1月20日に米第47代大統領に就任するドナルド・トランプ次期大統領は、ホワイトハウスに入る前に大統領令に署名するなど異例の段取りで政権をスタートさせるようだ。
「午後2時ごろには始まる」就任式後に最初の大統領令か
トランプ次期大統領は2024年12月22日、アリゾナ州フェニックスで開かれた保守派の集会でこう述べた。

「みんな待ちくたびれているかもしれないが、新政権が始動するまであと数日待ってほしい。必ず準備万端整ってスタートするから。そうだなぁ、(1月)20日の午後2時ごろには始まるから」(「ハフポスト」2024年12月24日)
新大統領の就任は1月20日、正確にはその日の正午とすると連邦憲法修正20条第1節に定めてある。加えて連邦憲法第2条第1節8項は、「職務を忠実に遂行し、全力を尽くして合衆国憲法を維持、保護、擁護することを宣誓しなければならない」と規定しているので、大統領の権限が備わるのは宣誓の後ということになる。

就任式は連邦議会の西正面で行われ、まずJ.D.バンス新副大統領が演壇に上って宣誓を行い、その後、正午を機して新大統領がメラニア夫人が掲げ持つ聖書に手を置いて宣誓を行う。その後、新大統領の就任演説、軍楽隊の演奏や歌手の歌い上げなどがあって就任式が終わる。午後1時ごろから連邦議会で議員たちとの昼食会、そして午後3時ごろから約2時間、連邦議会からホワイトハウスへパレードも行われる。さらに午後7時ごろからはワシントン市内の複数か所で「祝賀ダンスパーティー」が始まり、トランプ新大統領夫妻とバンス新副大統領夫妻が参加する。こうして大統領の「就任初日」はいわば「分刻み」で続くので、大統領の公式の職務は翌21日からスタートさせるのが通例だ。

しかし、前回2017年のトランプ政権第1期の場合、トランプ大統領は、パレードが終わってダンスパーティーが始まるまでのわずかな隙間の時間帯に、最初の大統領令に署名している。これは前任者のオバマ前大統領が導入したいわゆるオバマケアの医療改革制度を縮小するよう命じたもので、トランプ大統領は「就任から数時間以内に同制度を撤廃する」と公約していたので、ホワイトハウスに急遽執務室を設定して署名したものだった。
それを今回は「午後2時ごろから」とさらに早めると次期大統領は予告した。連邦議事堂で就任式が終わり議員たちとの昼食会前後になるわけで、ホワイトハウスへのパレードが始まる前だ。つまり、トランプ次期大統領は官邸入りする前にその職務をスタートするという、極めて異例な展開になる。
「米国史上例を見ない不法移民の強制送還」非常事態宣言も検討か
その最初の職務だが、次期ホワイトハウス副主席補佐官のスティーブン・ミラー氏は「トランプ次期大統領は大統領就任初日(day one)に複数の大統領令を発して国境を閉鎖し、米国史上例を見ない不法移民の強制送還作戦を始めるだろう」と言った。
これは、2024年12月3日のFOXニュースの番組のインタビューに答えたもので「新大統領はすべての合法的、外交的、財政的な手段を使って、不法移民の流入を阻止する」とし「世界が変わるような衝撃をもたらすはずだ」と述べている。(「ザ・デイリーフェッチド」2024年12月4日)

まず移民・税関執行局(ICE)などの連邦機関に対して不法移民の摘発を指示する大統領令の署名から始まることになるようだが、これに地方の保安官や警察官も職務質問や逮捕など移民法執行官として活動できるよう職務権限の拡大も発令するだろう。
また地方によっては、行政がICEの摘発を妨害するようなことも予想できるので、その場合は州兵を派遣して支援させることを命令することも計画している。

そうして摘発した不法移民を収容する収容施設も必要になり、すでにテキサス州から提供されたメキシコ国境に近いテキサス州リオグランデ近郊の1400エーカー(約567ヘクタール)、東京ドーム120個分の土地で建設がはじまる。
さらに、強制送還される不法移民を相手国が受け入れるよう求め、協力しない国には米国入国ビザの発給を制限する措置も検討される。
このように不法移民の強制送還手続きは多岐にわたるので、トランプ次期大統領は国家非常事態を宣言して強制送還を迅速化することも考えていると伝えられる。

トランプ新政権で移民問題を取り仕切る「国境皇帝(Border Czar)」に任命される予定のトム・ホーマン氏は、警察官出身で不法移民の国外追放を主張しており、移民を保護する「聖域都市(Sanctuary City)」を敵愾視しているが、その代表的な都市であるイリノイ州シカゴで2024年12月10日、保守系の集まりで次のように演説した。
「我々は(不法移民の摘発を)ここイリノイ州シカゴから始めます。シカゴ市長が協力をしたくないというなら傍に退いていてください。もし不法滞在者を故意に匿ったり、隠したりして我々を妨害するのであれば、市長と言えども訴追します」(「ブライトバート・ニュース」2024年12月11日)

トランプ2.0の「就任初日」は、その立ち上がりの速さだけでなく、政策的にも波乱万丈の異例のスタートになりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】