教師の働き方改革が叫ばれる中、日常的な残業や休日出勤の要因とされる部活動を、地域が主体するクラブ活動に移行する「部活の地域移行」。国の支援を受け積極的に移行を進める福岡・宗像市を取材した。

教師を追い込む“部活担当”の現実

「平日の帰りは、部活の遅い時間帯だと夜9時、10時が当たり前の日々で、土曜日は練習があって、日曜日も授業の準備をして…」。“休めない”当時の生活を語る20代の女性は、夢だった中学教師をわずか2年で退職することに。そのきっかけの1つが、2年目に経験のないテニス部の顧問になったことだった。「部活の顧問をしたい先生は、全然いなくて。結構、押しつけ合いみたいな形になって」と若手として断れなかった当時の記憶を思い返す。『もしあの時、テニス部の顧問になっていなかったら?』。自分は今も教師を続けていられたかも…。様々な思いが交錯する。

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2023年度、全国の公立中学校で平均残業時間が労働基準法の上限である1か月45時間を超えた教師の割合は42.5パーセント。このうち8.1パーセントが、過労死ラインとされる1か月80時間を超えている。その大きな要因とされているのが部活動だ。未経験の競技やジャンルの担当になったり、恒常的な休日出勤も。心も体も休めない状況に追い込まれる教師も少なくない。

「部活は学校」との意識変わるべき

宗像市は、部活の地域移行を先行して進める国のモデル事業の対象で、既に市内の公立中学校にある全ての部活動を2年後の2027年に「完全移行」することを決めている。宗像市教育委員会・学校整備プロジェクトクト室の仁木完治室長は「部活動は学校でするものだという意識を変革する時期にきている」と生徒や保護者にも時代の変化に対する理解を求める。

具体的な取り組みとして、2024年度は部活の休養日を「水曜日と第1および第3週の土日」とし、2025年度は「火曜日と木曜日、そして第1から第3週までの土日」とし、それらの日は、地域にある各クラブで活動するよう求めている。

学校の垣根超え 専門的指導受ける

そこで宗像市が独自の受け皿として立ち上げた地域クラブが、学校間の垣根を超えて中学生が専門性を有する指導者から学ぶ「むなかたアカデミークラブ」だ。野球やサッカー、バスケットボールなど10種目の競技をはじめ、吹奏楽部も対象としている。

「ボールを長く触ること!ボールをしっかり待って、長く触る!」。指導役を務めるのは、民間企業の力も借りて招かれた実業団の選手や、公式ライセンスの取得者など、錚々たる面々だ。

サッカー場では、中学生が地元の東海大学福岡高校の高校生たちと練習していた。「東海大学福岡高校からグラウンドを借りてやっています。地域の協力の中で、部活動の新たな受け皿を作るというところも大事かなと思います」と話す仁木室長。むなかたアカデミーの活動には、地元の大学や高校も賛同していて、合同練習会という形で、高校生たちが中学生にきめ細かな指導を行っている。そのため練習に参加した中学生も「普段教えてもらえないような基礎から1つ1つ教えてもらえる貴重な体験」などと概ね好意的だ。

東海大学福岡高校のグラウンドで高校生と練習
東海大学福岡高校のグラウンドで高校生と練習

活動は1回2~3時間ほどで、参加費は半年で5000円。現在は、休日のみ月2回の開催だが、宗像市は2年後に部活と完全に置き換える形で各種大会にも出場できるようにする方針だ。

仁木室長は、「子供たちにとっては専門のコーチからレベルの高い技術的な指導が受けられ、教師も部活に費やしていた時間を生徒指導や教科指導に回してもらい、子供たちに還元してもらえる」と改めて部活の地域移行の意義を強調する。

少子化で“成立しない”部活も

宗像市が、部活の地域移行に力を入れるもう1つの理由は、生徒数の減少だ。既に市内3つの中学校では、野球部員が9人揃わず、仁木室長は「学校全体の子供たちの数が減ることで部活動そのものが成立しない」と少子化の現状を語る。生徒や保護者からこれまで通りの学校での部活を望む声が根強く残っていることは理解しつつも、宗像市はニーズに合った地域の活動の場を更に用意していくことで理解を得たい考えだ。

今後の課題として、特に希望者の多い競技では、各学校から生徒が多く集まり、大会に出られない生徒が出てくることが挙げられるが、「“競技を楽しむチーム”と“勝敗にこだわるチーム”など複数用意して、それぞれのチームが大会に出られないか検討したいという。

教師の働き方改革と少子化が進む中での部活動のあり方とは。宗像市の取組みに全国の中学校の視線が注がれている。

(テレビ西日本)

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