「『知っていて選ばない』ことと『知らないで選べない』ことは違うんだ」

これは、若い世代がどのような人生設計を希望しているのかを知るため、こども家庭庁が行った検討会で、若者から出た意見だ。「プレコンセプションケア」という言葉を知っているだろうか。「プレコンセプションケア」とは、「男女ともに性や妊娠・出産に関する正しい知識を身につけ、健康管理を行うよう促すこと」を意味する。

こども家庭庁は、2024年11月、「プレコンセプションケアの提供の在り方に関する検討会」を立ち上げた。しかし、この言葉自体が知られていないのが実情だ。どうして「プレコンセプションケア」が重要なのか。

男女関係なく知識を…「プレコンセプションケア」とは?

日本で初めて「プレコンセプションケアセンター」を開設した国立成育医療研究センターの三戸麻子医師に話を聞いた。

国立成育医療研究センター 三戸麻子医師
国立成育医療研究センター 三戸麻子医師
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――「プレコンセプションケア」とは?
国立成育医療研究センター 三戸麻子医師:
直訳すると「妊娠前のケア」という意味になります。妊娠を意識している人だけに必要なのかなと思われがちなんですけれども、実は、妊娠を希望しない全ての方にも必要なケアなんです。

この「プレコンセプションケア」について、男女関係なく必要だと三戸医師は話す。

国立成育医療研究センター 三戸麻子医師:
もちろん、女性・男性関係なく必要です。というのも、女性だけが気を付けていればうまくいくものではないからです。例えば、性感染症などの病気撲滅にも繋がるかと思います。男性も年齢が上がるにつれて総合妊娠率が下がっていくといった一般的な医学的な知識も知っておくべきかなと思います。

「プレコンノート」にはプレコンの具体的な方法などが載っていてネットからダウンロードも可能だ
「プレコンノート」にはプレコンの具体的な方法などが載っていてネットからダウンロードも可能だ

――具体的な「プレコンセプションケア」の例を教えていただけますか?
国立成育医療研究センター 三戸麻子医師:
一つは「生活習慣を整える」というところになります。あとは「ヘルスリテラシー」ですね。「正しい健康情報にアクセスして、自分でそれを解釈し、活用する力」を高めるといったことがあります。

具体的には「例えば、赤ちゃんのある病気の確率を減らすことができる『葉酸サプリ』は、妊娠に気づいてから飲むのだと遅いということもあるんですね。時間の影響を受けやすい部分ですので『知っていたらよかった』『飲んでおけば良かった』というようなことが一人でも減るようになればいいなと思います」という。

医師や管理栄養士による”オーダーメイド”のカウンセリングが受けられる
医師や管理栄養士による”オーダーメイド”のカウンセリングが受けられる

国立成育医療研究センターの「プレコンセプションケアセンター」では、「プレコンチェックプラン」というのを行っているという。栄養と、その人の今の健康状態を評価して、医師や管理栄養士がカウンセリングしている。

また「プレコン相談外来」というのも行っていて、妊娠・出産に関係するあらゆる悩み事について、専門家がカウンセリングを行っている。例えば、「漠然と妊娠・出産なんとなく怖いんだけど…」という方ももちろん大丈夫ですし、「この薬を飲みながらの妊娠・出産というのは大丈夫でしょうか」といった具体的なものもあると三戸医師は話す。

男性用と女性用それぞれのチェックリストも
男性用と女性用それぞれのチェックリストも

――どんな方が利用されていますか?
国立成育医療研究センター 三戸麻子医師:
不妊治療中で自分の健康状態をチェックしたいというカップルも来られますし、中学生がお母さんと来られたりもします。婚姻届を出した時に自治体で勧められて来た方や、おばあちゃんが孫の就職祝いに検診をプレゼントしてくれたといったこともありました。

こども家庭庁の検討会では、プレコンセプションケアについて、「知ろうとしない人でも知識を得られるシステムを作ることが重要だ」との意見も出た。

三戸医師に「今後どういったシステムが必要だと思うか」尋ねたところ「例えば、ワクチンを打ちに来た時に、プレコンセプションケアのカウンセリングがセットになっているとか。できれば教育現場とかでもそうしたことができるようになると素晴らしいのではないかなと思います。全国、誰が行っても同じ質を担保できるようなシステム作りも必要です」と話した。

「プレコンセプションケア」独自に取り組む企業たち

一方、福利厚生として独自にプレコンセプションケアに取り組む企業も増えている。

PR会社大手「サニーサイドアップグループ」は、2022年、卵巣の中に残っている卵の数の目安を調べる「AMH検査補助」を導入した。検査費用を補助する制度で、導入後約4カ月で女性社員の15%が利用したという。その後、「男性も自分の身体と向き合うことのできる制度を導入して欲しい」という社員の声を元に、「精液検査補助」も導入した。

複利厚生サービスを提供する「ファミワン」は、2024年11月、大成建設の従業員とそのパートナーを対象に、看護師や臨床心理士による「プレコンセプションセミナー」をオンラインで開催した。セミナーの受講者には、ライフプランを検討する一つのきっかけとして、「AMH検査」と「精液検査」の自宅検査キットの配布も行った。また、LINEで健康相談ができるサービスも提供しているという。

ライフプランを考える一つのきっかけとして”卵巣年齢”をセルフチェックできる検査キットの配布も 
ライフプランを考える一つのきっかけとして”卵巣年齢”をセルフチェックできる検査キットの配布も 

結婚や出産は個人の自由な意志決定に基づくものであることは大前提だ。一方で、検討会では「いつでも妊娠できると思ったけど違った」「情報が溢れる中で、詳しく知ろうとすればするほど正しい情報を得るのに苦労した」といった声が聞かれ、自由な意志決定をするための情報が当事者に届いていない状況が明らかとなった。

若いうちから「プレコンセプションケア」が身近になれば、納得のいくライフプランを描きやすくなるように思う。正しい知識や情報を得たうえで、自分の人生を「選択」できる環境を整備することが大切だと改めて感じた。

こども家庭庁は、2025年春ごろまでに「プレコンセプションケア」について今後5年間に行う施策の方針をとりまとめる予定だ。
(フジテレビ社会部 松川沙紀)

松川沙紀
松川沙紀

フジテレビ社会部・省庁キャップ こども家庭庁担当