県立春野高校3年生の長尾秀一郎さん、人呼んで「かんきつ王子」は、地元の農業を盛り上げようと奮闘中だ。そんなかんきつ王子が青春を捧げる高級食材「森のキャビア」。土佐の農業を変えるかもしれないホットな高校生の挑戦を追った。
「森のキャビア」フィンガーライムに挑戦
県立春野高校3年生の長尾秀一郎さんは、地元の新聞にも「かんきつ王子」として紹介される有名人だ。県立春野高校は、普通科目だけでなく、農業をはじめとした専門分野の教育にも力を入れている。

長尾さんが育てているのは、オーストラリア原産の柑橘類「フィンガーライム」。

長尾さんは「フィンガーライムって、いろんな品種があって全部酸味は強いんですけど、自分は酸っぱいもん好きやし、いろんな香りが味わえるのがめっちゃ好きですね」と魅力を語る。

フィンガーライムは、サクサクとした歯触りと酸味で、その果肉はキラキラと輝き、別名「森のキャビア」とも呼ばれる。スーパーなどでは滅多にお目にかかることのできない“高級食材”だ。
地域の人たちに支えられ“実る”
長尾さんは「たくさんの人が知っている作物とか、たくさん作られている作物を作りたいなってあんまり思わなくて。みんなが知らない、自分も知らないものを作った方がワクワクするし、届けたときに喜んでもらえるものの方がやりがいって感じるんですよね」とフィンガーライムを選んだきっかけを話す。

露地での栽培にチャレンジするも、冬の寒さに勝てず、苗木は全滅。落胆する長尾さんを救ったのは地域の人たちだった。
長尾さん「このハウスは地域の方からタダで借りているハウス。ハウスの張り替えは自分たちで頑張ってやりました」と話す。
地域の大人たちが、長尾さんを助けたいと動き出したのだ。

ハウスの持ち主・市原康次さんは「(農家だった)父が亡くなってからほとんどできてなくて、更地みたいな感じになっていました。若い子が農業に興味があって『やる』っていうんだったら是非貸したいなと思って、長尾君に『ここ自由に使っていいよ』っていうことにしたんですよ」と話す。

市原さん、実はこの日がフィンガーライム初体験。食べてみると「すっぱい!」と、長尾さんと笑い合った。
家族の支えと温暖化への対応
自宅からビニールハウスまで送り迎えをしてくれるのは、祖母の節子さん。長尾さんが農業に興味を持ったのは、祖父母が持つ山でみかんの木を植えたことが始まりだった。

祖母・節子さん:
(農業をやってみたいと聞いて)びっくりしました。ほんとに何を考えちゅう、この子はと思って。やれるわけないき、やってつまづいたらすぐやめるわと思って、もっと軽く考えてたら、ますます農業が好きになりましたね。

実は、長尾さんがフィンガーライムに注目した理由が、もう一つある。それは「温暖化」だ。近年の温暖化によって、農業にも大きな影響が出ている。高知県の香南市でも、長引く猛暑の影響などにより、2024年は、露地栽培のみかんが大不作となった。

長尾さんは、「今、高知でも南の海沿いの方だとバナナが路地で実がなっているのを見ることもできる。その面、フィンガーライムは高知の今の気候に向いていると思うし、これからの作物として適しているのではないかなと思っています」と話す。
フィンガーライムは「かんきつ王国・高知」の新たな希望になるかもしれない。
かんきつの王様・ブンタンの事業継承も
寒波の影響で、日本各地で冬景色が広がる中、南国・高知では「かんきつの王様」ブンタンが収穫の最盛期を迎えている。この日は同級生たちとともに、朝から収穫作業に大忙し。

同級生:
俺らのバイト代はコレ(収穫したブンタン)っす!10kgと昼飯タダ。
実はこのブンタン、以前からよく知る農家さんから、長尾さんが引き継いだものだ。
長尾さん:
自分自身がブンタン食べるのめっちゃ好きやし、農家さんが減ってしまうのも悲しかったんですけど、それよりも師匠、“熊ちゃん”って言うんですけど、熊ちゃんがブンタンやめてしまうのが1番悲しかったですね。もうその味食べれんなるやん、みたいな。
高齢化が進む農業にとって、次の世代への「事業継承」は重要な課題だ。

長尾さんの“ブンタンの師匠”森熊敬さんは「84歳になったもんで、もう山は無理だと。その時ちょうど長尾君がやってくれるということで、もううれしくて、即(OKの)返事をしました」と笑顔で話す。

森さんの妻・美和子さんは、長尾さんのことを“孫以上”の存在だという。地域の期待も大きくなる中、長尾さんにプレッシャーはないのか?

聞いてみると、「全然ない」と話す。さらに「本当に“好き”って言うだけでやってるんで。いろいろ心配してくれるんですけど、好きでやってます。自由に」と笑顔で語る。
2025年は、県内の大学に進み、さらに農業の知識を深めたいという長尾さん。長尾さんの熱い“かんきつ愛”は止まらない。
(高知さんさんテレビ)