緊急時、命をつなぐ「119番通報」。絶え間なく入る“助けを求める声”に応える「指令管制員」。全国的に問題となっている“緊急性の低い”通報が増加する中、どのように対処しているのか?福岡都市圏を管轄する消防指令センターの現場に密着した。

「119番消防です。火事ですか?救急ですか?」福岡市消防局にある「災害救急指令センター」。

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福岡市だけでなく近隣の筑紫野市、宗像市など合わせて250万人が暮らすエリアの通報がここに集まる。その通報を受けるのが「指令管制員」だ。119番通報を受けて、瞬時に相手の置かれた状況と緊急性を判断し、消防隊や救急隊を現場に向かわせる指令を出す。

1日530件の119番通報

2023年4月に指令センターに配属され、指令管制員になった岡滉一さん(34)。これまでレスキュー隊や救急隊に所属し、数多くの救助の現場を経験してきたベテランだ。

岡さんが働く災害救急指令センターは、1日24間勤務で、54人の指令管制員が3交代で勤務にあたっている。1日にかかってくる119番通報は約530件。そのうちの約7割を「救急」が占めているという。

取材に訪れた日も、次々と119番通報の電話がかかってくる。岡さんが応対したのは、救急通報だった。「夫が心臓の病気で、今が胸が苦しいと言っています!」。慌てた様子の通報者。岡さんが「意識はありますか?」と尋ねると「はい」と返事が返ってくる。岡さんは患者の状況などを詳しく聞き、すぐに救急車を向かわせる指令を出した。

次にかかってきたのは、「路上で女性が苦しがっていて、『お腹が痛い』と言っている」という内容。この後も休む間もなく119通報がかかり続けるが、中には“非常識”なものも少なくない。

「電気消して」2割が緊急性低い11

「119番消防です。火事ですか、救急ですか?」岡さんが電話を受けると、「電話番号を確認する所がどこかと思いまして…お分かりじゃないですか?」。まさかの電話番号案内を尋ねてきた通報者。「救急車や消防車の要請ではないんですね?電話番号の問い合わせでしたら104にかけていただけますか?」と答えると「104ですね。ありがとうございます」と電話を切った。この通報者は、うっかりした間違い電話ではなく、救急用と知りながら敢えて119番にかけてきた“迷惑通報者”だったのだ。

こうした「緊急性の低い通報」は、近年、全国的に増え、現場は対応に頭を抱えている。福岡市では2024年1年間に約13万7000件の119番通報があり、この内の2割ほどが「緊急性の低い通報」だった。中には「水道の水が止まらない」や「電気を消してほしい」といった酷い内容のものまであったという。

通報者に心臓マッサージ指導も

岡さんは、指令管制員になる前、現場経験が12~13年あるため、実際の救助の現場やそれに伴う知識が役立ち「通報を受けた段階で状況をイメージすることに繋がっている」と話す。

この日、岡さんは「家族が突然意識を失った」と慌てた口調の通報を受けた。岡さんがまず、救急車を向かわせるため住所を聞いたが、電話口で泣き声になり答えられない。「大丈夫ですか?住所言えますか?」と再度、聞き直すが、通報者は泣き出してしまう。

岡さんは落ち着くように声を掛け、次第に気を取り直してきた通報者に心臓マッサージを指示する。「私が今から救急隊到着までの間、心臓マッサージの指示をしていきますから、落ち着いて聞かれて下さいね。まず、胸と胸の間、乳首と乳首の間にどなたでも結構です、片手の掌を置いて下さい。もう片方の掌を重ねて置いて何回か押してみて、反応を確認して下さい」

『ピッピッピッピッ』「この音、今、聞こえてますか?」岡さんは、一定のリズムを刻む音を電話口で流し「この音に合わせて胸を押すようにして下さい」とアドバイスする。「はい」と返事をする通報者。岡さんは「約7分後に救急隊が到着しますから」と伝える。しばらくして「今、救急隊が到着しました!」と通報者が叫んだ。岡さんも救急隊の到着に安堵し「後は救急隊に引き継ぎます」と言って電話切った。

福岡市消防局での救急車の要請は、年々増加しており、2024年は過去最多の10万181件。「救命が始まる最初の現場」消防指令センターにとっては、常に極限の緊張状態にさらされている。

「慌てていたり、泣きながら悲しみながら通報する方もいるので、通報者に寄り添うことを一番心掛けています」と語る岡さん。「1秒でも早く通報者のもとに消防隊や救急車を向かわせる」。人命救助の最前線に携わるプロとして思いを新たにしていた。

(テレビ西日本)

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