品種名「福岡S6号」。登録商標名は「あまおう」。福岡県で開発されたイチゴで、今やその味と名前は、国内外で知られる高級ブランドだ。その貴重さのため、種や苗は、種苗法(植物の新品種を育成した者に対して知的財産権を付与する制度について定めた法律)で「海外持ち出し制限」品種に指定され“門外不出”となっている。しかし、2025年1月19日、開発者が独占できる「育成者権」が期限切れとなる。
販売単価1位の「あまおう」
福岡県の南部、大木町のビニールハウスで「あまおう」を育てている松永健治さん。8年前に脱サラし、イチゴ農家に転身した。

「一番、生計を立てられる作物だし品種です。スーパーでは今、1200円~1300円くらいしていると思う」と、農作物に「あまおう」を選んだ理由を語る松永さん。他の品種と比べ栽培管理に手間はかかるが、単価の高さが生産者にとっては魅力。「あまおう」は、全国のイチゴの中で20年間、販売単価1位の座を守っているほどなのだ。

福岡県内の農家が、手間と時間をかけてそのブランド価値を守ってきた「あまおう」。生産者にとって、育成者権が切れることは大きな問題といえる。これまで福岡県内だけで生産されてきた「あまおう」が、今後は県外、さらには海外でも生産することが法的に可能になることについて、生産者の松永さんは、どういう影響が出るのか注視しているという。

商標権で「あまおう」ブランド守る
福岡県の農水産物の中で「あまおう」を中心としたイチゴの輸出は、大きな割合を占めていて、2023年は600トン以上、香港や東南アジア各国で大人気となっている。海外でも「あまおう」が生産されるようになると、今後は価格面である程度の競争にさらされる可能性があり、将来的にどれくらいの損失がでるのか不透明なのだ。

福岡県の服部誠太郎知事は「『あまおう』の商標権は、これからもJA全農(全国農業協同組合連合会)が保有していくので、県外産のものに『あまおう』を名乗らせない」と記者会見で語り、「あまおう」ブランドを守る決意を示した。加えて苗についても『生産は福岡県内でのみ行う』という誓約書を生産者に書いてもらい、これをJAに提出した人にだけ販売する方針にしている。これにより仮に苗が流出し、同一品種のイチゴが現れても、福岡県産は引き続き「あまおう」を名乗ることができるが、県外産は別の名前を名乗らなければならない、といった形で区別されることになる。
福岡が生んだブランド果実「あまおう」。そのブランド力を維持、強化していくためには、法的に「あまおう」の商標権侵害に対して厳格に対処していくことになる。

高齢化で減少傾向にあるとされる県内の生産者が、協力して品質や信頼を維持、向上していくことや、今後現れる低価格の“あまおう”と差別化する広報やマーケティング活動も重要となってくる。
(テレビ西日本)