掛川市では毎年全国規模のアーチェリー大会が開催され、国内トップクラスの選手やオリンピアンが訪れている一方、そのことについて市民もあまり知らない。こうした状況を打破しようと発足したプロジェクトの取り組みについて取材した。

低い認知度…減少する部員

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国内に約1万3000人の競技人口を有するアーチェリー。

浜松商業高校のアーチェリー部に所属する2年生の部員は「矢を構えるときのかっこよさや打った時の音の爽快感がすごくかっこいいと思ったので入部した」と話す。

全国大会を制するなど静岡県内屈指の強豪で、オリンピック選手も輩出している浜松商業高校では現在14人の部員が練習に励んでいる。

アーチェリー部の兼次萌風 顧問によると「経験者は本当に稀で(部員の)98~99%は高校から始めている。メリットは他の盛んなメジャースポーツに比べ活躍の場が多いこと。アーチェリーは文化的な面もあり、運動が苦手な人でも高校から始めて努力次第では全国大会への切符をつかむこともできる」という。

ただ、部員達には「アーチェリーがマイナーな競技で認知度が低い」という悩みもあり、1年生の部員からは「サッカーやバレーボール、バスケットボールのように有名なスポーツになってほしい」という声も聞かれる。

県高体連によると、県内でアーチェリー部が活動している高校は現在わずか7校で、練習場所や部員を確保できないことなどを理由に最盛期の半分にまで減ってしまった。

民間主導のプロジェクト発足

こうした中、2024年11月に掛川市でアーチェリーの認知度向上と同時に競技の聖地化を目指す民間主導のプロジェクトが発足した。

県アーチェリー協会の永田政司 理事長は「マイナーなスポーツなので、やっている人はしっかりやれるけど、外部の人につま恋でやっていることが知られていない。掛川を聖地にして頑張っていきたい」と意気込む。

なぜなら、掛川市にある「つま恋リゾート彩の郷」は国内外のナショナルチームが代表合宿を行ったり、国内トップレベルの大会や各世代の全国大会が毎年行われており、アーチェリーの選手や関係者たちにはよく知られた場所となっているからだ。

しかし、「つま恋でアーチェリーの全国規模の大会が毎年開かれているのを知っているか」と市民にたずねてみると、「それは知らない」「全然知らなかった。初耳」という答えが多いのも事実。まずは認知度の向上が急がれる状況だ。

手本は“フェンシングの街”

プロジェクトが手本としているのは“フェンシングの街” として存在感を放っている沼津市。

沼津市は2019年に日本フェンシング協会と包括連携協定を結んでおり、選手の育成や国際大会の誘致に力を入れると共に練習場を整備し、パリオリンピックの前にはフルーレ代表が男女ともに事前合宿を行うなどの実績を持つ。

関係者が一堂に会した会議

会議では、「つま恋リゾート彩の郷」の足立雄高 総括支配人が「アーチェリーができる場所自体もそんなに全国的にもないし、そこに宿泊施設(もあり)食事ができるというフルパッケージで提案できるのはつま恋の強みだと言われている」と既存のインフラが競技関係者に認知されている状況について説明した。

会議に参加した掛川市協働環境部・赤堀純久 部長は「市だけでは(プロジェクトの実現は)当然難しい。そういう中でアーチェリーの関係者が一堂に会する場ができたことは、非常に大きな一歩になる」とプロジェクトの始動に期待を寄せている。

また、県アーチェリー協会・小笠原康二 理事は「行政の協力をもらえる形にはなるが、行政も偏った支援はできないので、自分たちでどういったことをやっていかなければいけないのか、整理のきっかけになった」と述べた。

今後、プロジェクトでは小学生を対象とした体験会を開催するほか、将来的に地域の部活動としてアーチェリーを組み込めないか検討していく考えだ。

市議会でも「聖地化」を

プロジェクト発足から9日後に開催された掛川市議会では、山田浩司 議員から「掛川市をアーチェリーの聖地として全国に発信し、地域活性化につなげていくべきと考えますが、見解を伺います」と質問があり、久保田崇 市長は「この地域は、そうした(全国規模の)大会をやっているからこそ、ファンもアーチェリーを目指すみなさんもたくさんいるとなるように、聖地化について私としても努力していきたい」とプロジェクトに積極的な姿勢を示した。

メジャーなスポーツとは言えないがゆえに、すぐに大きなうねりを生み出すことは簡単ではない。

しかし、ゆくゆくは「アーチェリーと言えば掛川」と言ってもらうべく、その第一歩を踏み出した。

(テレビ静岡)

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