「土佐の寅さん」として親しまれ、全国各地に笑いを届けてきた高知県の男性が、28年という長い年月をかけて悲願の”全国制覇”を成し遂げた。
漫談家、28年の旅路…寅さんスタイルで観客を魅了
高知県から遠く離れた岩手県。11月中旬、盛岡市から車で30分ほどの矢巾町にやってきたのは、高知・四万十市在住のアマチュア漫談家・間六口(はざま・むくち)さん(78)だ。

28年前から全国各地に笑いを届けてきた間さんは、今回の岩手訪問で47都道府県の全てを回り”全国制覇を達成”することになる。

間六口さん:
感慨深いもんがありますね。28年間かかりましてね。当初の頃は全国制覇なんて夢のまた夢、素人からスタートしましたんでね。皆さんが笑顔になって、良かったな、楽しかったな、元気もらったなって、そういう講演になればいいなと。

映画「男はつらいよ」の主人公・寅さんこと車寅次郎の格好がトレードマークの間さん。得意芸は漫談やバナナのたたき売りで、観客を笑いに巻き込むプロ顔負けの話芸が魅力だ。

(10月・高知での講演)
間さんが「声の大きい1名様だけ!持ってけ買ってけリハーサル、300円で」と呼びかけると、会場の男性が「はい!」と元気よく手を上げる。しかし…
間六口さん:
そこのお父さん早かったね、後ろのお父さん。あ、ちょっと待ってお父さん。今、300円の前なんて言ったか分かった?“リハーサル!”
会場は、思わず爆笑の渦に包まれる。
諦められないプロへの夢…笑いを届ける活動の始まり
間六口こと本名・坂本純一さんは、小さい頃から”お笑い”が大好きだった。「人に笑っていただくこと、喜んでいただくことが、ものすごい自分の喜びになった。そういうものをぜひやってみたいなというのが、高校ぐらいのときでした」と間さんは当時を振り返る。

プロの芸人を夢見た間さんは高校3年の時、松竹新喜劇のオーディションに応募するも、父親の反対にあい芸人の夢を諦めた。しかしその後、公務員の道に進み忙しく働いていた40代半ばに人生を変える出来事が起こった。
不整脈に悩み“息が止まるのでは”と怯える日々が続いたこと、そして小学校から高校まで一緒だった同級生が白血病で亡くなったのだ。
間六口さん:
ものすごいショックで。自分の病気と重なり合って“人間って死ぬんや”と。自分のやりたいことをやって(人生を)終わりたいなと思うようになりましたね。

間さんは「芸人」の夢を実現すると決意。「寅さんのような話芸を身につけたい」と口上集を読み、大道芸の修行で各地を訪ね、芸を磨いた。

59歳で退職した後、「笑いを届ける」活動を本格的に始めた間さんは、夢を”全国制覇”と定めて各地に笑いを届けてきた。講演数は1700回以上を数え、後は岩手県を残すのみとなっていた。
岩手県で“全国制覇”感動のフィナーレ
全国制覇達成の舞台は、岩手・矢巾町の住民が集まる高齢者サロン。65歳から87歳までの約40人が集まった。

まず披露したのは、ながーい大太刀を使った大道芸だ。
間六口さん:
さぁ、さぁさぁ、さぁさぁお立合い!
本日お集りの皆さん方は実に運がいい。手前の七尺のこの大太刀、一たび抜きあがるところを見れば、お母さん、1年長生きするという。3度も4度も見ていただきますと、もう大変!“死ぬまで長生きをする”という七尺の大太刀抜刀術でございます。
間さんが「エーーーイ!」と気合を入れて刀を抜くと…

長い鞘からスポッと出てきたのは短刀!絶妙の間で観客を引き付け、笑いを生み出した。

続けて、得意の漫談でも会場を沸かせる。
間六口さん:
うちの亭主を数字で言えば、一でなし、二でなし、三でなし、四でなし、五でなし、六でなし。亭主が“ろくでなし”っていう方、おいでませんか?
間六口さん:
私のおばあちゃんは大のケーキ好きです。箱からケーキを出して、食べるスピードの速いこと速いこと、喉につかえるんじゃないかと思うくらい速いスピードで食べてます。おかしいな~と思ってケーキの箱を見ますと”なるべく早くお召し上がりください”…と書いてありました。

間さんが講演活動を初めて28年。笑いは、苦しみや悲しみをリセットし「生きる力」になる。そんな思いで、全国各地に笑いを届けてきた。

間六口さん:
私、47都道府県を回らせていただいてるんですが、残りが岩手だけになってました。それできょう47都道府県を達成ということで、本当にね、涙が出るほどうれしいです。皆さんの笑顔にお会いできて、本当に矢巾町、一生忘れません。どうもありがとうございました。
会場は暖かい拍手に包まれた。
笑いの力とこれからの“フーテン”旅
会場にいた87歳の女性は「いま病気中で、お友達がいないとここに来られないような状態」だと明かしながらも、「本当にきょうはね、長生きさせてもらった」と、間さんとの“出会い”を感慨深げに振り返る。

友人が「生き返ったね」と相づちを打つと、女性も「生き返った、生き返った。だって本当に(腹の)底から笑えた」と生き生きとした表情を見せた。

間六口さん:
夢にして良かったなって。夢はかなうもんだなって思いました。やっぱり笑いというのは、人を元気にしたり幸せにしたりする魔法の妙薬みたいなものだと常日頃から思っています。今度はフーテンの寅さんみたいにふらっと各地を訪れてそういうところで皆さんにもう一度喜んでいただけたらありがたいかなと。

笑いで生きる力を届けたいー。全国制覇の夢を成し遂げた間さんの旅はこれからも続く。
(高知さんさんテレビ)