トランプ政権第2期もまだスタートしないというのに、3期目の可能性がワシントンで取り沙汰され始めた。
「任期が連続しない大統領」は任期を制限されない?
トランプ政権第1期で首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏は15日、ニューヨークの「若い共和党員クラブ」の年次パーティで演説し、トランプ次期大統領に近い法律家マイク・デイビス氏の見解を引用して「大統領の任期を2期に制限する憲法条項は、連続せずに就任する大統領にも適用するとは書いてない」と話した上でこう言った。
「そう具体的に書いてないのなら、もう一回2028年に(トランプを推挙することを)やってもいいのじゃないか?君らはその準備ができているかい?トランプ2028!やろうじゃないか!」

ちなみに、合衆国憲法には起草時に大統領の任期を規定する条項はなかった。建国の父ジョージ・ワシントン初代大統領が3選を固辞して引退して以来、米国の大統領の任期は2期限りとすることが不文律になっていた。その後、32代のフランクリン・ルーズベルト大統領の時代になって「大恐慌」と「第2次世界大戦」に対応するために例外的に4選まで認められたが、同大統領の死後「やはり多選は慎むべき」という声が上がり、大統領の任期を規制する合衆国憲法修正第22条が1951年に制定された。その第1項にはこうある。
「何人も、大統領の職に2回を超えて選出されることはできない。他の者が大統領として選出された任期の間に、2年以上大統領の職を保持しまたは大統領の職務を行った者は、大統領の職に1回を超えて選出されることはできない。(以下省略)」(アメリカンセンター訳)

これを平たく言い直すと「誰も大統領に2回以上は選出できない。大統領が死亡などで退任し代行者が後を継ぐような場合、前任者の残る任期を2年以上果たせば、代行者の残る任期は1期になる」ということになる。どこにも「任期が連続しない大統領には適用しない」とも「する」とも書いてないのだ。
例えば、1963年11月暗殺されたジョン・ケネディ大統領は任期が約1年2カ月しか残していなかったので、後継のリンドン・ジョンソン大統にこの制限は当たらず、ケネディ大統領の残る任期約1年2カ月+自らの2回の任期8年=9年2カ月大統領職を務めることができるはずだった。(現実には、ジョンソン大統領は1968年の再選選挙には出馬しなかった)

大方の憲法学者は、「大統領が2期以上の再選を探るような修正第22条をダメにする法律の抜け穴は存在しない」と解釈している(「ハフポスト」12月17日)ようだが、「書いていないことは議論で決められる(unwritten rules can be open to debate)」というのが米国式の発想なのか、バノン氏のような解釈もまかり通ることになる。
「憲法会議」という“奥の手”
トランプ次期大統領もこうした動きにはまんざらでもないようで、13日、共和党下院議員団との会合で冗談めかしてこう言った。
「次の選挙のことだけど、君らが何か動きを起こさない限り僕は出馬しないよ。君らが『彼(トランプ)はいいじゃないか。(3選に向けて)何か考えなければ』と言わない限りはね」

その「何か」だが、最近浮上してきたのが憲法を改正してしまうという発想だ。
合衆国憲法の修正を発議するには上下両院でそれぞれ3分の2の賛成が必要と決められている(合衆国憲法第5章)。第2期トランプ政権下で共和党は、上下両院でギリギリ過半数を占めているだけなのでこれは無理だが、第5章には次のような条文が続いているのだ。
「または、3分の2の州の立法部が請求するときは、修正を発議するための憲法会議を招集しなければならない」

今回の選挙の結果、全米50州中28州の議会が共和党支配、18州が民主党支配で4州が同数となっている(NCSL調べ)。これなら地方議会工作をして3分の2州の請求をまとめられる可能性もあるし、2年後の中間選挙で達成することも可能なので、民主党側は「憲法会議」に危機感を募らせていると言われる。(ニュースサイト「DNyuz」12月16日)
いずれにせよ、米国史上2人目の大統領カムバックを果たしたトランプ次期大統領は、次に、やはり(4期改選されたフランクリン・ルーズベルト大統領に次いで)史上2人目の2期以上の再選を狙って米政界を賑わすことにもなりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】