6000人以上が犠牲となった阪神・淡路大震災の発生から30年。耐震化や復興支援といった分野で、防災対策の充実・強化が図られるようになった一方、大切な人を失った人はどのような思いで過ごしてきたのだろうか。当時を思い出すのが怖くて、10年以上震災のことを口に出来なかったという鹿児島ゆかりの被災者が、胸の内を語ってくれた。

最大震度7「夢なのか現実なのか」

1995年1月17日午前5時46分、最大震度7(当時の基準)の地震が大都市を直撃し、10万棟以上の建物が倒壊、6434人が犠牲となった阪神・淡路大震災。

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あれから30年。鹿児島に住む依田はるかさん(37)は兵庫・神戸市出身。被災当時は小学生だった。鹿児島の街並みに魅せられて神戸市との2拠点生活を始め、現在は鹿児島に移り住み、イベント企画や広報に幅広く携わっている。

依田さんが被災したのは、小学1年生の時だった。
地震を知らなかった依田さんは、「起きたらタンスが倒れているし、おばあちゃんは叫んでいるし、夢なのか現実なのか」と当時を振り返る。

学校に避難したものの、救援物資も食料も十分にはなかった。何が起きているのかも分からず不安な夜を過ごす中、印象的な出来事があった。

「割とポートアイランドは復旧が早くて、その夜に電気がついた。何も合図はないけど自然にみんな泣きすする声と拍手…。あれは忘れられないというかすごく記憶に残っている」と、依田さんは当時を思い出していた。

かつての被災体験がいまの防災意識に

“早く日常に戻ってほしい”。子どもながらにそう思った依田さんの被災体験は、現在の防災意識につながっている。

「緊急事態の悲しい時に、いかに快適にいつも通り暮らせるかというところがすごく大事」と話す依田さんは、口腔ケア用品に、小型のマッサージ器、女性ならではの生理ケア用品など、いつ何が起きても少しでも快適に過ごせるようにと常に持ち歩いているそうだ。

経験したからこそ感じる“日常の大切さ”。

依田さんは震災をネガティブな経験と捉えるだけではなく、「街の歴史として、そこから思うことや気付き、だからこうしているよってことは残していったり、つないでいったりすることが必要」と考えている。

沖永良部出身の両親を亡くした兄妹

30年前に最大震度7を観測した神戸市。地震の爪痕は、今ではほとんど見当たらない。
震災で鹿児島・沖永良部島出身の両親を亡くした伊集院善房さん(77)と高子さん(70)の兄妹を訪ねた。

善房さんによると両親は、「4軒の家が並んで建っていたところが全部がしゃっと倒れた。両親は2人一緒に寝ていたからそのまま圧死の状態だった」という。

高子さんは当時、目の前で起きたことが信じられず、呆然としていたそうだ。辛く悔しい思いを抱えた兄妹を支えたのは、周囲の人の助けだった。

「いろんな人にお世話になったし、30年間つらい思いをしたことは確かだが、それに伴ってうれしいこともしてくれた」と、善房さんは感謝している。

「たかちゃん大丈夫か」支え続けた声

一方の高子さんは、当時を思い出すのが怖くて、10年以上震災のことを口にできなかったという。

今回取材に応えてくれた理由を聞くと、高子さんは、「30年という時の流れもある」としながら、近年災害が増えていることを危惧し、「誰の身の上に起こってもおかしくないっていうのを伝えられたら」と心境の変化を語った。

震災後、不安定だった高子さんを30年間ずっと支え続けたのは、父親の“声”だったという。

「震災当日、父が私を『たかちゃん』って呼んでた。『たかちゃん大丈夫か』っていう声が聞こえた気がした。これきっと違う。もう多分亡くなっていただろうから。でもそういう声がずっと耳に残ってて、お父さんがやっぱ心配してるから、頑張っていかないと。多分そうやって親が残してくれた命なので」と話す高子さんは、途中から涙声になった。

鹿児島県出身の犠牲者は200人以上

震災発生から30年の2025年1月17日、神戸市では、鹿児島県人会による追悼式が行われた。

石碑に刻まれている鹿児島県出身の犠牲者は200人以上。遺族や県出身者が集い、30年前に思いをめぐらせた。その中には、善房さんの姿もあった。この場所に来て抱くのは、“感謝の気持ち”だと言う。

「やはり自分の両親の名前がこういう風に残っているということは、非常にうれしいとはちょっとおかしいけど、やっぱり気持ちの張りがある。本当にもう感謝の気持ちを大きな声で伝えたいぐらい」と話す善房さんは、花を手向け、じっと手を合わせた。

それぞれの支えを胸に、前向きに生きる震災経験者たち。
2025年1月13日には日向灘震源の地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報が発表されるなど(その後調査終了)、震災は決してひとごとではない。

震災を忘れないこと、そして自分事として重ねてみることの大切さを、いま震災経験者の証言が教えてくれている。

(鹿児島テレビ)

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