でFNNのカメラがとらえたのは、協議を終えて出てきた野田代表ら執行部の面々だ。非公式に行われたこの会合では、夏の参院選を見据え、8日後の24日に召集される通常国会での国会対応や政策などをめぐって協議。一般会計総額が115兆円を超える2025年度予算案について修正を求めていく方針などを確認したという。

1月16日、立憲民主党本部で協議を終えて出てきた野田代表
1月16日、立憲民主党本部で協議を終えて出てきた野田代表
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通常国会では予算案のほか、企業・団体献金、選択的夫婦別姓、内閣不信任決議案の扱いが大きな焦点となることが予想される。立憲内では、夏の参院選に向けて、「熟議と公開の国会で、焦点となるテーマごとに成果を積み上げ、それを訴えるべきだ」との意見が出る一方、「国民民主党のように生活に直結するインパクトのある目玉政策が必要ではないか」といった声もあがっている。

背景には「年収103万円の壁」の引き上げを掲げる国民民主党に比べて、立憲の主張や政策が有権者に十分に届いていないのではないかという危機感がある。

野田代表「立憲はネット販売が苦手」国民民主の支持率が“野党第1党”に

政党支持率にも変化が出ている。FNNの世論調査では、11月に国民民主の支持率が結党以来最高となる10.1%に急上昇。続く12月は立憲が9%に対し、国民民主が11.3%。野党第3党である国民民主が、野党第1党の立憲を上回ったのである。年が明けて1月18~19日の調査では、立憲が政党支持率での「野党第1党」の座を取り戻したが、「103万円の壁」の引き上げをめぐる与党との協議が再開されれば注目が集まり、国民民主に再び逆転される可能性もある。

1月のFNN世論調査では立憲が政党支持率で「野党第1党」の座を奪還
1月のFNN世論調査では立憲が政党支持率で「野党第1党」の座を奪還

立憲の野田代表が6日、BSフジの「プライムニュース」に出演した際には、視聴者から「立憲民主党の存在感が全く感じられない。最近の政党支持率を見ても下落傾向だ。その理由は一丁目一番地の政策がよく分からないからだ」といった厳しい声がメールで寄せられ、野田氏は次のように応じた。

立憲民主党・野田佳彦代表:
総合デパートなのでワンポイントイシューのとんがった政策だけで売りにしているわけではない。総合力として47都道府県でショッピングセンターを作れるのは自民党と我々だ。

その一方で野田氏は、「ネット販売がちょっと苦手なところがある。そこはもうちょっと勉強しなければと思っている」と自省の念を示した。その上で、「そういう党であると理解をいただいて、逆に政権を託しても全般的に安心だという空気を醸成できるかどうかがこれからの半年の勝負ではないか」と述べ、参院選に向けた意気込みを語った。立憲の関係者は「政権交代が現実味を帯びれば帯びるほど、政権を取った後のことを考えてとがった政策は言いづらくなる」と苦しい胸の内を明かす。

立憲で高まりつつある“消費減税”待望論 江田・吉田両氏が新たな勉強会

こうした中、党内から求める声が高まりつつあるのが消費税の減税だ。2024年12月19日、立憲の江田元代表代行ら有志議員が新たな勉強会を発足。名称は「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」で、党に所属する約190人の国会議員のうち4分1近い40人ほどが出席した。

立憲民主党・江田憲司元代表代行
立憲民主党・江田憲司元代表代行

江田氏のほか、9月の党代表選挙で野田氏などと争った吉田晴美衆院議員らが顔を揃えた。代表選挙では、消費税の食料品への非課税などで一致したとして、江田氏が立候補を見送り、吉田氏の推薦人に回った経緯がある。勉強会の立ち上げで党内に一定の影響力を示す狙いもあるとみられる。

日本維新の会や国民民主は物価高対策として消費減税を主張しているのに対し、立憲は中低所得者の消費税負担の一部を税額控除と給付で軽減する「給付付き税額控除」を掲げている。

勉強会の中で、江田氏は食料品にかかる消費税率について、「物価高騰が続く間、ゼロ%にすることが最も効果的な施策だ」と述べた上で、「実現にかかる財源は4兆円だ」と語った。

立憲民主党・江田憲司元代表代行:
政治改革ももちろん重要だが、やはり国民生活に直結した物価高から国民生活を守る、国民の皆さんの胸に響くインパクトのある経済・景気対策を打ち出せなければ政権交代も夢のまた夢だ。

江田氏はこう強調した上で、執行部に対して、消費減税を選挙の公約に盛り込むよう求めていく考えを示したのである。

消費減税に慎重な野田代表「トラスショックのようなことが日本でも」

一方、野田代表は消費減税に慎重な姿勢を崩していない。年が明けた1月6日、党本部で行われた「仕事始め」の後、記者団の取材で、「減税など多くの国民の心に響くような政策を掲げ、党勢を伸ばしている政党が国内外問わずある。参院選があるので目を引く政策が必要だという声も党内にはある」などと問われると、野田氏はこう指摘した。

