伊豆南部で唯一 分娩業務を行っていた下田市の産科医院が2025年1月で出産の取り扱いを終了することになった。今後は他市の病院が引き受ける予定だが、地域の女性たちは強い不安を抱えている。少子高齢化が進んだ地域での医療の存続や過疎化の問題、そして、行政の対応状況などについて取材した。

少子化の影響による分娩対応の終了

伊豆半島の南部で唯一、分娩を取り扱って来た下田市の臼井医院。

2025年の1月で分娩の取り扱い終了を決めた臼井文男 院長は「少子化だけではないが、一番大きなのは少子化があって、それに伴って病院の経営が大変になる」とその理由を話す。

臼井院長
臼井院長
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臼井医院では約20年の間に分娩の取り扱いが8割ほど減ってしまい、対応を終了するという苦渋の決断を下さざるを得なかったのだ。

臼井院長によると「地域のお産を一手に引き受けている」という一心で続けてきたものの、人件費や機器の更新費用を確保することが難しくなり「そろそろ個人の診療所としてやっていくのはしんどい状況」だという。

移住を考える人が増える可能性も

下田市民の女性
下田市民の女性

この事態に市民は「はっきり言って凄く不安。この先、この街で子どもが産めなくなることに対して。何かあったときに遠い所まで行かなければいけないとなると、生と死に関わる大変ことなので、できれば近くにあれば良い」と強い不安感を吐露する。

下田市民の女性
下田市民の女性

また、別の市民からは「(他地域に)里帰り出産をできる人もいるが、どうしてもこの土地で産まなければならない人もいると思う。その病院がなくなると、産める病院がないのであれば他の市町に移住した方が良いと考える人は多くなると思う」と街を離れる人が増えることを心配する声も聞かれた。

引き受け先の病院では

上山レディースクリニック
上山レディースクリニック

臼井医院ではこれまで下田市の新生児の半数余り、南伊豆町や松崎町など賀茂郡の新生児の約4割の出産に携わっていて、今後、この地域の分娩は上山レディースクリニック(伊東市)と順天堂静岡病院(伊豆の国市)が引き受けることになっている。

上山院長
上山院長

上山レディースクリニックの上山和也 院長は「出生数が減ってきているため、やむを得ないと思う。下田市に限った問題ではなく、伊豆半島全体においても同じような問題がこれから起こってくる」と受け止めを口にする。

一方で上山レディースクリニックの受け入れ自体に問題はなく「(すでに)伊豆半島のかなり広いエリアから当院での分娩受け入れをしていて、ここ最近も増えてきている。(出産の)絶対数自体が少ないので当院としては全く負担にならない」とも話した。

妊婦に課される長距離移動

ただ、心配されるのが物理的な距離だ。

いずれの病院にしても伊豆半島の南部からは車で1時間以上かかってしまうため、これから2人目・3人目の出産を考えている女性たちにとっても悩みが尽きない。

臼井医院で出産した女性
臼井医院で出産した女性

長距離での移動について女性たちからは「陣痛がきている時に自分で運転して行くわけにもいかない。どうしたらいいのか不安」「妊婦の時はつわりがひどかったので、とにかく車酔いがすごくて、なかなか(病院に)着かない。気持ち悪くて休んで(の繰り返し)。車の揺れで、お腹も張ってしまう」といった不安の声が漏れる。

行政の対応は…

松木市長
松木市長

こうした状況に下田市の松木正一郎 市長は「産む場所という意味で道路網が脆弱な地域にとって、いつ生まれるかわからない、夜かもしれないというところで、非常に大きな課題ととらえている」というが、下田市として現在に至るまで臼井医院を支える取り組みをしてこなかったのも事実で、松木市長は新たな産科医院の誘致などを目指していく考えだが現実には簡単なことではない。

上山レディースクリニックの上山院長は「(産科医院の減少は)伊豆半島全体の問題で、例えば経営面の問題など、当院も分娩数が減少すれば、ここで分娩経営を維持していくことは難しくなる可能性ももちろんゼロではない。例えば県や国の方からもらっている補助をさらに充実してもらえれば、医療機関は救われるのではないかと思う」と課題解決に向けた行政の対応を求めている。

地域の出産を支えてきた産院による分娩業務の終了により人口減少に拍車がかかってしまわないか…

地域の女性や妊婦を守るためにも、そして伊豆半島の南部の過疎化を進行させないためにも行政には重い課題が突き付けられている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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