立憲民主党・野田佳彦代表:
減税だけ言っていれば受けはよいと思うが、将来世代にとってプラスになるかどうかというと必ずしもそうではない。

そして、野田氏は「現実的な路線を取っていくことがむしろ将来の政権交代につながっていくものだ」と訴えた。さらに、先述の番組出演の際には減税が引き起こすある可能性に懸念を示した。

立憲民主党・野田佳彦代表:
安易な国債発行をどんどんやるというやり方は禍根を残す。トラスショックのようなことが日本でも起こりうると思う。

2022年10月、イギリスではトラス首相が就任からわずか1カ月半で辞任。きっかけはトラス政権が打ち出した、5年間で450億ポンド(約7兆6千億円)にのぼる大型減税を柱とする経済政策だ。財源の裏付けがなく、国債発行に依存する形での大規模減税を打ち出したことで、イギリスの通貨、株、国債の暴落など混乱を招き、看板政策を撤回、そしてトラス首相も辞任に追い込まれたのである。

野田氏は「今ドイツもフランスも財政が大きな問題になってきた。日本だけがそうではないとは決して言えない。私は心配性なのでそこは慎重に考えていきたい」との考えを示した。

立憲幹部「党内対立の火種になる可能性も」旧民主党は消費税めぐり分裂も

立憲の幹部は「日本の財政状況を考えた時に無責任に減税を言うわけにはいかない。ただ、かつて消費税で党分裂を招いた。党内対立の火種になる可能性もあるので慎重に対応しなければならない」と話す。

旧民主党では2012年、消費増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し分裂も
旧民主党では2012年、消費増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し分裂も

立憲の源流である旧民主党では消費増税を引き金に分裂した歴史がある。野田氏が首相だった2012年、消費増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し、政権を失う大きな要因となった。筆者は当時、民主党政調会長として党内の取りまとめにあたった日本維新の会の前原共同代表の担当記者を務めていた。一連の党分裂の動きについても取材したが、消費増税の推進派、反対派の対立は熾烈だったことを今でも覚えている。前原氏は連日の緊張と疲労からか、一時的に不整脈を起こすほど対立は激しいものだった。

野田代表「財源なくして政策なしの姿勢貫く覚悟」注目集まる参院選の公約

立憲の小川幹事長は21日の記者会見で、党内で高まりつつある消費減税を求める声に対し、「一定の理があり、正当性があるという前提で、これから党としてどうしていくかは十分に議論しなければいけない」と述べる一方で、有権者の考え方にも変化が見られると指摘した。

立憲民主党・小川淳也幹事長
立憲民主党・小川淳也幹事長

立憲民主党・小川淳也幹事長:
政治の本質は再分配だ。分かりやすいのは減税だが、フェアなのは給付ではないかという議論もある。しかし、問題はその冷静な議論がなかなか有権者の耳に届かなくなっている。これは私見だが、再分配をしようと言っているあなたたちを信用できない、再分配する前に取らないでくれという減税の主張しか耳に入らなくなっている。これは政治不信の極まった姿であり、痛切にその責任を感じている。

その上で、小川氏は「減税すればこの社会がバラ色になるほど、事は単純でも簡単でもない。政治の信頼回復と適正な再分配で社会を安定させていくことが本筋の議論としてあるべきだ」と訴えた。

野田氏は20日、自らのホームページに、通常国会に向けてコメントを掲載。国政の動きや自らの考え方を記した「かわら版」と称する所感の中では、「ここ数年の予算編成は明らかに『大盤振る舞い』の傾向にある」と述べた上で、「このような時こそ財政健全化の観点から、泥臭く予算をチェックする政党が必要だ」と訴えた。さらに、「私たちが提出した法案を実現するためにも、新たな予算措置を要する。実現のための財源も提案するつもりだ」と表明し、こう締めくくったのである。

野田佳彦代表のホームページより
野田佳彦代表のホームページより

立憲・野田代表ホームページより:
一般受けしないかもしれないが、財源なくして政策なしの姿勢を貫く決意だ。

旧民主党はマニフェスト(政権公約)の中で、子ども手当やガソリン税などの暫定税率の廃止、高速道路の無料化など、インパクトのある多くの政策を掲げ、政権交代を果たした。しかし、その後、財源問題などに直面し、理想と現実のはざまで苦しんだ過去がある。その教訓を踏まえ、立憲民主党が財源に裏打ちされたどのような政策を掲げるか、参院選の公約に注目が集まりそうだ。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局